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002-モンスターと戦おう


 『武器を装備しよう!』


 謎?のスマホには、文字と共にキャラクターが剣を持つアニメーションが表示されている。

 つまりは、先程スマホから出した剣を装備しろと言っているのだろう。

 まるでゲームのチュートリアルの様な展開……ここに来て新たな可能性が出てきた!


「ゲームの中という可能性!? それもアリなのか? おおっ、なんか興奮してきた!」


 ちょっと浮かれた気分になりながら地面に落ちた剣を拾おうとして、はたと気付く。

 地面に落ちた剣によって草が倒れている。自分の影が草に落ちている。風によって草が揺れる。服も揺れる。風を肌で感じる。太陽から降り注ぐ熱を感じる。

 ……VRヴァーチャルリアリティゲームでは不可能な感覚。目の前の風景だけでも、ゲームの画面として演算するにはスーパーコンピュータ何百台ってレベルのシロモノだと俺の記憶が言っている。

 剣を拾わずに、近くの草を掴んで、引っこ抜く。根っこに付いた土に触ってみる。指で潰した土の塊が崩れ、粒となって落下してゆく。不自然さは無く、実にリアルだ。VRゲームの可能性は非常に低い。


「だが、現にこうしてチュートリアルめいた行動を促されている。ゲームではないが、ゲームの様な世界という可能性も無きにしもあらず?」


 ゲームの様な世界って何だ。HPさえ残っていれば、矢が頭に刺さっても平気な世界か。冗談じゃない。


 改めて剣を拾う。左手はスマホで塞がっているため右手の方手持ちだ。

 抜き身の金属製の剣。それなりに重いと思っていたが、片手で軽々と持ち上げられた。刃渡り約60センチ、幅10センチ程の薄い剣は、ロングと言えるほど長くはないし、ショートと言えるほど短くない、ただのソードという感じだ。少し振り回してもみたが、丁度良い重さで扱い易い。


「っていうか、これで装備した事になるのかねぇ?」


 そう独りごちしてスマホを見ると、『ポン!』という軽快な音が鳴り、画面が次の段階に進んだ。


 『モンスターと戦おう! (只今召喚中…) 』


「はぁ? 召喚?」


 すると正面約5メートル先の地面から青白い光が溢れている。

 ちょっ! まだ心の準備がっ……。そう願うも虚しく、光の柱から1体のモンスターが現れた!


 ……ネズミ?


 体毛のやや黄色い、わりと大きいネズミ。いや、前足の先まで体毛があり、ずんぐりした体格からウサギの可能性もある。だが耳はあまり大きくないな。仮称ウサネズミとしよう。

 仮称ウサネズミは、こちらが何もしないのを見て取ると、急に突進して来た。


「だっっ!?」


 慌てて回避。向き直ると、相手もこちらに向き直っていた。ウサネズミは体勢を低くし、再度突撃の用意をしている。戦闘態勢! そう、剣だ!! こちらも負けじと剣を構える!

 ……来る!


 ガィンッ!


「うわっち! 手が痺れた!」


 咄嗟に剣を出したものの、ウサネズミの頭に直撃、頭蓋骨の硬さに弾かれて大したダメージには成らなかった。

 再度向き直ったウサネズミを観察する。頭に傷は出来ているが、斬ったというよりぶつけただけ。警戒している素振りはあるが、まだ攻め気がある。

 俺は左手のスマホを腰のポシェットに入れて剣を両手で握る事にした。お、相手の警戒心が上がったか。


「今度はこちらの番だ!」


 自身に気合いを入れて踏み込む。ウサネズミは上体を起こす。構わず袈裟斬りをお見舞いする。ウサネズミのバックジャンプ。剣先に手応え無し。

 ウサネズミはバックジャンプからの突撃! 振り抜いた剣を慌てて斬り返す!


 ザン!


 剣で掬い上げたようにウサネズミが飛んで行く。今のは手応えあった。クリティカルヒットって奴だ。

 宙を飛んだウサネズミが地面に落ちても、俺は剣を振り抜いた姿勢のまんまだった。正直言ってさっきの攻撃はマグレだった。肉を断って骨に当たる感触が今でも手に残っている。心臓の鼓動が凄い事になっている。

 意識して深呼吸を行う。すー、はー、すー、はー。なんとなく落ち着いてきた。そうだ、ウサネズミはどうなった?


 剣を構えてウサネズミの落ちた場所へと進む。……いた。首というか前足の付け根辺りにザックリと切り傷があり、瀕死な感じで震えている。これ止め刺さなきゃダメなのかな?

 ポシェットからスマホを取り出す。画面の表示は『モンスターと戦おう!』のままだ。


 視線をウサネズミに戻すと、ウサネズミは震える足で立ち上がっていた。その姿に俺は固まってしまった。あの傷は致命傷だろう。出血もヤバい感じだ。なのに何故立ち上がるのか。

 ウサネズミはそのまま2歩ほど歩いて倒れた。呼吸で腹が上下しているが、それだけだ。その動きもだんだんと小さくなってゆき、ついには動かなくなった。俺は一歩も動かず、ウサネズミを見ているだけだった。


 ◇


 どのくらい放心していたのか。左手に持つスマホの画面が変わっている事に気付いた。


 『モンスターから素材を取ろう!

  モンスターの死体をカメラに映す事で素材に変換出来ます。』


 このスマホにとって、ウサネズミの死は素材を取るチュートリアルに過ぎない。

 スマホに言われるがまま、スマホをウサネズミの死体に向ける。特に意識することなく、スマホの裏側にカメラがあるモードになっている。バーコードを読み取るようにウサネズミの死体をカメラに収めた瞬間、ウサネズミが光の粒子となり、スマホに吸い込まれた。


「えっ?」


 ちょっと理解が追い付かない。さっきまでのリアルな生死と、トントン拍子に進むスマホとの差が酷過ぎる。

 ウサネズミが倒れていた場所には何も無い。折れ曲がった草がウサネズミが存在した現実を訴えている。

 スマホの画面には『獲得! 名称未設定の肉(1)』の文字。吐き気がした。


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