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ミオちゃんの中途リアル? 1

 8 ミオちゃんの中途リアル? その1



 「お前たちに用事があるんだ。時間を貰えないか」


 ヘンリ君に押さえて貰った貴族用の訓練場に、一昨日散々ボクたちを走らせた体術の先生がやってきた。


 「昼食のために、ログアウトするつもりなんですが……」


 ガン兄が、代表して答えた。


 「そうか。今日はもう戻ってこないのか?」

 「いえ、午後から魔法陣と身体強化の授業がありますので、それまでには戻ってくるつもりです」

 「ならば頼みがある。午後の授業をキャンセルして、俺に時間をくれ」


 ガン兄は、ボクたちの顔を見渡した。

 レイ姉も頷いているが、ボクにも異存はない。

 だってイベントの臭いがプンプンするもん。


 「分かりました。何処に伺えば宜しいでしょうか?」

 「ありがとな。なら、体術で使った訓練場に来てくれ。俺はいつも訓練場脇の教官室にいる。その辺にいるやつに声を掛ければ、案内してくれると思うぞ」

 「…すみませんが、お名前を聞かせて頂けませんか」

 「ふん、覚えてないか。まあ、教官の名前なんてものに、興味はないだろうからな。良いだろう。俺はティフ・ボルドマン、武術の教官長を務めている。宜しくな」


 ヘンリ君に続いて二人目のイベントNPかもね。

 武術教官だったら、そっち系のスキルかアイテムを貰えるのかな。

メモの準備はOKだよ。


 「失礼しました。俺、いや、私はガンと申します。こちらの女性がレイ、こちらの少女がミオです。宜しくお願いします」


 ガン兄による紹介終了。言葉に合わせて頭を下げました。

 それにしてもガン兄、きちんとした言葉遣いで感心しちゃう。さすがは大学生だね。


 「じゃあ、待ってるぞ」


 ティフ教官は、軽く頭を下げて立ち去った。

 何かこうキレのある振る舞いで、体育教師!って感じなんだけど、後ろ姿はおっさんだった。頭髪の具合が原因かもね。ゴホ、ゴホ、悪口じゃないよ。


 おっさ…教官が話しかけてきたのはヘンリ君と別れたすぐ後だった。訓練場を出ていくヘンリ君がおっ…教官に頭を下げてたから、この話はボクたちだけで良いんだよね。

 と、さらりと事実関係を説明しました。突っ込まないでね。


 「ミオちゃん、今度はどんなレアスキルが欲しい?」

 「…ボクはそろそろ魔法、かな」

 「じゃあ、駄目じゃん。あの教官、どう見ても脳筋系だもん」

 「俺は強化系が欲しいぞ。妹ちゃんにばっか、妙なスキルがついてるからな。ここで取り残されたらパーティリーダーとしての立場がない」

 「ガンちゃんはただの壁で良いのよ。レアスキル貰ってあたしの虎徹が強くなれば、纏めてドカンと蹴散らしてやるから!」


 ガン兄共々吹き飛ばす未来が見えるんですけど。


 まあ、そんなこんな言ってる内にポータースポットだ。

 ご飯食べたら、訓練場集合ね。



 「ミオちゃん、遅い!」

 って、デジャブだ。

 いつも思うんだけど、レイ姉が早すぎるんだよね。ほらほらガン兄も急いでやってきた。

 約束時間前なのにね。


 「あのー、教官室って何処ですか?」


 まだ4時間目の授業が始まってないので、訓練場の周りには受講生たちがウロウロしてる。特に暇そうな人に声を掛けたら簡単に教えて貰えた。と言うか、目の前だったんだよね。おっさん(もう、おっさんで良いや)の、誰かに案内して貰え、みたいなトークに騙された。


 「おう、待ってたぞ」


 教官室の扉をノックしたら、間髪入れずに返事が返ってきた。

 ボクたちが来るのを待ちかねたのか、よっぽど暇だったのか、はどうでも良いんだけど、返事と一緒に扉が開いたので、ボクたち全員ズコーって部屋に転げ込んだよ。


 「はっ、お前たち、やっぱ変わってるな」


 五月蝿い。ドアノブを手に笑ってるおっさんを五月のハエを見る目で睨む。

 絶対わざと、だ。

 おっさん先生のダークマターな心を見透かそうと立ち上がって睨んでいたら、後ろに別の人影が、


 「(く、く、く、お前ら、変わってねえよ)」


 笑いを含んだ邪悪な目でこっちを見てた。


 「まあ、こっちに来い。ここに座れ」


 案内されたのは、部屋の隅に置かれた応接セットのソファー。

 言われるまま奥の方に腰掛けると、おっさん先生ともう一人が向かいに腰を下ろした。

 もう一人の人、レイ姉やガン兄と同じくらいの年かな。何だか目がにやけてるのが気になるけど、イベントNPだと思って我慢、我慢。


 「急に呼び出して悪かったな。用事って言うのは、貴族のやつらの訓練場の石壁の一部が消えた件なんだが…」


 まさかの叱責?ヘンリ君が実家に手を回したんじゃないの?


