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33 陰の護衛


「……あれって、パルテですよね」


 数軒先にある小さな屋台を見つけ、泉実がつぶやく。


「そのようです。お買い求めになりますか?」


 セネガがシドに目配せするのを見た泉実は、「あ、自分で買います」とことわってから屋台に寄り、前回同様、三人分のパルテを買って戻ってきた。


「良ければどうぞ」


 小皿を差し出す泉実に、セネガがやや茫然として尋ねた。


「イヅミ様、支払いはどうされたんですか」

「ザイルでもらったお小遣いで払いました。本当にアルドラでも使えるんですね」


 ザイルの貨幣はアルドラでも通用すると、メイゼンから聞いていた。

 泉実はパルテが食べたかったというよりは、露店でもザイルの銀貨で買い物ができるのか、実際に試してみたかったのだ。


「さようでしたか。では、謹んで頂戴いたします」

「自分にまで、恐縮です」


 菓子一つにもかしこまるセネガとシドに笑みを漏らしながら、泉実はパルテをかじった。

 だが噛んでいるうちにぴりっとした刺激を舌に感じ、やがて波のように襲ってきた強烈な辛味に、たまらず背を丸めてゴホゴホとむせてしまった。


「イヅミ様!?」

「大丈夫ですか」


 真っ先に声を上げたのはシドで、セネガも驚いた顔で泉実を覗き込んだ。


「…………すみません、大丈夫です……ちょっと辛かったので……」


 泉実は口元を押さえ、もごもごと答えた。


「シド、何か飲み物を買ってお持ちしろ」

「いえ、本当に大丈夫です。ザイルで食べた時には辛くなかったので、油断してたというか……耐えられない辛さじゃないです」


 実際には口の中に火が点いたような状態であったが、同じくパルテを食べたセネガたちが平然としているため、恥ずかしくなった泉実はその後も『大丈夫』を繰り返した。


「ならば、よろしいのですが……。こちらの甘くない菓子には、我が国の名産品である香辛料がよく使われるのです。慣れていないと、確かに驚かれるかもしれません」

「そうなんですね……」


 セネガの説明を聞き、メイゼンはアルドラの名産品の一つに香辛料があるとも言っていたと、泉実はこの時になって思い出した。

 それから手にしていた残りを慎重に口に含むと、息を止めて咀嚼(そしゃく)し、なんとかそれを飲み込んだのだった。



 ◇◇◇



「――今のはどうしたのだ。喉を詰まらせたか?」

「分かりませんが、もう何ともないようですよ。……それにしても和気あいあいとしていますね」


 物陰から泉実たちの様子をうかがっていたフード姿の二人組は、声を潜めて会話する。


「あの目つきの悪い若いのは、どこの所属だ」

「アスレイですか。セネガの部下ですが」

「……なぜ、あやつのような若輩(じゃくはい)が供を許されて、我々は隠れて護衛せねばならんのだ」

「王命ですから致し方ありません。我々とクレイグ、ディランの四名は、当面の間リザリエルの御前(ごぜん)に姿を見せぬようにと」


 それはザイルに進軍した際、王城の広間で泉実と対面した面子(めんつ)だった。


(いか)つい連中と言われてしまいましたからね」

「――私は決して厳つくはない。だが揃いも揃って厳ついおまえたちと共にいたばかりに、私までひと(くく)りにされてしまったのだ」

「まだおっしゃっているのですか、ダレス将軍」

「今は叔父上と呼べ!」


 口角泡(こうかくあわ)を飛ばす勢いでいきり立つ将軍ダレスに、騎兵軍の団長であるローエンは内心やれやれと肩をすくめた。


「まあ、ザイルではなかなか手厳しい発言をされておいででしたが、リザリエルもご本心からおっしゃった訳ではないと思いますよ。周りの者が言うには、普段はもの静かで気配りのできる少年とのことです。――いや、少年ではなく、成人されているんでした」

「成人だと?」

「お年は十八だそうです。北の離宮で、ユイン王子にそうお話しになっていたと、セネガが申しておりました」

「あれでか? ……十五、六にしか見えんが」


 ダレスは目を丸くすると、建物の角から首を伸ばして泉実を凝視した。



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