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004-買い物をしよう


 宿で一泊した俺は今、宿屋の1階で朝食を摂っている。

 柔らかくないパンと塩辛いスープの二品が夕食・朝食として宿代に含まれており、追加メニューは個別料金になっているシステムのようだ。宿屋のおっさんは俺を文無しだと思っているので、追加注文を聞く事すらなかった。俺も今更、お金はありまぁす! だなんて言えなかったので、おとなしくしていた。


 昨晩は暗くなるまで、この謎スマホの機能を調べていた。結果は以下の通り。


・動力、不明。

・物理デバイスやスロットの類、無し。

・このスマホの情報および設定の変更、無し。

・音声入力、あり。『マップ』もしくは『マップ機能』でマップ画面が、『アイテム』もしくは『インベントリ』でアイテム画面が、『キャラ情報』もしくは『ステータス』でキャラ情報画面が開く事までは判ったが、それ以外はさっぱり。

・スマホの画面は、実際に画面が光っているのではなく、『俺の目にそう見えている』だけである。日没で暗くなった際に、照明として使えなかったことから判明。

・アイテム画面にサブフォルダを作成する事が可能。ひとまずお金と思しきコインを入れておいた。

・マップ機能は、半径約百メートルの範囲内をマッピングする。上空から見た2D図面のみで構成され、建物内の構造は不明。マップに生命は表示されない模様。


 機能の面では、これといった新発見は無かったのだが、既存機能のマップ及び画面表示そのものが相当なトンデモ機能であることが判った。

 実際には光っていないのに、光っている様に見える画面。網膜投射ディスプレイって奴ですか?

 マップの方も、目視圏内に入っていない建物の裏手なんかの情報を余裕で取得している。今までは草原ばっかりでイマイチなマップ情報さんだったが、人里に入る事によって真価を発揮しだしたようだ。


 どこぞの別空間に物体を格納してしまうアイテム機能も含めると、確実に俺の知っているスマホじゃない、もっと別のナニカだ。これはヤバイ。俺の常識を超えている。

 通話機能が無いから、スマホとは言えないな。いや、単に通話サービスを契約していないからかもしれない。「スマートフォンじゃない、スマートロックだ!」とか言った後、なにかの拍子に通話機能が解放されたらどうすんだ。解放された所で、誰と会話するんだという話だが。

 いやまてよ、確か前に読んだ古典SFに、黒くて四角い石板によって文明がどうのこうのと言う展開があったような。このスマホ、形も似てるし、そういった物の類似品か? なんでそんな物を俺が持っているのだろうか。


 と、考え事をしていたら朝食が終わっていた。

 自室に戻り、スマホの画面を見る。今朝起きた際に『冒険者ギルドに入ろう!』と表示された後、マップ画面にポイントが表示され、そこへの移動を促されている状態だ。マップ画面を縮小しても遠い。スタート地点?からこの村までの距離を1とすると、目的地まで3ぐらいある。確実に長距離移動だ。


「冒険者ギルドとか、夢が広がるワードだな。遠いけど。てかこの村には無いのか。ある程度の街にしかギルドが設置されていないパターンかね。」


 という事は、マップに示される地点にあるのは『村』ではなく『街』だろうか。

 正直な話、暮らすには村より街のが良い。人の入れ替わりが激しい街なら、多少不自然でも浮かないだろう。その点、ここの様な田舎村はよそ者が少ない分、話題に上がり易い。スマホの機能をどれだけバラして良いものかも不明だし。街で数日観察すれば情報公開の塩梅あんばいも判るだろう、多分。


 さて、そうと決まれば、『冒険者ギルド』に向かうための準備が必要になる。距離から考えて、徒歩で2日、馬車なら1日といった所か。無論この予測はマップ情報からの直線距離で予測したものなので、実際には1、2のプラスが加わると見ておこう。となると野宿か。途中で村があるのかも不明。マップ情報では未踏領域は完全に無力である。

 つまり、今後の方針はこうだ。『目的地までの情報収集』『旅の道具調達』の2本。


 ◇


「あんれま、神官様。コイツは”大公銀貨”ですじゃ。”大公”一枚で銀二十ですから、一枚で十分ですって」

 宿屋を出た後、通り沿いにあった雑貨屋で色々と買い物をし、いざ支払いだという時にスマホ産のコインを出したら、そんなことを言われた。普通に銀貨だと思っていたコインは、実は通常よりすごい銀貨だったらしい。驚かせんなよマジで。


「はい、釣りの銀十七枚に、青五枚ですじゃ」


 会計が銀二枚・青五枚だったので、青十枚で銀一枚のレートか。

 ちなみに青呼ばわりのコインは翡翠のような青緑の濃い石だ。石貨ですかい。

 購入した物品は、やはり購入した肩下げバッグに入れてゆく。何とか寝転がれる毛布、革の水筒、干し肉、火打石、小物入れに使えそうな小袋いくつか。鞘も買った。鞘側でサイズをある程度いじれる代物だったので問題ないだろう。

