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006-冒険者ギルドに入ろう


 魔除け小屋(多分)で一夜を過ごした俺は、焚火でウサネズミ(正式名称はラブトだっけ?)の肉を剣で削り切って焼いて朝食にした後、寝る前に思い付いたアイデアを試すことにした。


「名付けて! 街まで耐久マラソン!」


 昨日の検証で、小走り程度なら結構な距離を走れる事が判明。ならば、この退屈な旅路をさっさと終わらせる為に、出せる速度は出そうと考えた訳だ。

 スマホのマップを確認すると、街道はそれなりに曲がりくねっているが、街へ向かっているのは間違いない。街まで直進しようとすると、森やら山やらを突破する必要がありそうなので、おとなしく街道を進む事にする。


 ◇


 定期的にスマホを確認しながら、街道を走る。

 今のところ、順調に進んでいる。もう五時間走り続けているが、まだまだ平気だ。今の俺はマラソンランナー金メダル級の走力があるようだ。

 モンスター等のエンカウントも、今のところ無い。ひょっとして、街道沿いにはモンスター居ないんじゃないだろうか。


 走り出して七時間経過。疲れはあるが、息は切れていない。もしかして二十四時間走れるんじゃないだろうか俺。

 マップを確認すると、目的の街はもう近くだ。マジで街までマラソンしてしまった。自身のスペック表に『巡航速度 時速二十キロ』とか書かれるのだろうか。

 時間は昼だが、このまま街まで行って、街で昼を摂ればいいか。終わりが見えて来たので、足に力が入る。


 街道の左右に、人の手が入っている土地が見えるようになってきた。畑、小屋、柵等々。遠目に壁の様な物も見える。ひょっとしてアレが街だろうか。城壁に囲まれた街、という奴だろう。

 スピードを落として歩きに移行する。街が近いなら急ぐ必要もないし、急いでいるのを目撃されて注目浴びるのもアレだし。しかし歩き出した途端に疲れが出てきた。流石に七時間マラソンは無茶だったかもしれない。

 疲れを抜きながらゆっくり街に向かう。街道の先、城壁とぶつかる場所に門があるのが見える。門の辺りにあまり人は見えないので、この街道はそんなに利用者が居ないのかもしれない。


 街の門まで着いた。門自体は木を格子状に組んだ奴で、上に引き上げてある状態だ。下の部分が尖っており、緊急時にはズドンと落とすのだろう。

 門の脇には門番と思しき武装した兵が立っていた。兜は鉄製の帽子タイプ、胴は鉄と革が半々、手には槍、腰には剣を指している。バリバリの中世の兵隊さんだ。近代文明はもう諦めた。

 城壁は結構高い。七~八メートルぐらいあるだろうか。それが左右に伸びており、門の上には見張り台らしき物も見える。戦うことを想定した施設に物々しさを感じるが、モンスターと生きる世界の人にとっては頼もしい存在なんだろうと思う。


 門を潜った際、特に検問や徴税等は行われなかった。この街が特殊なのか、それともそれが常識なのか。やはりその辺が判らないというのは不安である。

 壁の内側の街は、木や石で出来た建物が大小ぎっしりと詰まっていた。やはり安全な壁の中は需要が高いらしい。

 道なりに少し進むと、大通りに出た。人が沢山居る。兵隊も居るし、兵隊以外にも武装している連中が居る。買い物中の奥様方や子供も見える。見た感じ、それなりに栄えている街だと思う。


 立ち止まって街行く人々を観察する。獣耳、獣耳、長耳。良い、良いぞ。それでこそ異世界。誰が俺をこんな目に会わせたのか知らんが、今だけは感謝しよう。

 ざっと見た感じ、獣耳の連中はさほど人間と変わらない姿をしている。人によってはモミアゲがすごい事になってるが、誤差の範囲だ。尻尾もある。繰り返す、尻尾もある。

 耳の長いのは、エルフとは違うな。人間よりやや小さくて、耳の上が外側に広がっている感じ。いやまあ作品によってはそういうのをエルフと呼ぶ場合あるけどね。俺のイメージするエルフと違うという意味で。


 おっといかん、本来の目的を忘れていた。道の端に寄り、物陰に隠れる感じでスマホを取り出す。緊急のメッセージは特になし。マップを開くと、探知範囲の端に目的地『冒険者ギルド』があるらしい。大通り沿いに進めば問題なく着くようだ。

