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魔王の長女に転生したけど平和主義じゃダメですか?  作者: 初瀬ケイム
花降り編 第四章 ほしぞらとともに
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第二十八話 飛び跳ねるくらい美味しいよ♪

 ミリィの故郷である湖畔の街"イヴァラム"を離れた俺たちは、裏道から大通りへと進路を変えて馬車を進めていた。


 次の目的地はグリムの希望で、この先にある大きな街――


 流行の街"アーミセイジ"だ。


「むふふ~♪ 楽しみなのじゃ~♪♪」


 ルンルン気分のグリムを見れば察せられるように、この街はグリムの大好きな"ファッション"の聖地らしい。


 魔族領における流行の最先端。

 有名ブランドの旗艦店が多く出店しており、新たなファッショントレンドはこの街から生まれ、魔族領全域へと広がるのだそうだ。


 俺としては、正直そこまでファッションに興味は無い。


 だがまぁ元々魔族領王都に向かう進路上にある街だ。

 宿も取れるだろうし、人間領で留守番してくれてる従者のみんなへのお土産も買えるだろう。


 それに……


(こんなに楽しそうにしてるグリムを見たら、寄らないわけにはいかないもんな。)


 馬車に揺られながら、ハイテンションで他の幼女たちと話すグリム。


 ん。

 こーゆーのも"旅の思い出"としては大事だ。


 そんな事を考えながら、微笑ましく幼女たちを眺めていた俺は……


「たっ、助けてくれぇぇぇええええええええ!!!」


 馬車の後方から響いた悲痛な叫び声を耳にして身を起こした。


「……なんだ?」


 馬車の後方へと目を向けた俺は、


「……げ。」


 と、思わず口にしていた。


 走行中の俺たちの馬車の追うようにして走る、一台の商用馬車。


 その御者席に座るのが、先程聞こえた叫びの主なのだろう。

 今も青ざめた表情で、必死に馬車を走らせている。


 そしてその商用馬車を追うように……


 否、まさに商用馬車を追いかけて馬を走らせているのが――


「おぅ待てやゴラァあああああああ!! 」


 三人の……半裸の男たちだった。


 どう見ても真っ当なご職業には就いていなさそうな方々。


 ここが世紀末の世界なら「ヒャッハー!! 水だー!!」とでも叫んでいそうな容姿をした――


 まぁぶっちゃけ"盗賊"だった。


「ひ、ひぃぃいいいい!!!」


 商用馬車の御者は、必死に馬車馬に鞭を入れている。


 俺たちの乗る馬車もそれなりに高性能なものなのだが……商用馬車だけあって、どうやらあちらもかなり性能の良いものらしい。


「ちょ、えっ!? オイ!!」


 商用馬車は俺たちの馬車の横を、すり抜けるように追い越して行く。


 追い抜かれざまに一瞬だけあちらの御者と目が合ったが……


 御者はすぐに目を逸らし、そのまま俺たちを追い抜いた。


「マジか……。」


 この状況がこの後どうなるかを考え、俺は心の中で舌打ちする。


 先程も言ったが、俺たちの乗る馬車もそれなりに高性能――つまり"立派な"馬車なのだ。


『馬車内にいるのは幼女ばかりで、金目の物なんて運んでいない。』


 ――などという事は、馬車を止めて中を検めなければ分からない。


 だとすれば後方から迫る盗賊さんたちの考える事は……


「兄貴ィ! あの馬車も随分立派ですぜェ!!」


「オウ! 標的変更だ! アイツを襲うぞォ!!」


 あぁ……やっぱり……。


 クッソ!! あの商用馬車の野郎ッ!!

 これじゃ完全にオンラインゲームのMPK(モンスターなすりつけ)と一緒じゃねぇかッ!!


(どうする……?)


