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008-冒険者になろう


「はい、三つとも終わったねー。じゃー、ちょっと待っててー」


 昨日と同じ受付のおねーちゃんが、奥に引っ込んでいく。


 初心者クエストはあっさりとクリアしてしまった。効率の良いルートで実際に効率良く終わったのだ。行って帰って都合四時間、ほぼ移動だけで済んでしまった。

 やや肩透かし感があるが、特にトラブルもなく簡単に終わったのだから良しとすべきだろう。


 受付の奥で「おりゃ!」という可愛い掛け声と、ガチャンという金属の噛み合う音がした後、何かをトレーの上に乗せて受付のおねーちゃんが戻ってきた。


「おまたせー。コレが、冒険者ギルド登録の証、『冒険者許可証』よ!」


 そう言って差し出されたのは、紐のついた金属板。地球風に言うとドッグタグだ。表面に文字が彫り込まれているが、今の俺には読めない。


「許可証のここの空白に、冒険者としてのランクが星として刻まれるの。最初は星無し、一人前で星一、腕利きで星二。星三は『すごい人』って事ね」


 金属板の、文字のない下半分を指してそう説明される。


「この証明書には、ギルドのヒミツ技術で冒険者としての功績が記録されます。なので紛失、盗難には気を付けて下さい! 再発行とか無いので、星なしからやり直しね」


 指を上に向けて、ぐるぐる回しながらそう説明される。


「冒険者とは、魔除けの結界で守られた街や街道の外、モンスターの闊歩するエリアに、危険を冒して進む者! 基本的には自己責任! 死して屍拾う者無し!」


 ビシィッ! と指を指されながらそう説明される。


「危険なエリアで採れる素材は、ギルドで大抵買い取ってるからよろしくね? でもまあ、依頼の無い素材は基本的に安いからねー」


 両手でやれやれのポーズをしながらそう説明される。てか仕草がいちいち可愛いなこのねーちゃん。


「依頼というのは、どこで確認できるんですか?」

「それねー、隣の別館に張り出されてるの。素材の引き渡しも基本向こうでやってるから、冒険者になると向こうの方へ行く機会が多くなるわね」


 なるほど、冒険者にとってメインは別館の方なのか。こっちの本館は、書類仕事がメインっぽいな。


「分かりました。これから宜しくお願いします」

「おー、がんばってねー」



 さて、晴れて正式な冒険者となった訳だが、スマホには特に変化が無かった。お前散々冒険者になれとせっついたくせに、いざ冒険者になったとたん音沙汰無しかよ。

 まあ自由行動時間だと考えよう。冒険者生活を楽しむのだ。

 渡された冒険者許可証をスマホ越しに確認。『名前:ソラ』と『登録:テッサ』は判るが、後は翻訳不能な記号の羅列らしい。IDみたいなものだろうか。首に掛けていつでも出せるようにしておく。


 ギルドから出る。現在時刻は昼。ギルド別館へ行って、依頼を確認する手もあるが、この時間ではどうなんだろう。

 それよりも、”魔法の小袋”を見てみようか。確かギルド正面の魔法屋にあると言う。

 うん、見るからに怪しい店がある。あそこが魔法屋だろう。


「ごめんくださ~い……」


 店の表側とは違って、内装は普通だった。だが並べてある商品に統一性がないので、余計に怪しいと感じてしまう。道具類が多い。魔法道具屋なのか。


「お客さんかい?」


 いつの間にか、カウンターの所にばーさんが立っていた。ちょいビビった。


「ここに”魔法の小袋”があると聞いて来ました」

「おや、そうかい? 駆け出しにはちと値が張るよ?」


 そう言いながらばーさんは、カウンターの下から平べったい箱を取り出して、開ける。中には妙に高級感がある色とりどりの小袋。これが”魔法の小袋”か。


「コイツが金貨で一枚、コッチが金貨二枚だね。金一の方の容量は、一抱えの樽一個分。金二はその倍ぐらいかね」


 見た目だけではどう違うのか判らない。それに金貨と来たか。金貨一枚は銀貨で何枚なんだろう?


「今は銀六十ってとこさね。昔は五十だったけど、王様が代替わりして六十になったのさ」


 とのこと。大公銀貨三枚で金貨一枚か。買えない値段ではないが、大金だな。

 そうだ、これも聞いておこう。


「こうゆうの、”袋”しかないんですか?」


 それを聞いてばーさんの眉がピクリと動いた。無言でにらみ合っていると、ばーさんがニヤリと笑いながら口を開く。


「生憎ウチにはないが、『腕輪型』ってのがあるらしいねぇ。『袋型』とは仕組みが違って、その分お高いんだとさ」


 あるのか。仕組みが違うのも、なんとなく分かる。空間拡張型と別空間連結型かな。

 しかしばーさんの反応から、あまり出回ってなさそうだ。スマホからの出し入れを他人に見せるのは当分無理だな、絶対目立つ。


 いや、待てよ。”魔法の小袋”を使えば、どうだ?

 小袋は小さいので、手のひらで隠せる。手に隠した状態ならスマホに出し入れしてもバレない。これで小袋の中身をスマホ内で入れ替え出来れば……出来るんだろうか? こればかりは実際に試さないと分らない。

 だが、それが出来れば、スマホの格納機能を小袋経由で自然に使える。

 出来なければ……まあ、人前では小袋だけ使えばいい話か。


「金貨一枚のやつ、買います」

「はいよ、まいどあり」


 大公銀貨三枚を払い、魔法の小袋を受け取る。中を覗いてみるが、よく見えない。


「覗いても中は見えないんじゃよ。ほれ、コイツを試しに入れてみんしゃい」


 そう言ってばーさんが取り出したのは杖だ。その杖を受け取り、小袋の中に入れてみると、するすると杖が袋の中に消えてゆく。杖の全てが袋の中に入ったのを確認すると、ばーさんが頷きながら出し方を教えてくれた。


「袋の中に手を入れると、中身が頭の中に思い浮かぶ。そこから出したい物を選ぶと、手の中に出てくるから、それを引き抜けばええ」


 言われた通り袋の中に手を入れると、さっきの杖を入れるシーンが脳裏に浮かんだ。じゃあ、その杖! と念じると、手に硬い感触があったので、掴んで引き抜くと、さっきの杖が袋から出てきた。


「袋の口より大きい物は入れれるんですか?」


 ばーさんに杖を返しながら聞く。


「そりゃ無理だね。そういう場合は”魔法の大袋”を使うのさ。ヒッヒッヒ」


 バリエーション商法かよ。『腕輪型』が安価量産されたら駆逐されそうだ。


「冒険者なんだろう? 冒険者の道具にゃ、細筒状にまとまる小袋用のがあるから、それを買えばいいのさ」


 規格もあるのか。いい商売してやがる。



 魔法屋から出た。

 早速小袋とスマホの実験をするか、いやその前に小袋に入れる道具を買うかと悩んでいた所、話し掛けられた。


「あ……あの、その、たっ……助けて、もらえませんか……?」


 向くと、そこには狐耳があった。



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