 それではさっそく――飯にしよう。

 ギルドでの登録がどのくらい時間かかるのか分からない以上、事前に腹を満たしておくのは重要だ。具体的に言うと、すぐそこの屋台からいい匂いがするので。

 何かの練り物に肉と野菜を挟んだ食べ物で、辛めのソースに苦戦したが結構美味しかった。


 ◇


 冒険者ギルドは他と比べて一回り大きい、三階建ての建物だった。一階部分がカウンターとなっており、冒険者らしきおっさん共が何かを渡して隣の建物に入っていたりしている。あの隣の建物もギルドの一部だろうか。

 もう一度、スマホを確認する。マップ画面で目の前の建物を指し『冒険者ギルドに入ろう!』だ。……これギルドの建物に入るだけでよくね? いや入るのは組織だなんて指定されてないしー。まあ、渋っていてもしょうがない。おとなしく冒険者ギルドに加入しよう。

 ギルドのカウンターに向かい、奥にいる中年男性に声を掛ける。


「すいません、冒険者ギルドに加入したいのですが」

「あー、はいはい。新規さんなら、そこの扉から中に入って、奥の受付ね」

「あっハイ、分かりました」


 指差された方を見ると、確かに扉がある。どうやら受付業務は建物の中らしい。

 ギルドの中に入ると、待合室みたいな場所があり、その奥にもカウンターがある。ここが受付だろう。


「すいません、冒険者ギルドに加入したいのですが」


 そう受付の人に伝える。受付の人は若い女性だった。


「んん? あー、ご新規さんね。じゃあここに名前書いて」


 ちょっとなげやりっぽくないですかい? あ、あと字書けないです。


「じゃあ代筆で。ソラ? ソ、ラ、と。はい、じゃあこれ」


 そう言って差し出されたのは、白い笹の葉に文字が焼き印されたもの。それが三枚。


「それは初心者用の試練ね。それをクリアして、ようやく正式な冒険者として登録されるの。依頼物を表のカウンターに持って行けば、そこに印をして貰えるから。三枚終わったら、またここに来て」


 なるほど、正真正銘のチュートリアルクエストという訳だな!

 礼をして受付から立ち去る。ここから始まるんだぜ、俺たちの冒険者坂がな! などと気合いを入れたものの、待合室まで来た所で気付いた。


「やべぇ、字が読めねぇからクエストわかんねぇ……!」


 恥を忍んで受付のおねーちゃんに聞くしかないかと考えた所で、「ポン!」とスマホが鳴った。周囲を確認、誰も居ない。待合室の椅子に座ってスマホを見ると、どうやら『冒険者ギルドに入ろう!』をクリアしたらしい。

 まだ見習いレベルなのにクリアした扱いになるのか。随分とザルだなぁと思いながら画面をタップすると、


 『レベルが3に上がった!

  カメラ機能が解放された!

  カメラで映すと文字が翻訳されるぞ!』


 という、実にタイミングの良い機能が出てきた。


 カメラ機能はモンスターを倒した際の素材回収時に使っていたが、任意の使用が出来なかった。今回、カメラの任意使用が解放されたので、早速ホーム画面のアイコンからカメラを起動、ちょうど前にあった壁の張り紙を撮影する。


 パシャリ


 シャッター音が鳴り、撮影した写真が「ピクチャー」フォルダ内に保存される。写真ファイルを開くと、先程撮影した瞬間の風景が映り、写真の中の文字に被せるように日本語訳が表示されていた。


「……これは便利、なのか? いちいちこれ見なきゃいけないのは手間だよな。無いよりはマシだけど」


 翻訳機能そのものは、カメラで覗いた時点で機能しており、写真を撮影する必要は無い。だが謎の石板を掲げてじっとしている男、という絵面はどう考えても怪しさ炸裂なので、撮影して人気のない所でじっくりと読むのが今の時点での最適解だろう。


「まあ、なんにせよ、文字が読めるようになったのは良い事だ。早速この初心者用クエストを確認しよう」


 先程受付で貰った紙の様な葉三枚をそれぞれ撮影する。パシャパシャパシャ。

 翻訳結果はこうだ。


 『教練一、花のあるマレットカムを三株集めて提出せよ』

 『教練二、フビリイームを三体討伐し、首を取って提出せよ』

 『教練三、川岸で採れるトートリットを三個集めて提出せよ』


 なるほど、わからん。



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