 逃げる……のは厳しそうだ。

 後方の盗賊との距離は今も少しずつだが詰まってきている。


 ならば取れる選択肢としては……"降伏"か、"迎撃"か……。


 もし降伏するのであれば、俺の"力"で宝石なり貴金属なりを出して、それを差し出す代わりに見逃して貰うってことになるだろう。


 但し、相手は盗賊どもだ。

 それで見逃してくれるという保証は無い。

 金品だけ受け取ったら、用済みだとばかりに切り捨てられる可能性も十分にある。


 無論、迎撃にも危険は伴う。

 俺も幼女たちも、直接的な攻撃を行うような"力"は有していない。


 奇襲をかけるにしても相手の盗賊は三人……。

 余程上手くやらない限り、一度に全員を仕留めるのは困難だ。


 頭を悩ませていた俺は――

 直後馬車を揺るがす衝撃に思考を中断された。


――ズガァッ!!


「「「きゃぁあッ!!」」」


 幼女たちから悲鳴が上がる。


 何をされたかと馬車の後方を見れば――

 盗賊の一人が、弓を構えていた。


「チッ! 頑丈な馬車だ……。」


「オウ! オメーの"呪装の矢じり"付きの矢でも止めらンねぇのかァ!?」


「……安心しろ兄貴。あと二発も入れば動かなくなる。」


 どうやら馬車の車輪を矢で撃たれたらしい。

 それも……ただの矢じゃないっぽいな。

 撃たれた箇所から、熟した桑の実のような濃い紫色のドロドロの粘液が止め処なく溢れ、車輪の回転を阻んでいた。


 とりあえず馬車は走れているみたいだが……それもいつまで続くか……。


「おねぇちゃん……。」


「れてぃねぇ……。」


 傍にいるアイリスとコロネが、不安そうな声を上げる。

 周りの幼女たちも、声には出さずとも沈痛な面持ちをしている。


 それを見て、俺は決意する。


 あー……こりゃ一個目の選択肢は消えたな。


 ウチの幼女たちを恐がらせやがって……!!

 あの盗賊ども……百回謝ったって許さねェ……!!


「大丈夫だ。すぐやっつけてくるからな。」


 妹たちの頭をそっと撫でながら、俺は微笑んで告げる。


 さて……

 そんじゃぁこっからは……"お仕置きタイム"だ。


***


「ンぁあ……?」


 前方の馬車を追い、全力で馬を走らせていた盗賊……

 その兄貴分である"クローグ"は、前方の馬車の不穏な動きを察知して声を上げた。


 馬車の後方……人や物資を積み入れる箇所に、一人の少女が顔を出したのだ。


(なんのつもりだァ……?)


 最初は命乞いにでも出てきたかと考えたクローグは、すぐにその考えを否定する。


 外見的には、泣いて助けを求めてきても可笑しく無い程に幼いその少女――

 しかしこちらに視線を向ける少女の表情に、怯えの色は伺えない。


 いや、それどころか……


(ありゃぁ……"何か"してくるつもりかァ……?)