 旅をするにはなんとも心ともない装備だが、バッグに入れるにはこのぐらいが限界だ。

 店内を見回し、買い忘れが無いか確認する。ひょっとしたら、俺の知らない常識があるやもしれん。一応、確認しとくか。


「おじいさん、えーと、向こうの街まで行くのに、どのくらいかかりますか?」

「あぁー、テッサの街か。道沿いで、歩いて3日かのう?」

「ばしゃ……乗り物はありますか?」

「特には無いですなぁ」

「うーん、途中で泊まれる所、あります?」

「”魔除け小屋”ならいくつかありますで、そちらで泊まるのがええかと」


 ん? ”魔除け小屋”? 新ワードが出たな。イメージ的には休憩所にできそうな感じ。モンスターが出る世界だ。単なるまじないじゃなく、実際に効果のある”魔除け”なんだろう。きっと。これがここの常識なんだ。このぐらいなら希望的観測でもいいじゃない。


 バッグを肩から下げて店を出る。『目的地までの情報収集』と『旅の道具調達』が雑貨屋一件で終わってしまった。いや、別に良いんだけど。ポシェットからスマホをちらりと出して見るが、追加のメッセージは特に無い。なら早速出発しようかな。

 村の中央を貫く街道を、目的地へ向かって進む。昨日入った村の入り口とは逆の方に向かう事になる。進行ルートとしては昨日の続きとなるか。マップ機能のデフォルト画面において、仮に上を北だとすると、西に進んでいる形だ。

 そう言えば、日没の向きを確認してなかった。今は朝だから丁度いい。周囲にあまり人が居ない事を確認してスマホを取り出し、マップ機能を呼び出す。太陽の位置は……マップの東南東から出ている。後は日没が南西方向に確認できれば、東西南北はスマホ基準で考えても良さそうだ。方角は東西南北でいいよね?異世界独自基準とか求めてないから!


 道すがら、朝市?が開かれていたので青果売り場を覗く。「生で食べられるのはあるか?」と聞いた所、「ここにあるのはみんな生で食べられるよ」との事だったので、何個か購入。昼食にする予定だ。

 果物を入れるとバッグがパンパンになってしまった。スマホを取り出し、バッグの中へ。ゴソゴソと整理する振りをしながらスマホの『アイテム』内に入れてゆく。一番場所を取っていた毛布を収納した時点でだいぶ余裕が出来ていたが、果物の大半と干し肉、火打石と収納し、ほぼ空になってしまった。まあ、軽いほうが歩くの楽でいいや、と思いスマホを仕舞う。

 市の途中に井戸があったので、水筒に水を入れる。一リットルぐらいは入ったかな。水筒も重量物になってしまったのでスマホ内に収納。ああ、こりゃ便利だ。


 街道を進んで行くと、左右に家が無くなり、村を囲う木の柵が見えてくる。ここが村の西側口だ。こちらもやはり誰もいないので普通に通過。ある程度進んだ所で周囲を確認する。


「よし、誰も居ないな……」


 そう口にしながら、スマホから剣を取り出す。アイコンをスワイプして画面外に出した瞬間、抜き身の剣が実体化し土の街道に落ちる。その際、地面の小石が弾かれて足に当たった。これだから危ない。誰だよ鞘のない剣なんぞ初期装備に入れた奴。そう愚痴て剣を拾い、買っておいた鞘に入れる。

 鞘の方がやや長いが、それ以外は問題なさそうだ。左腰のベルトに鞘を固定し、完成。これでようやく『剣を装備した』という実感が持てる。


 街道をしばらく進むと、草原から森に入った。木の葉の隙間から陽光が零れており、まるで森林浴にでも来たかのようだ。そんな感想が出てくるあたり、記憶にない俺の人生は随分とくたびれていたんだなと感じる。

 ここまでモンスターとのエンカウント無し。やはり街道を進んでいるのが効いたのだろうか。ここからは、街道によるエンカウント率マイナス効果と森によるエンカウント率プラス効果が相殺されるフィールドだ。油断は出来ない。なんだか、冒険してる感が出てきた。


 風切り音。


 背中への鋭痛。


「痛っ! なんだ!?」


 突然背中に何か鋭い物が当たる感覚。結構な勢いがあったため、よろめきながら振り返る。後ろの街道には誰も居ない。足元に何かが落ちる。見ると、それは鋭いやじりをもつ矢だった。


 ――弓矢による攻撃――


 瞬間、頭によぎった思考は『弓矢なんてあったんだ』という間抜けな物だった。

 当たった個所から逆算して、射手が居るであろう地点を憶測し目を向けると、木陰から次の矢を放とうとしている人間を見つけた。


 人間が、弓を番えている。


 人間が、俺を弓で狙っている。


 人間が、俺を、狙っている。


 人間の手が動き、矢が放たれる。

 思わず目を瞑り、腕で顔を隠す。鋭い痛みが胸のやや下、みぞおち辺りに走る。声にならない声を上げて地面に倒れる。

 矢で射られた。矢が当たった。痛い。痛い。痛い。尻餅を着くような形で倒れこんだ俺は、矢で射られた個所を手で押さえながらゴロゴロと呻き回る。


「よし、今だ!」


 その声と同時に、街道脇の森から複数の足音が聞こえる。倒れたままの恰好で目を向けると、そこには3人の男が森から出てくる所だった。男の手には手斧、剣、弓矢。銃刀法違反だ。おまわりさん、こちらです。もちろんおまわりさんは来ない。そういう世界だから。

 男3人はいずれも真面目に働かないタイプの人間に見える。手に持った武装も含めて、ろくでもない連中なのは確実だ。だからだろうか、状況の緊迫さに似合わない脳内テロップが思い浮かんだ。


 『とうぞくたち が あらわれた!』



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