38 披露目
十月に入り、いよいよ披露目を翌日に控え、衣装合わせのためにレスターが泉実のもとを訪れていた。
「こちらでございます」
満面の笑みを浮かべたレスターが広げて見せたのは、重ね着仕様の紺色の祭服だった。
胸の合わせ部分に房飾りが付いた、形としては意外にもシンプルなデザインの長衣だ。
といっても布地には透かしが織り込んであったり、金糸の細かい縁取りがされていたりと、ディテールに凝った作りになっている。
そして服と同じく紺色の聖職者帽。
それは尖りのない王冠のような円筒形をしており、正面には金色の六茫星の印があった。
ユインからもらった本を読んで知ったが、六茫星はリザリエルの紋章だ。
確かリザリエルの紋章は教会の許可なく使用できなかったはずだ。アルドラ王家は破門されているのに、いいのだろうか。
そうレスターに尋ねたところ、「リザリエルがご自身の紋章を使うことに、誰の許可がいりましょう」とにっこり笑って返された。
要するに、無断使用らしい。
「イヅミ様、よくお似合いですわ」
「……おお、これぞまさに天上人。私は自分の才能が恐ろしい……」
衣装に身を包んだ泉実を見て、イルゼとレスターは目を細めている。
ただしレスターのほうは、デザイナーとしての自身の腕前に悦に入っているようだった。
全身鏡に映った自分はどう見てもゲームのコスプレイヤーだが、確かに作品の出来は素晴らしいと思う。
泉実は鏡を向いたまま、その端に映る二人に「ありがとう」と礼を言った。
そして当日。
衣装に着替えた泉実はイルゼに案内され、初めて居住区の本館に足を踏み入れた。
そこでハディスと落ち合い、城内で主だった家臣たちに顔見せをしたのち、国民が集まる王宮広場前の塔を回る段取りだ。
一階のホールには、すでにハディスが椅子に座って待っていた。
その傍らには、ヴァーリとキリエもいる。
ハディスはゆっくりと立ち上がり、泉実の前まで歩み寄った。
「ほう、それらしく見えるではないか」
額にサークレットを着け、黒を基調とした礼服を身に纏ったハディスは、満足げに泉実を見下ろして言った。
「……ご無沙汰しています」
嫌味に聞こえるだろうかと思いながらも、他に適当な挨拶が思い浮かばず、泉実はそう返事をした。
だがハディスは別段気を悪くしたそぶりは見せず、「ついてまいれ」と短く告げて先を歩き出した。
泉実の前にハディスとヴァーリ、後ろにキリエとイルゼが並んで移動する集団に、各所に配置された兵士たちが直立で敬礼する。
会場となる一階の大広間には、軍の高官や城の大臣ら数百人が集まっていた。
前方の扉からハディスと泉実が姿を見せると、ざわついていた場内は水を打ったように静まり返り、やがて感嘆の息や囁き声が広がっていく。
泉実はハディスのあとについて正面の壇に上がり、家臣たちに顔を向けた。そうして黙って立っているだけでいいと、事前にキリエから言われている。
ハディスは集まった者たちをゆるりと見渡し、威厳に満ちた張りのある声を響かせた。
「そなたたちもすでに聞き及んでおろう。此度、我が国は女神リザリーの使者を迎えることとなった」
家臣たちの視線が泉実に集中する。
泉実はそれをかわすように、そっと目の焦点を彼らの後方へとやった。
「一年の豊穣を祝うこの善き日に、改めて皆に紹介しよう。今ここにいるのは、エステル統一王の治世より数えて五代目となるリザリエル。女神が我らに遣わした、実に八百年ぶりの御使いである。リザリエルの存在はアルドラ国民の希望の象徴となり、国家はなお一層、磐石の構えとなるであろう」
ハディスが力強く宣言すると、一拍の静寂ののち、場内から割れるような拍手と歓声が沸き起こった。
流星が降った夜、アルドラに降臨した天の御使い。もはや大陸の伝説となりかけていたその存在が主君に寄り添う姿に、家臣たちは口々に王と国家を称えて万歳を唱え、広間は熱気に包まれる。
その様子を誇らしげに眺めるハディスの隣で、泉実もまた喝采を浴びながら、しかし、どこか他人事のようにそれを受け止めていた。




