第一話 幼女と幼女と…
俺はベッドの柔らかな感触に包まれ、目を覚ました。
そして目覚めた瞬間に確信した。
夢なんかじゃない。
さっきまでのアレは……紛れもなく現実だ。
死後の世界……あの自称・天使は"待合室"とか言ってたが…
そこで交わされた"契約"によって、俺の魂は"異なる世界の他者の肉体"へと転生させられたはずだ。
恐る恐る瞼を開けると……見知らぬ部屋。
俗に言う『知らない天井』である。
つまり……そう! つまり!
ここは『異世界』!
ひゃっほう!と叫びたくなる胸の高鳴りを抑えつつ、俺は部屋を見回そうと首を右に傾けた。
そこで俺の目に飛び込んで来たのは……幼女の寝顔だった。
桃色の艶やかな前髪が、眉の上で綺麗に切りそろえられている。
おっとりとした顔立ちで、なんとなく物静かな印象だ。
お気に入りなのか、ウサギ(らしき生き物)のぬいぐるみを抱えて。
……幼女である。
……美幼女である。
……俺は数秒、思考が停止するのを感じた。
マジか。
確かに『王族や貴族のような身分のある家庭に転生したい』ってのは俺の願いの一つだったが……
こんな幼女と一緒に寝るような趣味の貴族に転生したのか俺は……。
とんだスキモノ貴族だな! 最高だ!
規制の無い異世界で幼女ハーレム!
それが俺のこの世界での最大の目標である!
その第一歩は既に達成された!
初期装備で幼女ひとりゲット!
なんという幸福!
なんという強くてニューゲーム!
異世界転生万歳!
……おっと、いかん。
幼女の寝顔は後でいくらでも眺めるとして、だ。
まずは自分のいる状況の把握からだよ、うん。
改めて部屋を見回す為に、俺は左に首を傾ける。
そこで俺の目に飛び込んできたのは……またしても幼女の寝顔だった。
金髪のショートカット。外側に跳ねた髪。
やんちゃな印象を与える顔立ちが特徴的だ。
少々寝相が悪いのか、胸元のボタンが外れかけている。
……幼女である。
……またしても幼女である。
……またしても美幼女である。
マジか。マジだ。
幼女二人をベットに侍らせて添い寝なんてとんでもない野郎だ! 最高かよ!
ダブル幼女! 両手に花ならぬ両手につぼみ!
こんなことがあっていいのかよ!
「最高かよ!」
……?
…………??
あれ? 今、思わず心の声が出てしまった。
うん、それはいい。
それはいいんだけど……妙に声が高い?
俺は身体をベットから起こす。
……小さい。
手も、胸板も、元の身体とは比較にならないくらい小さい。
おいおい。
まさか……ハハ、いや、まさか な?
鏡……鏡は?
動揺しつつ室内を見回した俺は、壁に鏡が掛けられているのを発見する。
俺は小さな身体で(幼女二人を起こさないよう注意しつつ)ベッドから抜け出す。
自分の予想が当たっていないことを祈りつつ、俺は鏡へと歩を進める。
意を決して鏡の前に立つ。
そこに映っていたのは……
「俺も……俺も幼女かよ……ッ!」
銀色の髪に、翡翠のような深い碧色の瞳。
そこに映っていたのはまたしても、ま た し て も 幼女であった。
俺は鏡の前で崩れ落ちた。
俺の異世界幼女ハーレム計画は、転生数分で儚くも散ったのだった。