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44 祭りのあと


 泉実はハディスの指示に従い、三日目の宴は欠席した。その後二日間はほとんど宮を出ず、ご機嫌伺いにやってきたレスターやキリエから、祭りで賑わう街の様子を聞くなどして過ごしていた。

 そうして五日間にわたった祭りの期間が明けた次の日、泉実の部屋にセネガとシドの二人が訪ねてきた。

 泉実専属の護衛として正式にシドが選任され、この東翼に詰めることになった報告に来たのだ。


「状況に応じ、このアスレイ以外にも警護の者が付きますので、どうぞご安心を」


 セネガの説明に泉実は頷き、シドに向き直った。


「じゃあ改めて、よろしくお願いします」

「――この身に代えて、御身(おんみ)をお守りいたします」


 シドは泉実の前で(ひざまず)くと、左胸に手を当てて誓いの言葉を口にする。

 本物の騎士が忠誠を誓う姿に、泉実は密かに感動を覚えた。

 そして同時に願う。

 どうか彼が、自分のせいで危険な目に遭いませんようにと――。



 ◇◇◇



 ある日の午後のこと。


「このあと後宮に行きたいんだけど、キリエさんの付き添いがないと駄目かな」


 突然そんなことを言い出した泉実に、イルゼは仕事の手を止めて問いを返した。


「どうかなさいましたか」

「いや、単に遊びに行きたいだけだけど」


 イルゼは軽く目を見張り、それから「かしこまりました」と言って、すぐにキリエに連絡を取った。



 供を付けていればとくに問題はないとの返信から、泉実はシドにその役目を頼み、久しぶりに宮の外に出た。

 西翼までの長い回廊を二人並んで歩きながら、泉実はシドに明るく話しかけた。


「シドは後宮に行ったことある?」

「はい。入隊二年目に、何度か一階の警護にあたったことがあります」

「シドって今いくつ?」

「二十三です」

「独身?」

「……はい、さようですが……」


 最後の質問には意図を図りかねたのか、やや困惑顔で答えたシドに対し、泉実は片手をぱたぱたと左右に振った。


「ああ、ごめん。こっちの人たちって結婚が早いみたいだから、どうなのかなと思っただけ」

「確かに、王族の方々などは十代で婚姻されることも珍しくありません。一般の男子なら二十五、六で身を固める者が多いかと思います」

「……そんなに早い訳じゃないんだ」

「女は二十歳(はたち)前後で嫁ぎますが、男のほうが数が多いので、良縁に恵まれないというのもあります。夫を亡くした妻をもらう者も多いですよ」


 そうなのか。

 日本では進学や就職で苦労している人も大勢いるが、ここはここで競争社会だ。


 そんな話をしているうちに後宮に到着し、泉実は真っ直ぐマデイラの部屋に向かった。

 先触れを受けていたマデイラは、(ほころ)ぶような笑顔で泉実を出迎えた。


「イヅミ様、ようこそお越しくださいました」

「こんにちは、マデイラ様」


 泉実もにこやかに挨拶をして、勧められるまま奥へと進んだ。




「宴の二日目に、マリシーク大公とお会いしました」


 その日会場にいなかったマデイラに、泉実はナイジェルと挨拶を交わしたことを伝えた。


「ええ、そのあとこちらにも挨拶に来られました。すぐにお帰りになってしまいましたが……」

「そうでしたか。陛下の異母兄弟だそうですが、なんというか、静かな感じのかたですね」

「ナイジェル殿は陛下の半年違いの兄君です。昔から、ご自身が表に立つことを良しとしないご様子でした。他のご兄弟との間に軋轢(あつれき)が生じるのを、避けておいでだったのでしょう」

「じゃあ、陛下と仲が悪い訳ではないんですね?」

「不仲ということはなかったと思います。あの争乱の際も、ナイジェル殿のご一家をナバムに避難させたのは陛下ですし……」


 マデイラが声の調子を落とし、泉実ははっとなって手にしていたティーカップを置く。

 あの争乱とは、王太子が命を落とす原因となった王位争いのことだ。


「すみませんマデイラ様、その……」

「そんな顔をなさらないで。――イヅミ様は、陛下のご兄弟についてあまり聞いていらっしゃらないのですね」

「はい、ほとんど何も……」

「さようですのね……では、わたくしからお話しいたしましょう」


 そうしてマデイラは手元を見るともなく見つめながら、前王が崩御(ほうぎょ)した日のことを語り始めた。



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