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02 岩砂漠


 沈んでいた意識が、ゆっくりと浮上する。


 暗い視界の中、最初に目に入ったのは土の地面。

 その先には地平線があり、首を巡らすと紺色の空に丸い月が浮かんでいる。


 泉実は裸足にパジャマ姿で、外に倒れていた。


 起き上がって周囲を見れば、そこは何もない、荒野か砂漠のような場所だった。

 月明かりだけが光源という環境で、目を凝らして遠くのほうまで見渡してみるが、辺り一帯は地面と岩ばかりで樹の一本も生えていない。



 ――――なんだ、ここ…………。



 泉実は茫然となった。

 写真か映像でしか見たことのない風景だ。なぜ自分は、こんな場所にいるのか。

 状況がまったく理解できず、必死にこれまでの記憶をたどる。


 ついさっきまでは家にいた。ネットをしていたら寝る時間をとうに過ぎ、パジャマに着替えてベッドに入ろうとして、それから――。


 ――窓から空を眺めていたら、突然めまいに襲われた……?


 星空が回転する錯覚に陥ったのを思い出し、泉実は無意識にこめかみのあたりを押さえた。そしてその時初めて、自分が眼鏡を掛けていないことに気がついた。

 泉実は視力が悪く、コンタクトは体質で合わないため日常的に眼鏡を使用している。

 裸眼では、数メートル先でも物の輪郭がぼやけて見えるのが常であった。

 なのに今、夜の薄闇で視界が悪いながらも、遥か遠くの岩や地面が普通に見えている。


「…………」


 吹き抜ける風は、初夏のようにあたたかい。


 これは、夢だ。


 泉実は空に輝く、部屋から見えたのと形も大きさも同じ月を(うつ)ろに見つめ続けた。



 どれくらい立ち尽くしていただろう。

 あてもなく、おぼつかない足取りで一歩前に進もうとした時、不意に視界がぐらりと歪んだ。


「……っ……!」


 その数時間前にこの地で起きた出来事など知る由もなく、泉実は再び、意識を手放した。



 ◇◇◇



 時を同じくし、近隣諸国は真夜中にもかかわらず沸き立っていた。


 その異変に最初に気づいたのは、屋外で見張りと見回りをしていた兵士たちだった。

 人々が寝静まり、もうすぐ日付が変わろうとしていた時刻、空が一瞬白く光った。


 はじめは、誰もが雷かと思った。

 古来より雷は神罰とされる。兵士たちは身をこわばらせ、空を注視した。

 やがて月のそばに光の点が出現し、それは尾を引いて彼らの頭上を流れていった。

 一つ、また一つと光の帯は増え、またたく間に七色に輝く流星の群れとなり、弧を描きながら大陸中央に向かって降り注いでゆく。


 この大陸では数百年に一度、『リザリエル』と呼ばれる者が人々の前に姿を現した。

 今も各地に残る文献は伝える。


 “――リザリエルは天上の世界より、七色の流星と共に夜の大地に舞い降りる――”



 民が目の当たりにした、リザリエルの降臨を告げる天の啓示。

 それは短い時間の出来事であったが、八百年ぶりの神示に地上は騒然となり、その話題は全土を駆け巡った。



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