59 晩餐のあと
前回と同じ客間に通された泉実は、シェラネイアの勧めもあり、食事の前に離れにある温泉に入って長時間の移動の疲れを流した。
そうしてさっぱりしたあとは、シェラネイアとユインの三人で晩餐を取った。今回は事前に訪問の連絡を入れていたので、料理長が腕を振るったのだろう。数々の豪華で珍しい料理が所狭しとテーブルの上に並んだ。
半年ぶりの再会で会話も弾み、時には笑い声も上がるなど、その日の晩餐は泉実にとっても久々に楽しい時間となった。
そのあと泉実は「お土産があるんです」と言って、シェラネイアにはストールを、ユインにはスモック型の寝巻きを手渡した。
どちらも色は淡いブルーで、光沢のある同じ生地を素材としている。
「まあ、なんて美しい……。肌触りもまた柔らかな……」
「カザリヤでしか生産されない織物なんだそうです。王子のは、城の職人に頼んで服に仕立ててもらいました」
「ぬのが、すごくつやつやしています」
「実は僕の腰布とお揃いなんだ」
泉実は上衣の前合わせを少しだけ開いてみせる。
シャツの上から腰に巻いているそれは、フラムの酒に倒れたあの騒ぎの翌々日、レスターから快気祝いとして贈られたものだ。
「おそろいなんですね! イヅミさま、ありがとうございます」
「ありがとうございます、イヅミ様……大切に使わせていただきます」
心から嬉しそうにしている二人を前にして、泉実も自然と笑みがこぼれる。
――やっぱり、レスターさんに相談して良かった。
普段の言動はあれではあるが、こういった分野に関し彼は確かなセンスを持っている。
さらには、これら品物の代金を手持ちのザイル金貨で払おうとしたところ、「経費で落としますのでどうぞお気になさらず」との申し出を受け、結局ただでもらってしまった。
――帰ったら、改めてお礼を言おう。
泉実は心の中でレスターに感謝した。
そんなニコニコとしている三人の様子を、シドも部屋の隅から微笑ましく眺めていた。
が同時に、レスターの感性が自分よりも上であることを改めて認識させられ、若干の腹立たしさも感じていたのだった。
◇◇◇
ユインが寝付いたあと、泉実とシェラネイアは応接間で二人だけになって話をした。
「あの子といったら……イヅミ様からいただいた寝衣がよほど気に入ったみたいですわ」
シェラネイアが口元に手を添え、くすりと笑う。
ユインは就寝前に、泉実から贈られた寝巻きを着て、わざわざ二人に見せに来たのだ。
嬉しそうな顔で見上げてくるユインを、泉実も目を細めて「よく似合ってるよ」と誉め、頭を撫でてやった。
そして今シェラネイアは、泉実の贈ったストールを羽織っていた。思った通り、彼女は青系の色味がよく映える。
そうシェラネイアにも伝えた時、ユインの隣ではにかんだ笑みを浮かべていたのを思い出して、泉実は頬を緩ませながら話に相槌を打った。
「あんなに喜んでもらえて、僕も嬉しいです」
「ユインは朝から、今日はイヅミ様がいらっしゃると言ってはしゃいでおりました。普段はもう少し落ち着きのある子なのですけれど……」
「王子はあの年で、充分しっかりしていると思いますよ。皆さんがきちんと教育されているのが分かります」
そこでシェラネイアは、なぜか困ったように視線を落とした。
「あの……?」
「――陛下に、そう申し付けられているのです。王族としてしかるべき振る舞いを身につけさせるようにと」
その声色にはどこか不本意とも取れる響きがあり、泉実は内心首をかしげた。
「それは、王子の為を思ってのことでしょう。もちろん、陛下はシェラネイア様のことも気にかけてますよ」
「……さようでしょうか」
「え?」
「いいえ――失礼いたしました」
出会った頃のような、やや硬い表情になったシェラネイアを見て、泉実は迷った末に、その質問を口にした。
「……シェラネイア様は、まだ陛下のことをお許しになっていないんですか?」
シェラネイアが小さく息を呑む気配がした。
「六年前――もうすぐ七年になるんでしょうか。陛下が王位に就いて、それから何があったかを聞きました。なぜシェラネイア様が城を出たのかも」