 少女が男たちに向ける視線には、明らかな"敵対心"が見て取れた。


 クローグの、これまで盗賊としてそれなりの修羅場を潜ってきた直感が告げる。


 あの少女が何かしてくる前に、始末した方がいい――と。


「"ネフロ"! やっちまえ!」


「……わかった。」


 少女が乗っていると分かったところで、盗賊である彼らは襲撃を躊躇ったりはしない。

 どうせ積み荷を奪った後で、まとめて切り捨てるつもりだった。


 弟分であるネフロが、先程車輪を射抜いた弓を構え、少女を矢で狙う。


 そう。

 彼らの判断は凡そ正しい。


 相手が何をしてくるかわからないのならば、何も出来ないうちに倒してしまえばいい。

 "速攻"は、スポーツやゲームでも、ある種の"定石"――効果的な戦略のひとつだ。


 ただ惜しむらくは――相手の少女が、その"何か"を既に終えていたことだ。


「ンぁ……?」


 前方の少女が、こちらに向けて"何か"を放る。


 投げつけるわけでもなく、ただポイッと放られただけのソレは、とても"攻撃"とは思えない。

 ましてや放られた何かは、盗賊たちの誰の身体にも当たることなく落ちていく軌道を描いていた。


 ソレは、盗賊たちの乗る馬の鼻先へと落ち――


『パパパパパパパパパパパンッッッ!!!!!』


 直後、激しい炸裂音を響かせた。


「なッ!? なんだァ!?」


 突然の出来事に、クローグは混乱する。


 謎の炸裂音――。

 だがこれといって身体にダメージは無い。

 精々鼓膜がビリビリとした程度だ。


 それもその筈だ。

 炸裂音の元――少女の手から放られた"何か"は、別の世界では子供にも買える"玩具"の一種なのだ。


 "爆竹"――。


 爆発音を楽しむ為の花火の一種であるそれは、余程誤った使用をしない限りはケガや火傷の心配も無い。


 当然、盗賊たちにもダメージは無い。


 だが――


「ヒヒィィィィンッ!!!!」


「なッ!! お、おいッ!!」


 彼らの跨っていた馬は、眼前で響いた強烈な騒音に大きく動揺した。


 馬は本来、臆病で敏感な動物だ。

 よく調教された馬であっても、近くで突然大きな音を立てられれば暴れ回ることもある。


 そんな馬が、熊避けにさえ使用される爆竹を目の前で炸裂させられたのだ。


 まるでロデオのように――

 盗賊たちを乗せた三頭の馬は、錯乱し大きくその身を仰け反らせた。


「「「がはッ!!」」」


 それぞれに武器(エモノ)を構えていた盗賊たちは、荒れ狂う馬の動きに対応出来ず――見事に揃って落馬した。


 全力で走っていた馬からの、急な落馬だ。

 鍛えられた身体であっても、無事では済まない。


「ぐぁああああああああッ!!!!」


 荒野を転がったクローグは、激痛に声を上げる。


 肩の関節が外れてしまったのだろうか?

 その身を起そうにも、だらりと下がる両腕には一切力が入らない。


「お、オイィッ!! お前らァ!!」


 助けを求めようと、まだ土煙の舞う周囲をなんとか首を捩じって確認する。

 だが弟分たちも、状況は同じようなものらしい。


 一人は足の骨を折ったのか、呻き声を上げて蹲っている。

 もう一人は生きてはいるようだが……完全に気絶してしまっていた。


――ジャリッ。


 そんなクローグの前方から、土を踏む音が響く。

 痛みと、そして恐怖に引き攣った顔を音の方へと向けたクローグは――


 土煙の中から現れた、少女と目が合う。


「お、お前……!」


 先程、馬車の後方から顔を出した少女。


 だがその少女の表情は先程と違い――"笑って"いた。


「ありゃりゃ~。おにーさん、大丈夫~?」


 妙に可愛らしい声でそう問い掛ける少女は、しかしその目は一切笑っていなかった。


「お馬さん、逃げちゃったね~。」


「お、オイッ!!」


 言いながら、少女はクローグの腕を後ろ手に縛る。


「このクソガキッ!! テメェッ!! こんな事してどうなるかわかってンのかァッ!!」


 焦りながらも、そう少女を威圧するクローグ。

 だが少女は、そんな脅しに一切怯える素振りを見せない。


「あれ~? どーしてそんなにおこってるの~?」


 可愛らしく首を傾げた少女は、


「あ! わかった~!」


 ポン! とわざとらしく手を打つ。


「おにーさん、お腹空いてるんでしょ~? じゃあわたしがごちそうしてあげるね♪」


「お、オイ! 何を……!? むぐッ!? ~~~ッ!!」


 左手でガッ! とクローグの顎を掴み、強引に開かせる少女。


 そしてその右手には――


「ほぉら♪ 手作りの"おにぎり"だよ~♪」


「ンン~~~ッ!?!?」


 どこから取り出したのか。

 見覚えのあるそれは、紛れもなく先程の"何か"――


 すなわち"爆竹"であった。


「さぁ、たぁんと……食らいやがれ(めしあがれ)♪」


「ンンッ!? ンンン~~~~ッッ!!」


 乾いた荒野に、乾いた炸裂音と――涙交じりの絶叫が響いた。

 お読み頂きありがとうございます♪

 遅くなりましたが投稿再開していきます!


 そして投稿ペースなのですが……

 週二にさせて頂こうかと思います。……スミマセンっ!

 土曜と水曜の週二回更新なら、更新停止せずに済むと思いますので……ご了承頂ければと思います。


 それでは、今後とも本作をよろしくお願い致します♪

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