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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第四章 ほしぞらとともに
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第三十話 いくらでも待ってあげるから

「では行ってくるのじゃ!」


 ブランカ会長との約束の日――。

 いつもよりも少し落ち着いた雰囲気の服装をしたグリムは、宿の扉の前で俺たちにそう告げた。


「皆はお店巡りを楽しんでくれ! 妾は……妾のすべきことをするのじゃ!」


 まるで戦場へと赴く兵士のように――

 キリッと眉を上げて凛々しい表情を見せたグリムは、そう言ってトーヴァ本店へと向かっていった。


「さーて、そんじゃ俺たちも行くかー。」


 馬車が修理中の為、今日は一日まるっと予定が空いている。

 その為グリムも言っていたように、今日は幼女たちとこの街のお店巡りをして楽しもうという話になったのだ。


 なったのだが……


「あれ? みんなどーした?」


 シャルもロロもミリィも、どこか浮かない表情を浮かべている。


「……レティ。……いいのかな?」


「ん?」


「お店巡りを一番楽しみにしてたのはグリムちゃんなのに……」


「そのグリム殿を差し置いて、我々だけ楽しむというのは……なんだか気が引けるであります……。」


 あー、それでか。


 ふむ。だったら……


「んー……じゃあ三人には、俺から任務(ミッション)を与えよう!」


「「「???」」」


 俺は幼女たちに"ある提案"をした。


 その提案を聞いた幼女たちは、先程まで曇っていた表情に明るさを取り戻す。


「おぉ! それはいいでありますな!」


「……さすが……レティ。」


「そうだね! わたしも賛成だよー!」


 こうして俺は、元気になった幼女たちや妹たちを連れて、アーミセイジの街を楽しんだ。


 洋服店やアクセサリーショップ、雑貨店を巡り――

 歩き疲れたら喫茶店に入ってパンケーキを頂いたりして――


 夕方になる頃には、流石に足がクタクタになっていた。


***


「疲れたァ~!」


 俺は宿のロビーにあるソファにダイブする。


 幼女たちはお店巡りから帰って部屋に戻った。

 今は……おそらく三人で"作戦会議"でもしているのだろう。


「あら、お嬢さま。お疲れさまですわ。」


 留守番をしていたエリノアが、ロビーでゴロゴロしている俺に気付いて声を掛ける。


「ん。わりぃな。留守番させちまって。」


「いえ。おかげさまで疲れが取れましたわ。」


 なんだかんだエリノアには働いてもらう事が多かったからな。

 今日一日はゆっくりしてもらっていたのだ。


「ところでグリムさんなんですけど……まだお戻りになってませんの。」


「ん? そーなのか?」


 てっきり先に戻って来ているものだと思っていたが……会長との件が長引いているのだろうか?


 そろそろ日も落ちる。

 迎えに行ってやった方がいいかな?


 俺がちょうどそう考えていた時、控えめな音と共に、宿の扉が開いた。


「お、グリム。おかえり~。」


 扉の前に立つグリムに声を掛けた俺に、しかしグリムは、


「……ただいま……なのじゃ。」


 と、力無く返事を返すのみだった。


「? ……どうした? 何かあったのか?」


 俯いたグリムは、俺の問い掛けに、


「……なんでもないのじゃ。」


 とだけ返し、階段を上っていく。


「あの、グリムさん? そろそろお夕飯になりますけど……」


「……すまぬが今日は遠慮させてもらう。皆で食べてくれ。」


 エリノアが掛けた声にも、グリムは小さく返して、そのまま部屋へと戻って行った。


「お嬢さま……。どうしましょう……?」


「……。」


 何かあったのは間違い無いだろう。


 じゃなきゃ……あんな悲しそうな顔はしない。


「……後で様子見てくる。とりあえず夕飯にしよう。」


「……わかりましたわ。お願いしますわね。」


***


――コンコン。


 夕食後、俺はグリムの部屋の扉をノックした。


「グリムー。入っていいかー?」


「……すまぬ。しばらく一人にしてくれ。」


 だが扉の向こうから返ってきたのは、拒絶の言葉だった。


「ん。わかった。」


 俺はすんなりと了承する。


 そして――しばらくの時間が過ぎる。


「……いつまでそこに居るのじゃ?」


 いつまで経っても立ち去る足音が聞こえない事で、部屋の中のグリムも気付いたらしい。


 俺はドアの前で、三十分程棒立ちしていた。


「ん? グリムの『しばらく』が過ぎるまで。」


 俺は当たり前のように返す。


 そりゃそーだろ。

 放っておくなんて出来るわけない。


 顔を合わせたくないなら、それでもいい。


 それでも……せめて傍には居てやりたいんだ。


「……妾がこのまま寝てしまったらどうする?」


「そしたら明日の朝まで待つよ。」


「……嫌じゃ。レティーナに迷惑を掛けたくない。」


「迷惑なんて思ってねぇよ。」


 扉越しに、沈黙の時間が過ぎる。


 やがて――カチャリ、と控えな音を立ててドアノブが回る。


 ドアを開けたグリムの目は――泣いていたのだろう。

 少しだけ赤みを帯びていた。


 だが――まだちょっとだけ涙声のグリムは、


「お主は……いつもそうじゃな。」


 そう言って、小さくフッと笑った。


「あの時も……そうじゃった。無理やり連れ出す事も出来た筈なのに……何故いつも待ってくれるのじゃ?」


 また少し瞳に涙を浮かべたグリムを、俺はぎゅっと抱き締める。


「なんでだろな? 多分……グリムなら、自分から出て来てくれるって信じてるからかもな。」


 腕の中のグリムは、ぎゅぅっと俺を抱き返す。


 グリムの涙が零れなくなるまで――俺はその小さな身体を、胸に抱き続けた。

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