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09 早馬


 昼食後、泉実の服を新調するとのことで、採寸のためルークが侍従を連れて部屋にやってきた。

 泉実はとんでもないと首を振り、余っている召し使い服を貸して欲しいと頼んだ。が、サイズがないことを理由に聞き入れてもらえなかった。

 そしてルークに「服の上から測りますので」と言われ、泉実は今、両腕を開いて案山子(かかし)のようなポーズを取っている。


 この国の、いや、この世界の住人は総じて背が高い。

 泉実は日本の十八歳男子として平均だが、こちらの成人男性は泉実より十センチは身長が高かった。

 泉実を坊やと呼んでいたエルマも、泉実と同じくらい背があった。

 容貌だけでなく、体格も幼く見られる要因になっているのだろう。侍従に巻尺であちこちの寸法を測られながら、泉実はそんなことを考えて気落ちした。



 雨は深夜になり、ようやく小降りになった。

 そして翌朝には上がり、いつも通り眩しい太陽が顔を出す。



「ラサの軍営より早馬がまいりました」


 シュリの執務室でルークが伝える。

 泉実たちを保護した国境警備隊駐屯地からの、例の人買い事件に関する続報だった。


「一味ならびに(とら)われていた女たちの計十名、全員アルドラ国出身と判明し、先方への引き渡しが決定いたしました。明朝、出立する予定とのことです」


 シュリは執務席の椅子に座って聞いている。


「それで、証言は取れたのか」

「はい。――一味がイヅミ様を発見したのは、カナンの岩砂漠であったと」


 その報告にシュリは深く息を吐き、表情を険しくした。

 ルークもまた、そんな主君を難しい顔で見つめる。


「……そいつらはイヅミをどうするつもりだったんだ」

「この国を抜け、他の女たち同様ソーマ国に売り払うつもりだったとあります」

「なんだって!?」


 シュリは椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった。


「あの天啓を目にしておきながら、そのあとイヅミを他国に売ろうとしたのか!?」


 神をも(おそ)れぬ所業に、怒りで眩暈(めまい)がしそうになる。

 しかしルークは「いえ」と言って報告を続けた。


「一味はあの晩の出来事を知らないと供述しているそうです」

「そんな馬鹿なことがあるか。ここマナフィスでも確認できたんだ。あの時間あの付近を走っていて、気づかない訳がない」

「それが、馬車の中にいた女たちも、一味の様子に異変はなかったと証言しております。もっとも四人中三人は、意識がはっきりしていなかった模様ですが」


 シュリが信じられないといった顔をする。


「まさに、神のなせる(わざ)なのでしょう」


 ルークの言葉にも、シュリは茫然と宙を見つめ、その場に立ち尽くすのみであった。



 ◇◇◇



 一方その頃、朝食を取り終えた泉実は部屋のバルコニーに出て、このあと何をして過ごそうかを考えていた。

 今朝は雲一つない快晴だ。日差しは強いが、この時間はまだ気温もそれほど高くない。

 穏やかな風もあり、屋内にいるよりも外の日陰で過ごすほうが気持ち良さそうだった。


 ――中庭って、出てもいいのかな……。


 食堂のテラスからは、小さな中庭に出られるとシュリから聞いた。

 警備の都合上、今はできるだけ宮の外に出ないように言われていたが、一階のテラスとその付近であれば問題ないとの話だった。

 一応、シュリの許可を取ってからにしようと居間に戻ったちょうどその時、コンコンと扉を叩く音がした。



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