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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第四章 ほしぞらとともに
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第三十五話 僕に出来るプレゼント

「それじゃ、妾は自室に戻るのじゃ。」


「あぁ。……"もうひとつの悩み"は大丈夫そうか?」


 宿に戻り、部屋の前で別れを告げるグリムに、俺は問い掛ける。


 グリムの"もうひとつの悩み"……。

 ブランカ会長との会話からその凡そを察している俺は、その悩みが近く解決するであろうことを知っている。


 だが訳あって、その事を俺の口からグリムに伝える事は出来ない。

 ……正直もどかしい気分だけどな。


「うむ。もうひとつは妾自身の問題じゃからな。自分で解決してみせるのじゃ。」


 そう言って微笑むグリムは、いつもよりちょっとだけ大人っぽく見えた。


 うん。

 これなら大丈夫そうだな。


「わかった。それじゃ、おやすみ。」


「うむ。おやすみなのじゃ!」


 そうして俺は自室へと戻り、ベッドに入った。


***


(あ、まただ……。)


 深夜――。

 ベッドで眠っていた俺は、布団に入り込もうとする小さな気配に気付き、目を覚ました。


「……やっぱりグリムか。」


 目を開けて布団を捲ると、そこにはグリムが居た。


「れてぃーな……。」


 不安そうに俺を見つめる顔は、やはり酒を飲んだように朱を帯びている。


 たぶん、ロロやミリィと同じだ。

 酔ってないのに酔ってるような状態になる、謎の現象。


 だが微少な可能性として、夜中に例の"もうひとつの悩み"が膨れ上がって不安になってしまったって事もあるかもしれない。


「どした? 眠れなかったか?」


 俺はグリムに優しく問う。


「…………じゃろうか?」


「ん?」


 小声過ぎて聞き取れなかったグリムの言葉を、よく聞こうと耳を近づけた俺に……


「妾は……可愛くないのじゃろうか?」


 グリムはそう、囁くように問い掛けた。


「え? いやいや! そんな事ないぞ!? 可愛いって!」


 何故グリムがそんな事を問うのかは分からないが……

 だが不安な表情で問うグリムに、俺は全力でフォローする。


「しかし……妾はいつもレティーナに無愛想にしてしまう……。シャルやロロやミリィのように、素直になれぬのじゃ……。」


 涙目になるグリムに、俺が逆に慌てる。


 あーもー!


「ほら! 大丈夫だ!」


 そう言いながら、俺はグリムをぎゅっと抱く。

 胸に抱かれたグリムは、しばらくすんすんと鼻を啜っていたが……


「あったかい……のじゃ……。」


 しばらくすると、安心したのか落ち着いてくれた。


 ほっ。

 とりあえず大丈夫そうだ。


「のう。レティーナ……。」


 俺が心の中で胸を撫で下ろしていると、グリムが口を開く。


「今夜は……このまま一緒にいてもよいか?」


 潤んだ瞳でそう問うグリムを、もはや俺は拒絶出来なかった。


 そうして俺たちは、同じベッドの中で……


***


(全く……どーなってんだろうな……。)


 翌朝――

 目を覚ました俺は、隣で眠るグリムの可愛い寝顔を眺めながら心の中で呟く。


 ロロとミリィはまだ理解出来ないことも無いんだが……

 "こーゆー事"に一番抵抗を持ってそうなグリムまでもがこの有様だ。


 何者かの陰謀……とも考え辛い。


 ハニートラップにしても、俺に全く"損"が無いのだ。

 ……つーか"得"しかしてないぞ。マジで。


(まぁ害が無いならほっといてもいいんだろうけど……なんか引っ掛かるんだよなぁ……。)


 原因が分かれば安心できるんだけどなぁ。


 と、そんな事をベッドの中で考えていた俺の耳に――


「レティーナさまぁっ!!」


 廊下からシュレムの声が響いた。


 ……うん。

 これももはやパターンだな。


「お、おぉ。どした?」


 ドアを開けると、相変わらずの焦り顔を浮かべたシュレムが居た。


 また馬車に何かあったのだろうか?


