忘れられた警官の視点
「たのむから、信じてくれ。ロイヤルピザ屋の相模原店だ。その時間、俺にアリバイがあるはずだ」
女はこの台詞を考えていた。女は警察官で現在ヤクザに人質にされてる。人質といっても指名手配犯人と手錠で繋がった状態であり、逮捕は完了している。ヤクザを拘束しているので、新しい法律の条文に照らせば彼女の死刑は免れた。少なくとも寺井が手錠を外さない限りは……
寺井
「だから! ピザ屋は口封じされたんだって!」
寺井の言葉を信用するのなら、口封じされた痕跡、証拠があるはずで、
「本当に信じてくれるんだな?」
信じる訳じゃない、確かめたいのだ。
彼女にとってのヤクザの定義は本質的に悪そのもので、寺井や原とは種類が違う。でもそれは彼女の過去が原因で違いを認識できない。彼女にとっては彼らも他の種類のヤクザも、同じ悪として刷り込まてしまっていた。
ピザ屋を調査したが、確に不自然な点がある。
営業時間であるのに人の姿がない。調理の途中に忽然と消えたかのようで、たとえば未配達のピザがバイクの荷台に積まれたまま、カビカビに乾いている。
口封じの可能性があるとすれば、一昨日以前で、寺井がピザを受け取った直ぐに消えたことになる。
ピザ屋の店長は自宅を改装して店をオープンしていた。近所からの注文が多く、近隣住民からの聞き込み情報を期待したが、犯人など目撃情報はなく、
「どうやったら信じてもらえるんだ?」
信じるかどうかはともかく、伝票記録は残っているから、冤罪を主張する分には充分である。ただ政府の陰謀に関する証拠がないというだけで、
「やっぱり国外に逃げないと」
もし陰謀が本当なら、どんな有力証拠ももみ消されてしまうだろう。裁判やるくらいなら、逃げた方がマシだろう
私もこの国から出て遠くに行きたい。
「その前に手錠をどうにかしないと!」
鍵なら私が隠し持っている。ポケットの裏にポケットがあり二重構造になってる。
彼女は鍵を渡したい気持ちはある。だがためらっている
この国では拘束を解けばその時点から死刑囚扱いになる法律である。
鍵を渡すくらいなら、交換条件として、私も連れていってくれ
彼女にとっては、日本は忌まわしい記憶のある場所で、日本にいる限り怨みに囚われて幸せにはなれない。
事情を話せば理解してもらえるだろうか、
裏切らないと信じてもらえるだろうか
彼女は寺井たちに過去の出来事を語り、そして鍵を渡した。
「じゃあ、二人とも、しばらくお別れだな」
「永遠に帰れない、かもしれませんが」
「……」
寺井たちはコンテナに入った。
寺井たちには大型船の積み荷として扱われ二週間海上で生活する。コンテナの中は六畳程の広さがあり、トイレなどは使い捨ての簡易トイレと消臭剤とを回数分密閉する容器に入れて現地に到着後、捨てる
寺井たちは発電機をコンテナにいれたので、懐中電灯は必要ない。テレビと漫画とDVDで二週間の航海を耐え忍ぶつもり
お菓子や乾パン等の保存食が食事のメインになるのが、この旅で1番キツイ




