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05 国境


「まさか、()()ぎでも出たんじゃないだろうね……」


 そんなつぶやきが耳に届き、泉実は驚いてエルマを振り返った。

 追い剥ぎだの山賊だの、これ以上悪い事態になるのは勘弁してほしかった。


 外は見えないが、後方から複数の(ひづめ)の音が迫ってきているのが分かった。

 二、三頭ではない。もっと多い。

 馬車が速度を上げる。

 道なき道を走っているのか、車内はガクガクと前後左右に激しく揺れた。

 ぐったりしている娘の一人が倒れ込んできたのを泉実は片手で受け止め、もう片方の手を壁につき必死に支えた。

 追っ手はもう、すぐ隣を併走しているようだ。

 止まれと叫ぶ声がする。


 二台の馬車はたちまち包囲され、停止する。


 しばらく抵抗するような声が聞こえていたが、剣がぶつかり合う音はせず、やがて複数の足音が泉実たちのもとへと近づいてきた。

 (かんぬき)が外される音に、泉実は身を硬くした。

 扉が開き、現れた集団は兵士の格好をしていた。



 ◇◇◇



 彼らはザイル王国の国境警備隊だった。

 二台の馬車は泉実たちを乗せたまま、兵馬に取り囲まれて軍の基地へと連行された。

 泉実がのちに聞いた話では、普段はこの辺りを兵が行き交うことはなく、この日は特別に見回りの範囲を広げていたとのことだった。


 到着した頃にはすっかり日が落ち、意識のはっきりしていなかった娘三人はだいぶ動けるようになっていた。

 縄を掛けられた一味はどこかへ引っ立てられていき、解放された者たちは聴き取りのため館内に誘導された。

 しかしなぜか泉実だけ途中で別にされ、エルマたちとはそこで離れることになった。


 泉実は個室で一人待たされたあと、入ってきた二人組の軍人にいくつかの質問をされた。

 だがほとんどの問いに対して分からないとしか答えられず、出身については、この大陸から遠く離れた東の小さな島国だと説明した。

 不審極まりないと泉実は自分でも思ったが、幸いにも、深く追及されることはなかった。


 その後案内されたのはベッドのある居室で、食事の他に、身体を拭くための湯や靴まで用意された。

 怪しい者として牢に入れられることも覚悟していた泉実は、この待遇に目を白黒させた。

 食器を下げにきた若い兵士にそれとなく理由を訊いてみたところ、相手は上擦った声で「上からの指示ですので」とだけ答え、ぎくしゃくと立ち去ってしまった。

 泉実は混乱したが、考えているうちに一気に疲れと眠気が押し寄せ、その日は一日ぶりのベッドに倒れ込むようにして眠りについた。



 翌朝声をかけられて目を覚ますと、今度は服が用意されており、すぐに着替えて出立の準備をするよう指示された。

 これから王都へ向かうというのだ。


「あの、どういうことでしょう」


 やや大きめシャツとズボンに着替えた泉実は、控えめに尋ねた。


「昨夜あのあとすぐ、今回の一件を王都に報告したところ、そのような命令がありまして」


 詳しいことは分かりませんが、と説明するのは、泉実を聴取した二人組のうちの一人だ。

 しかしその表情からは、明らかに事情を知りながら言い淀んでいるのが見て取れる。


「今から出立すれば昼過ぎには王都に着きます。表に馬車の用意がありますので。――あとこちらを」


 そう言われて包みを持たされると、なかば追い立てられるようにして馬車に乗せられ、泉実は訳も分からず王都マナフィスに向かうことになったのだった。



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