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32 城下町


「――では、参りましょうか。キリエ殿のご指示通り、東門に馬車を待機させておりますので」

「私も下までお送りします。イルゼ殿、あとをよろしく頼みます」

「はい。皆様、お気をつけて」


 セネガとキリエの言葉を受け、イルゼは一行に頭を下げる。


「それじゃ、行ってきます」


 泉実は留守番のイルゼに声をかけると、浮き立つ気分で皆と共に部屋をあとにした。



 泉実、セネガ、シドの三人は、別の兵士が御者(ぎょしゃ)を務める馬車に揺られ、王宮の東門から城下までのなだらかな斜面を下っていた。

 その間、セネガはいくつかの確認事項を泉実に伝えた。


「本日はお忍びでの見物となりますので、街ではイヅミ様とお名前でお呼びしてもよろしいでしょうか」

「はい。というか、できれば今後もそうしてください」

「承知しました」


 セネガが頷き、シドも了解したように軽く礼をした。


「街では我々も兵であることは伏せて行動しますので、その点ご了承ください。――シド、おまえも私を隊長と呼ぶなよ」

「心得ています」


 なら何と呼ぶのだろうと首をかしげた泉実をみとめ、セネガが説明する。


「軍関係者が素性を隠して任務にあたる際、部下は上司を『叔父上』と呼ぶのが慣例なのです」

「そうなんですか。……ちなみに僕は、今回どういった配役なんでしょう」

「我々がお仕えする当主の賓客(ひんきゃく)、という設定です」


 わりとそのままだった。


 そうしている間に街に到着し、三人は大通りの入り口で馬車を降りた。

 馬車が待機所に向かって去っていったところで、セネガは元来た方向を手で示した。


「あちらが王宮です」


 泉実は示されたほうに顔を向け、そして目に飛び込んできた光景に息を呑んだ。

 山脈を背にした丘の上に建ち並ぶ、レンガ色の、(とりで)にも似た建物群。

 それは視界の端から端までに及び、外から見て初めてどれほど敷地が広大であるかが分かる。アルドラの王宮は、そこだけで街一つを形成する、まるで巨大な城塞都市のようだった。

 壮観な眺めに無言で目を見張っている泉実を、セネガとシドは、どこか誇らしげな様子で見つめていた。



 ◇◇◇



「平日なのに、人がいっぱいいますね」

「休日ともなれば、もっと沢山の人出がありますよ。祭りの期間など、この大通りは見物人でごった返します」

「……すごいですね」


 隣を歩くセネガと話をしながら、泉実は興味深く周囲を観察した。

 食料や日用品を買い求める人々の多くは、自分たちと同じくフード姿であるが、その下から覗く瞳や髪の色は様々だ。それらのバリエーションは、ザイルの城下で見た時よりも富んでいる。


「この国の人たちは、多民族なんですか?」

「ここ王都には、他の大陸出身やその流れを汲む者が多く暮らしています。ただし、地方などはその限りではありません。西の民は元来、目も髪も茶褐色ですが、国全体で見ればそういった土着の民が大半を占めます」

「そういえば、南の大陸には黒髪の人が多いそうですけれど、シドさんはそちらの出身なんですか?」


 泉実は首を巡らし、斜め後ろを歩くシドに話しかけた。

 この世界に来てすぐ、人買いの馬車の中で意識を取り戻した時、エルマがそんなことを言っていたのを思い出したのだ。


「いえ、自分はこの国の生まれですが、母方の曾祖父が南の民であったと聞いております」

「じゃあ、やっぱり関係あるのかもしれませんね。あと、キリエさんは銀髪で目は水色っぽいですけど、珍しいですよね」

「キリエ殿は、確か北の大陸の生まれだったと記憶していますが……」

「ああ。幼少の頃に西(こちら)に渡ってきたと聞いた。この王都に来たのは、成人になる少し前だったか」


 シドに応えたセネガに、泉実は再び顔を向ける。


「アルドラの成人て、何歳なんですか?」

「ザイルと同じで十七です。他国の出まれでも、この国で成人の儀を迎えた者はその町の市民権を得ます。それは同時に、アルドラの国民となることを意味します」

「二重国籍とかにならないんですか?」

「国籍、ですか? 我が国では、とくに問題にしておりませんが……」


 国籍という単語に、セネガはあまりピンときていない様子だ。

 どうやらこの地には、そういった概念がないらしいと泉実が考えていると、どこからか覚えのある香ばしい匂いが漂ってきた。



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