高校時代のエグくて熱い青春、これぞ高校生
夜のコンビニ 2
咲月たちががまだバレー部の現役生の時、部活終わりに顧問たちが話していたのを偶然聞いた。
それは、制服に着替えて体育館を出ようとしていた時。
若くて眼鏡をかけている方が監督で、少し年配の小太りがコーチだ。
その後方のコーチが監督にヒソヒソと話をしているのをみて、興味本位で扉を挟んで盗み聞いていた。
その内容は言葉のとおり、目が見開いた。
一緒に聞いていた同級生の耳にも届いたらしく視線をあちらこちらに向け、信じ難いと言わんばかりに落ち着きがなかった。
亜紗は普段から黙ることが苦手で、常に喋っていたがその時ばかりは唖然と口を開けたまま瞬きを繰り返していた。
咲月は取り敢えずここを離れよう、と同級生達を促し近くのファミレスへ導いた。
席に着いた瞬間同級生の1人、唯が口を開いた。
「…あれってさ、本当?」
「…そんなわけないじゃん。だって、私たち国民だよ?」
「国が裏切るわけ、ないよね…。」
「でも、でもさ、もし本当なら、やばいよね。」
「冗談よしてよ。」
平日だけあってファミレスに来ている客は少なく、幸い迷惑にはかかっていない事に咲月は内心でほっとした。
だが直ぐに息を飲み話をまとめようと場を収めた。
「まずは私が理解している範囲で話す。他に聞き逃しているところがあったら後で話してね。」
同級生8人が頷く。
そして咲月が静かに口を開く。
「まず、今の日本は軍が国、国民を仕切ってるよね。安倍ちゃんが総理をやめてアメリカの大統領が変わってから。それから、日本人が日本から出て行くようになって、この国は変わった。軍に従わないと罰を受けるようになった。」
同級生達は静かに咲月の話を聞いている。
時折頷き、咲月の話が間違っていないことを示しながら。
「…そして、今回のコーチたちの話。軍がいつか来る巨大な津波を利用して私たち国民を外国に売ったり軍の下で働く奴隷にするって事。」
何人かは認めたくないのか俯き、唇を噛み締める。
ただどんな理由か知らないが、亜紗と由紀はいつの間にか頼んだドリンクを呑気にストロー越しに飲んでいる。
空気を和ませようとしたのか、同級生の一人、梨可がお前ら空気読めっと亜紗の頭を叩いてみせる。「何でうち!?」と頭を抑えて梨可の顔を見る。
すると、強ばった顔がするりと緩んだ。だがまたもや由紀の一言で一瞬にして空気が戻る。
「私は本当だと思う。」
「…は、なんで?だって平松の言ったことだよ?いつも嘘ばっかじゃん。」
「唯顔怖いよ。」
「梨可もね、ごめん落ち着く。由紀、続き話して。」
「確かに平松は嘘ばっか言うよ、腹立つよ。だけど、あの顔見たでしょ。冗談とかっていう顔じゃなかった。吉村だって、真剣な顔して聞いてたじゃん。そんで最後、アイツらはどうしますかって。私たちの事でしょ。」
「…だよね。」
「先生達はどうするのかな。」
「乗らないに決まってるでしょ。そんなの聞いちゃったら。」
「でもうちの担任、軍のことめちゃくちゃ信用してるから津波が来た時は軍の人たちにお礼言って乗せてもらうのよって。」
「お人好しかよ。」
「取り敢えず、出来るだけ周りの人達に伝えて乗らないようにしないと。」
淡々と話が進んでいく中、遥が口を挟んだ。
「…私、船、乗るから。」