58 再会
三月も初旬を過ぎると、王都デルファとその周辺ではすっかり暖かな気候となる。
天候にも恵まれた週の中日の朝、隊列が待機する王宮の東門前で、泉実はキリエとイルゼの見送りを受けていた。
半年ぶりに、シェラネイアとユインに会いに行くのだ。
今回も離宮に二泊の予定で、同行の騎馬兵は前回の移動時より少ないものの、それでも百人近くが集められた。
離宮があるハサルの領は王都と隣接している。道中それほどの危険がある訳でもなく、泉実は兵の数を多いと感じたのだが、キリエ曰わく、これでもだいぶ数を絞ったのだという。
先頭集団で隊の指揮をとるのは騎兵軍団長のローエンだ。泉実の乗る馬車にはセネガとシドが同乗する。
上官を差し置いて自分たちは馬車で移動することに、セネガとシドは気が引けないでもなかったが、狭い車内で長時間を過ごすため、同乗者は泉実の気心知れた者がいいだろうという決定になった。
ちなみに正副の将軍、ダレスとヴァーリは同行のメンバーに入っていない。軍事遠征ではないので、今回の隊は近衛の兵のみで編成されることになったからだ。
これまで一度も泉実と挨拶を交わしていないダレスは、自分も行くと言ってハディスに陳情するも、「次の機会にせよ」と訴えを退けられ、希望は叶えられなかった。
また、長時間馬に乗ることのできないイルゼも留守番となった。
「――じゃあイルゼ、留守を頼むね」
「かしこまりました。どうぞお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「無事のお帰りをお待ちしております」
見送るイルゼとキリエに行ってきますと明るく告げ、泉実は馬車に乗り込んだ。
ハディスには昨夜のうちに挨拶を済ませてある。マデイラとミリシナには今回の外泊をわざわざ伝えていなかったが、とくに問題ないだろう。
「――では出発!」
馬上のローエンが高らかに号令を発し、穏やかな日差しの下、一行は意気揚々と離宮に向けて出立した。
◇◇◇
昼休憩を挟み、出発から八時間後の夕刻になって、木々に囲まれた白亜の宮殿が見えてきた。
敷地内に到着し、泉実が馬車から降りた直後にユインが玄関から駆け出してきた。
「イヅミさま!」
「ユイン王子」
笑顔のまま抱きついてくるかと思われたユインは、しかし王族としての自制心が働いたのか、すぐ手前でぱっと立ち止まった。
そこで泉実は身を屈め、両手を広げてみせる。
そうしてやっと自分の胸に飛び込んできたユインを抱き返した。
「久しぶり、元気だった?」
「はい。イヅミさまも、おかわりありませんでしたか?」
「この通り元気でやってたよ。ちょっと体がなまっちゃったけど」
なにせひと冬のほとんどを室内で過ごし、城の外に出たのも半年ぶりだ。
その時、ゆっくりと歩み寄ってきたドレスの人物に気づき、泉実は顔を上げた。
「シェラネイア様」
「ご無沙汰しております、イヅミ様――。ようこそお越しくださいました」
シェラネイアがドレスの端を持ち上げ、たおやかに腰を折る。
「ご無沙汰しています。シェラネイア様もお変わりなさそうで、何よりです」
「はい。おかげをもちまして、母子共につつがなく過ごしております。イヅミ様に再び訪問いただけると聞いてから、宮の者一同、この日を心待ちにしておりました。――皆様、お疲れでいらっしゃいますでしょう。どうぞ中へ」
泉実の後ろにいるセネガとシドにも微笑みを向け、シェラネイアが促した。
「あ、はい。えっと……」
隊列を振り返った泉実に、ローエンは「我々のことはお気になさらず」と伝え、勝手知ったる様子で別の場所に兵を移動させる。
「じゃあ、お邪魔します」
そんな庶民的な挨拶を口にすると、泉実はユインと手を繋ぎながら、シェラネイア、セネガ、シドに囲まれて建物の中に入っていった。




