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75 反撃


 上からの怒号が塔に響き渡る中、泉実は必死に螺旋階段を降りていく。

 すぐに一階の廊下の角から、二人の男が階段下に飛び出してくるのが見えた。

 男たちは泉実を掴まえようと階段を駆け上がってくる。それでも構わず下を目指し、双方の距離が数メートルにまで詰めたところで、泉実は小皿の形をしたものを前に放った。

 男たちは反射的に動きを止め、飛んで来るものを目で追った。

 カラン、と彼らの足元に落ちたそれは、小皿ではなく、例の陶器瓶の蓋だった。

 怪訝な顔をした二人が再び視線を上げた時――泉実は両手で本体の瓶を持ち、体をひねらせていた。

 男たちの表情がこわばる。

 よせ、という制止の声を無視し、泉実は瓶の中身を二人に向かってぶちまけた。


「うわっ……!」


 パシャァッという音と共に薄い色の液体が頭から掛かり、男たちは腕で顔を庇った体勢で硬直した。

 彼らがこれほどまでに(ひる)んだのも無理はない。泉実が手にしていたモノがモノだけに、内容物を勘違いしたのだ。

 茫然とする二人の間を突破しようと足を踏み出した直後、一階から新たな手下がばらばらと現れた。

 こちらを指差し、駆け上がってくる。

 泉実はさっと上を見た。

 すると先ほど自分がしたたかに痛めつけた男が、ナイフを片手にじりじりと近づいてきていた。


 ――万事休すだ……。


 逃げ場を失った泉実は壁に背を付け、せいぜいここまでだったかと観念したのだが――――。



「おい! なんの騒ぎだ」


 突然、すぐ脇の壁から人が現れた。

 ではなく、壁と同化した通用扉から、手下の一人が飛び出してきたのだった。

 新たに出現した男は、数段下にいる仲間二人が前を濡らしているのを見て棒立ちになった。

 後ろにいた泉実は考えるより先に、その男の膝裏を蹴った。


「うぉ!」


 中途半端な万歳をして、男が濡れた仲間にダイブする。

 その結果を見ず、泉実は通用扉の向こう側に駆け込んだ。下の二人は彼をちゃんと受け止めただろうか、などと相手を気遣う余裕はなかった。

 そこへようやく上から追いついた男が、ナイフを振りかざし突進してきた。

 泉実はとっさに瓶を投げつけ、肩で勢いよく扉を閉めると同時に鍵を掛けた。


「――てめえ、ここを開けやがれ!」


 ガンガン扉を叩く音とくぐもった怒声を背に受けながら、薄暗い廊下を無我夢中で駆け出す。が、前方の階段付近から声がしたため、急いで手近な部屋に逃げ込もうとした。

 目についた扉に飛びつき取っ手をひねる。元々鍵は付いておらず、扉はすんなりと開いた。

 素早く中をうかがう。誰もいない。泉実が部屋に入ってしばらくすると、廊下をドタドタと複数の人間が走り抜けていった。


 ――いったい手下は何人いるんだ……。


 じきにここも踏み込まれる。

 そうなれば、もはやこれだけの人数を突破するのは無理だ。

 泉実はカーテンの取り払われた窓に近づいた。

 室内はがらんとしているが、この部屋は普通の部屋だ。窓は上げ下げ式で、鉄格子ははめられていない。

 立て付けの悪くなっている戸を苦労して上に押しやり、顔を出して下を確認した。

 今いるのは二階だった。ただし日本の一般住宅の三階に相当する高さだ。

 普通に飛び降りれば怪我をする。


 そうしているうちに廊下で扉を開け閉めする音が聞こえてきた。男たちが部屋を一つ一つあらためているようだ。

 万事休す、再びである。

 思わず窓の下にずるずると座り込んだ、その直後のことだった。


 晴れた空が、ゴロゴロ……と鳴った気がした。



 次の瞬間、上の階から凄まじい轟音が響き、床に振動が走った。



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