19 対面
用意された椅子に泰然と座るアルドラの王を、ザイルの王と家臣たちは盗み見るように観察する。
年は二十六、七のはずだが、その存在感は並ではない。精悍な容貌と、甲冑の上からでもそうと分かる引き締まった体躯は、王族というよりも鍛え上げられた戦士のようだ。
事実、これまで国で起きた大小の内乱を、自ら戦地へ赴きことごとく鎮圧したという武勇はここザイルにも伝わっている。
この場にはザイル側の将軍も列席していたが、実際に本人を前にして、もし剣で勝負をすれば膝をつくのは自分のほうだろうと感じていた。
その時、後方の扉の向こうから複数のくぐもった声が聞こえてきた。
場内にいる全員の目がそちらへ注がれる。程なくして、ギィ……と両側から扉が開き、二人の人物が姿を見せた。
◇◇◇
泉実はシュリの斜め後ろに続き、伏し目がちに広間に足を踏み入れた。
周囲からの強い視線を全身に感じながら、シュリと共に前へ進み出る。シュリが歩みを止めたのに合わせ、立ち止まって緩く顔を上げると、玉座の手前に甲冑姿の集団がいた。
その中で、ひとり椅子に座っていた男がやおら立ち上がり、靴音を立てて自分たちのほうへと近づいてくる。
泉実はシュリの肩越しに、その様子をじっと見ていた。
「そなたがリザリエルか」
泉実をすぐ正面から見下ろし、男が訊いた。
「リザリエルに対して失礼でしょう」
横からシュリが厳しい口調で応じるも、男はシュリを一瞥しただけで、再び泉実に視線を戻した。
「我が名はハディス。アルドラの王だ」
泉実は黙ったまま、感情を押し殺した目で長身の相手を見上げている。
「今から、我らと共にアルドラに来てもらおう」
すでに話がついているかのごとく言い渡され、さすがに驚いた泉実は玉座を仰ぎ、ザイル側の意向を目で王に問いかけた。
玉座の王はそれまで眉根を寄せて黙していたが、椅子から立ち上がりハディスに対して申し出た。
「ハディス王よ、今一度時間をいただけぬか。このように突然ではリザリエルも困惑しておる」
「そのような頼みごとは聞かぬと先刻申し上げた。時間を稼いで他国と手を組まれては厄介なのでな」
ザイルの策を看破しているかのようなハディスの台詞に、王とシュリは表情を硬くする。
だがここで引き下がる訳にはいかないと、シュリがハディスに詰め寄った。
「その先刻の話とやらを我々は聞いていません。納得のいく説明をしていただきたい」
「話の内容が知りたければ、この場にいる者にあとで聞くとよい」
「――このような暴挙は、許されない」
「許されぬとは、女神にか? あいにく我はこの国の大神殿に破門されている身。今さらであろう」
嘲笑を含んだ声音で切り返すと、ハディスは目つきを冷ややかなものに変えた。
「そのほうは何か心得違いをしているようだ。此度のリザリエルの所有権は我が国にある。もしザイルがこの者を渡さぬつもりなら、我々は今これより相応の措置を取る。これは暴挙ではない。当然の報復だ」
城に攻め入ることも辞さないと仄めかす発言に、ザイル側が騒然となる。
そんな周囲の雑音を意に介すそぶりもなく、ハディスは泉実に告げた。
「すぐに出立する。必要なものがあれば使いにでも取りに行かせよ」
それはすでに命令だった。
泉実はこの場に来てからひと言も発しない。
ハディスは当人の返事を一応待っているのか、無言で泉実を見下ろしている。
泉実は、これまで固く閉ざしていた口を開いた。
「断る」
広間に響いたのは、短い、はっきりとした拒絶の言葉だった。




