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45 争乱


 ――六年前の三月の終わり。王が急な病で没した時、その息子である王子は四人いた。

 彼らはそれぞれ母の違う兄弟だった。跡を継ぐとされていたのは、亡き王后を母に持つ長兄、サリム王太子。当時二十六歳であり、その二年前に妃に迎えた三歳年下のマデイラを、(ただ)一人の妻としていた。


 だが以前より王位を狙っていた第二王子ウィレムは、父王の崩御を自身の館で知るやいなや、密かに企てていた計画を実行に移す。

 公務で西の領に滞在していたサリムに刺客を差し向け、同時に私兵を召集し、ハディスとナイジェル双方の館を急襲したのだった。


 しかし、事前にウィレムの動きを掴んだハディスは先んじて行動を起こした。

 配下の者をナイジェルの館に向かわせ、彼と妹、その母親の三人を馬車で脱出させると、自らも兵を挙げウィレムの手勢を迎え撃った。

 そして数日のうちにハディスがウィレムを討ち取った時には、サリムは滞在先にて刺客の刃にかかり、すでに還らぬ人となっていた。


 生き残った王子二人のうち、兄のナイジェルが即位を辞退したため、半年違いの弟ハディスが新王の座に就いた。

 ハディスが二十一歳になった、二日後のことだった。


 争乱が収束した直後、息子が敗死したことを知ったウィレムの母親は毒をあおって自害した。またウィレムの大勢いた妃たちは、夫が大罪を犯したことにより身分を失い、城を去らねばならなかった。


「――ウィレム殿に子がいなかったことは幸いでした。もし男子がいれば、極刑に処されていたことでしょう」


 のちの禍根(かこん)を残さぬために。


 最後にそうつぶやき、マデイラはそっと口を閉じた。



 泉実は痛ましげに、ただ黙って話を聞いていた。

 顔を上げたマデイラと目が合っても、かける言葉がとっさには見つからなかった。


「……つらい思いを、されたんですね」


 そんな月並みな言葉しか出てこない泉実に、マデイラは()いだ表情を見せた。


「一番つらい時期は、もう過ぎました」


 それから「お茶が冷めてしまいましたわね」と困ったように微笑むと、控えの侍女に替えを頼み、泉実にテーブルの上の茶菓子を勧めた。



 ◇◇◇



 予期せぬ形で王位争いのいきさつを知った泉実は、シドと共にマデイラの部屋を出たあと、浮かない顔で来た道を戻ろうとしていた。

 そうして二階の踊り場に差しかかった時、そこに身を屈めて礼をとるミリシナの侍女をみとめ、足を止めた。


「我が(あるじ)の部屋にも、どうかお立ち寄りくださいますよう……」


 侍女に()われ、そのつもりのなかった泉実はシドと顔を見合わせたが、拒む理由もないため、次いでミリシナを訪ねることにした。




「――イヅミ様がマデイラ様をお訪ねと小耳に挟みましたものですから、こちらにもお立ち寄りいただきたくて、侍女を待機させておりましたの」


 泉実の正面に腰を下ろし、ミリシナは(あで)やかに微笑んだ。


「是非もう一度、お話をしたいと思いまして……ご迷惑でした?」

「そんなことありません。ミリシナ様も、今度こちらに遊びにいらしてください」

「まあ……嬉しいお申し出ですが、それは難しいかもしれません」

「……そうなんですか?」

後宮(ここ)には外の者もわりと自由に出入りできるのですが、反対にわたくしたちは、王宮行事以外で宮の外に出ることは認められておりませんの」


 初めて聞いた後宮の不可解なルールに、泉実は目を丸くした。


「それは、どういう理屈なんでしょうか」

「昔から、そういうしきたりになっているのです。いつ王がお渡りになってもお迎えできるように、といった理由ではないかと」

「ああ……なるほど……」


 などと納得しかけるも、未亡人である彼女たちに、今もそれを強いるのは少々酷ではないかと思う。

 テレビもネットもないこの世界で、ここの女性たちはどうやって毎日を過ごしているのだろう。


「ですから女同士で、おしゃべりに花を咲かせる日々なのですわ」


 泉実の心を読んだかのように言うと、ミリシナは口元に袖を当て、ホホホと笑った。



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