 ……ってあれ?

 馬車はまだ修理から戻ってないよな……?


「それがっ……! 今回は馬車じゃなくてっ……!!」


「?」


 焦るシュレムに伴われて、俺は部屋を出た。


***


「うわーお……。」


 宿の外へと連れ出された俺は、宿入り口側の壁を見て呆れ混じりの驚きの声を上げる。


 そこには赤い塗料で大きな"落書き"がされていた。

 曰く――


『魔王の娘よ 今すぐ引き返せ』


 と。


「こりゃまた……熱烈な嫌がらせ(ラブコール)だな……。」


 昨日まで無かった事を考えれば、夜の間に書いたのだろう。


 暗い中がんばったんだろーなぁ。

 その苦労を思えば、ショックよりも同情してしまう。


「さて、どうすっかな……。」


「そうですよね……。ここまでされたら、もう王都に向かうのは諦めるしか……」


「ん? あぁ、その話じゃないぞ?」


 シュレムが「えっ?」と驚いている間に、俺は右手を握る。


「よっ、と。」


 そうして俺の手元に現れたのは……"高圧洗浄機"だ。


――ブシュァアアアアアアアアア……!!


「こんなん残しといたら、宿に迷惑掛かっちまうからな。」


 俺がトリガーを握ると、ノズルの先端から猛烈な勢いで洗浄剤が噴射される。

 壁にベッタリと貼り付いていた塗料も、現代科学の力の前にはなすすべなく屈していく。


 低騒音を謳っている商品だけあって、音は控えめだ。

 この時間に使っても周囲に迷惑は掛からないだろう。


「ん。こんなモンか。」


 落書きもすっかり消え、なんなら元々壁に付いていた汚れも綺麗にしてしまった。


「こいつは必要なかったな。」


 念のため一緒に出した"伸長用ノズル"を俺は仕舞う。

 落書きが低い位置に書かれていた為、元々の長さで事足りたのだ。


「さて、そろそろ皆も起きる頃だ。朝ご飯食べよーぜ?」


「えっ!? で、でもっ……!」


 まだ何か言いたげなシュレムに、俺は微笑んで告げる。


「安心しろ。何かあったら……俺が守ってやっからさ。」


***


「「「「いただきまーす。」」」」


 起きてきた幼女たちと共に食べる朝食――。


 その途中で、隣に座るグリムが俺にこそこそと耳打ちする。


「の、のう。レティーナ。妾は、その……昨晩お散歩の後、きちんと部屋に戻ったかの……?」


 少し顔を染めて問うグリム。


 あぁ。

 起きたのが俺の部屋だもんな。


「あぁ。でもその後……グリムが自分から俺の部屋に来たんだぞ?」


 おそらくロロたちと同じで記憶にないのだろう。

 俺が小声でそう伝えると、グリムは顔を真っ赤にした。


「う、嘘じゃ……! 妾がそんな事をするはずなかろう……!!」


 そう言われてもなぁ……。


「嘘じゃないって。なんならグリムがその時なんて言ったか、教えてやろうか?」


 俺がそう返すと、グリムは更に顔を染めた。

 何を言ったかは覚えてなくとも、何か言ってしまった事は察したのだろう。


「忘れろっ! 今すぐ忘れるのじゃぁっ!!」


 羞恥に顔を染めながら、俺をポカポカと叩くグリム。


 ちょ! やめっ!!

 コーヒー零れっから!


「あぁもう! ゴメンって! お詫びに……グリムにはちょっとしたプレゼント用意してっから。」


「……プレゼント?」


 まだ顔の赤いグリムは、俺の言葉にポカポカを止める。


「ん。まぁ俺からっつーか……みんなからだけどな。」


 俺がそう言って朝食の席を見回すと、幼女たちはグリムにニコッと笑う。


 さて。

 そんじゃグリムの好きな……"サプライズ"をプレゼントしてやるか。

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