表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/91

18 決断


 二人の王が相対していた頃、泉実は自室のテーブル席でシュリと向かい合っていた。

 張り詰めた空気の中、部屋の入り口に控えるルークも深刻な表情で主人たちを見守っている。


「――じゃあ僕は、アルドラに連れていかれるかもしれないんだね」


 話を聞き終え、泉実が(かす)れた声を漏らした。


 アルドラが軍を差し向けてきたことは、午前のうちに城の人間から伝え聞いていた。

 そして今シュリから、自分がこの世界に来て最初に降り立った場所――あの岩砂漠が、アルドラの領土であったことを告げられたのだった。


「そんなことはさせない」


 シュリはきっぱりと断言してみせた。


「でも拒否すれば、戦争になるかもしれない」

「そうなったら縁戚関係にある国に援軍を要請する。アルドラになど、きみを渡すものか」


 最後の口ぶりからは私的な嫌悪が感じられ、泉実はもの問いたげな眼差しをシュリに向ける。

 その無言の問いに答えるように、シュリは宙を見つめ、抑えた口調で語り始めた。


「――十年前、姉はアルドラの王太子である第一王子に嫁ぐことが決まっていた。それを向こうは、直前になって婚約の解消を申し入れてきたんだ。結局姉は東のソーマに嫁ぎ、父親ほど年の離れた国王の後添(のちぞい)となった」


 他国に嫁いだ王女がいるという話は、泉実も国王夫妻との晩餐の席で聞いていた。


「だが、姉があの時アルドラに輿入れしなかったのは、結果として良かったのかもしれない」

「え……?」

「姉がソーマに嫁いだ二年後、アルドラの国王が急逝(きゅうせい)し息子たちの間で王位争いが起こった。姉の婚約者だった王太子は、その争いで命を落とした」


 痛ましい話に泉実の顔が曇る。

 やはりこちらの世界にも、権力を巡る争いといったものがあるのだ。


「今のアルドラ王は、王太子を手にかけた第二王子を討ち即位した。王となったあと、それまでの重臣を次々と処罰した挙げ句、王宮神殿を閉鎖して神官を残らず城から追放したんだ」

「それは、どうして」

「詳しくは知らないが、新しく王位に就いた者が旧勢力を退けるのはよくある話だ。だが神殿に対する前代未聞の冒涜(ぼうとく)行為により、アルドラ王家はイスハルドの大神殿から破門されている。あの王家が傍若無人なのは、今も昔も変わらない。そんな国にきみをやることはできない」


 ひとまず今日のところは、父上がうまく対処してくれるはずだ――そうシュリが続けようとした時、にわかに廊下が騒がしくなり、三人のいる部屋の扉をせわしなく叩く者がいた。

 ルークが扉を開けると、城の若い兵士が慌てふためいた様子で室内に駆け込んできた。その勢いのまま、奥に座っていたシュリと泉実の前で膝をつき、(こうべ)を垂れる。


「申し上げます。陛下が、リザリエルを謁見の間にお連れするようにと仰せです」


 泉実は目を見開き、思わずシュリのほうを見た。

 シュリはまさかという表情で立ち上がり、家臣の前では滅多に見せない激しさで兵士に詰問した。


「イヅミをアルドラ軍に引き合わせるつもりか!? 父上は何を考えておられる」


 兵士はさらに頭を低くし、たじろぎながら説明した。


「いえ、それが、兵に扮したアルドラ王が城に入り込み、リザリエルに会わせるよう要求してきたのです」

「なんだって!?」


 耳を疑う報告に、それきりシュリは絶句して兵士を見下ろした。

 その隣で、泉実も表情をこわばらせたまま動けないでいる。


 数秒後。


 時が止まったかのようなその空間で、最初に声を発したのはルークだった。


「シュリ様」


 名を呼ばれ、シュリははっとしてルークを振り返った。

 ルークはそれ以上発言しなかったが、この場は指示に従うしかないのだとその目が語っている。


 ()すすべのない状況に、シュリは込み上げる苛立ちと悔しさをこらえるように床を睨んだ。


「シュリ」


 今度は反対側から泉実が呼ぶ。


「行こう」

「イヅミ……」


 泉実は覚悟を決めた目をして、静かに椅子から立ち上がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