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40 祝宴


 日が沈み、明かりが灯された王宮の正面に続々と訪問客が到着する。

 アルドラでは豊穣祭の時期に合わせ、地方を治める領主や高官が王のもとに挨拶に訪れるのが慣例となっている。遠方からの訪問客のために城では宿泊の部屋が用意され、夜は宴席が設けられた。

 そして今回の宴ではリザリエルに拝謁が叶うということで、会場には例年を上回る出席者が集まっていた。


 泉実は宴用の鮮やかな衣装に着替え、再びハディスと共に会場となる大広間に出向いた。

 午前の顔見せの時とは違い、床には中央を空けるようにして敷物が敷かれ、男性客はその上にあぐらをかいて座っている。祝宴とあってすでに場内はくつろいだ雰囲気で、泉実たちは遠慮のないざわめきをもって迎えられた。


 壇上には後宮の女性たちが着座していた。少し高い場所にマデイラとミリシナ、その両脇と下段にざっと二十人以上が陣取っている。

 ただし妃付きの侍女や上級女官も同席できるらしいので、誰が前王の妾妃で誰がそうでないかは分からなかった。

 最上段の中央にはカウチのような低い椅子が二つ並んであった。ハディスと泉実の席である。


 ――雛祭りみたいだ……。


 三段飾りの雛人形を彷彿とさせる壇の光景に、泉実はそんな感想を抱きながら、ハディスのあとについて進む。

 途中、目が合ったマデイラとミリシナがにっこりと微笑んできた。

 もし下の段に彼女たちがいなければ、完全に披露宴の新郎新婦の様相だ。泉実は二人に感謝をこめた笑みを返し、ハディスの隣に着席した。


 宴はほぼ無礼講だった。ハディスが座したまま泉実を紹介し、晩餐の開始を短く告げると、酒や料理が次々に運びこまれ、あちらこちらで賑やかな歓談が始まった。

 広間の中央では余興が披露された。楽師の演奏に合わせ、エキゾチックな衣装の踊り子たちが華麗に舞う様子を泉実が眺めていた時、隣から声がかかった。


「酒が進んでおらぬようだな」


 (さかずき)を口に運びながら、ハディスが泉実の前に置かれた膳を目で示した。

 ハディスの言う通り、泉実は料理には手をつけているものの、酒杯には口をつけていなかった。


「酒は飲めません」


 端的な泉実の返答に、ハディスの眼差しが幾分冷ややかなものになる。

 そのままじっと横目で見据えられ、泉実が居心地の悪さを感じ始めた頃、ハディスはそこで関心をなくしたように視線を正面に戻した。


 ――なんなんだ。


 泉実はわずかに眉を寄せるも、一応周りの目を考慮して、何事もなかったふうを装い再び余興を観賞した。




 その後大勢の出席者から挨拶を受けた泉実は、宴を抜けてイルゼと共に部屋に戻ってきていた。

 宴は深夜にまで及ぶため、主賓でも途中退出が許されている。泉実はイルゼを下がらせたあと、どさりと落ちるように長椅子にもたれた。



 ――――疲れた…………。



 天井を仰ぎ、大きく息を吐いて今日一日を振り返る。

 城内での顔見せに始まり、国民への披露目、そのあとの祝宴と、人前に出ることに慣れていない泉実は神経をひどく消耗した。

 何より、国民の期待に満ちた眼差しを思い出すたびに、見えない重圧が自分にのしかかってくるような胸の苦しさを覚えた。


 指一本も動かしたくないほど疲弊していたが、このままでいる訳にもいかない。泉実はのろのろと起き上がると、服を脱いで寝巻きに着替えた。


 結局、その日はベッドに入っても明け方まで寝付けずにいた。



 ◇◇◇



 次の夜。


「――宴には、初日だけ出ればいいんじゃなかったの」


 広間から出席要請があったことを伝えられ、泉実は寝不足なせいもあり、ついイルゼに対して尖った口調になった。


「はい……わたくしもそのように聞いていたのですが、今夜も予想以上の訪問客があり、イヅミ様のお目見えを陛下に願い出ているそうです」


 イルゼが申し訳なさそうに説明する。


「……王様はなんて?」

「強制はしない、とのことです」


 泉実はため息が出そうになった。

 そう言われたところで、じゃあ行きませんとは言えないだろう。

 自分がそのような態度をとれば、王の威厳が損なわれたなどといった、厄介な噂が国中に広まりかねない。


「分かった。出るよ。でもひと通り挨拶を受けたらすぐ抜けるから」

「それは問題ありませんわ。――では、今夜はこちらのお召し物を」


 昨夜とは違う、これまたひらひらした衣装を見せられ、泉実は今度こそ本当にため息を漏らした。



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