 「ああ、別に責任追及しようって訳じゃねえぞ。コーカス伯爵家から修理代貰って業者手配してあるからな」


 出来る子だ。これからは財布以外のことも押しつけよ。


 「訳が知りてえんだ。どうやったらあんな頑丈なものが消え去るのかって、な」

 「あ、あれは、こうやって…」


 仕方ないね。イベントかも知れないからちゃんと教えておこう。

 少し広いとこに移動して、


 「こうして少し溜めてから、『ホ、ニャ、ラ、ラ、波――!』って」


 また何か飛び出たね。

 形だけ見せるつもりだったけど、実演してたら、ついうっかり。


 「お前、窓ガラス3枚目だ。趣味なのか?」


 ガラスクラッシャーの称号見せたら、驚くぞ。


 「…なるほど、な。魔力弾か」


 黙ってニヤニヤしていた人が口を開いた。


 「かなりの威力だが魔力の無駄使いだ。ミ、…君はマナの扱い方を知らないのか?」

 

 知りません。

 だって、魔法の授業で妙なスキルが付くんだよ。ボクは魔法を覚えたいのに。

 レイ姉もガン兄も揃って首を縦に振ってる。


 「教えてくれるんですか?」

 「…良いだろう」


 やった!これ、イベント確定だね。メモ、メモ。


 「この世界にはマナがある。俺たちには常識だがビジターにはそれが第一関門になる。つまりマナを知らなければ扱い方も分からないわけだ。…君たちは魔法の授業の前にこの世界の常識を学ぶべきだったな」

 「でも、学園の時間割表に…」

 「…あったよ、妹ちゃん。座学で、世界の基礎知識ってやつが」

 「ガンちゃん、何でゲームの中で勉強しなくちゃいけないんだって怒ってたじゃない」


 そう言えば、そんなこともありました。

 履修表作ってたときに、ガン兄、時間割見ながらブツブツ言ってたね。

 でも学生ライフの満喫が当初の目的だったから、いい加減に聞き流してた。

 だって、ゲームだもん。

 期末試験が終わったばっかで座学なんか取らないよ、普通。


 「入学ガイダンスをきちんと聞いてなかったようだな。説明があったはずなんだが…。まあ、良い。簡単に解説するから覚えておけ」


 これチュートリアルだよね?

 多分、入学時のガイダンスが本当のチュートリアルなんだ。

 それをちゃんと聞いてなかったボクたちのために、もう一度やってくれるんだね。

 ふふっ、これがホントの、


 「中途リアルなんて思ってるんじゃないだろうな?」


 思考読みとりのスキル!なんて、ね。

 でも、ボクの方を睨んでるから、ホントに読みとったのかも。


 「…良いか?先ずマナだが、君たちの世界でいう気体のようなものだ。それは大気中にあって、ごく僅かに思考を具体化する性質を持っている。だから、頭の中で現象を思い描き、大気中のマナに働きかけることで具象化させる。…これが魔法の本質なんだ」


 ボクが考えた空気みたいなものって、かなり近かったよね。


 「また、人や動物は呼吸をしているから、当然自然と体内にマナを取り入れている。それが体内で結晶化したものを魔石と呼ぶ。そう言うと異物のように聞こえるかも知れないが、体内の魔石は胃や腸と同じように臓器の一つと考えた方が分かりやすいだろうな」


 あれ?でも、ボクたちはビジターだから、身体の中に魔石があるって変じゃない?


 「後で説明するが、君たちの体内にも魔石があるんだ」


 この人、絶対思考を読んでるよね。またボクを見てるし。


 「…大気中のマナに働きかけるにはこの魔石の存在を知らなければいけない。思考を先ず魔石に伝え、そこから放出される思考を伴ったマナが大気中のマナに働きかけて、現象を具象化させるわけだからな。…難しいか?」


 だからボクを見ないで!

 分かるよ。

 魔石があって、魔石に『風邪よ、吹け!』って念じれば…、


 「おい、いきなり風魔法を発動させるな!」


 出来ちゃった。

 さっき魔力操作の時間に色々やってたら、おへその上がムズムズってしてたから、この辺に魔石があるだろうって思ったんだよね。

 要するに場所だ。

 自分でマナの場所が特定出来たから働きかけられたんだ。

 NPの人、ありがとう!


 「お礼を言われるような事じゃないぞ。まあ、理解出来たようだな。それで、だ。おま…、ミオ、君と言ったか?さっきミオ…君がやったように、魔石の中のマナを直接放出すると燃費が悪い。仮に数字を上げれば、自分の50のマナを放出して50の効果しか得られないのが魔力弾だ。しかし魔法なら10のマナを放出して50のマナに働きかけ、60の効果が得られる。マナの扱い方を知らないのかと聞いたのは、効率の悪い使い方をしていたからだぞ。…それにしては威力があったが、な」


 この人凄い。先生よりも先生だ。


 「俺が上手く教えられるのはビジターを知ってるからだよ。この世界にビジターを招くためにかなりの期間準備した。俺はその準備に関わってたのさ。(関わり方が違うがな)」

 「先生、質問!」

 「レイな…レイ君、だったかな?質問は何だ?」

 「何であたしたちに身体の中にも魔石があるの?後で説明するって言ってたけど…」


 レイ姉、忘れてなかったんだね。

 何か、本日の授業ここまで的な雰囲気出てたから、慌てて質問入れたみたい。


 「…少しメタな話になるが、良いか?」

 「おい、カケル!そこまで…良いのか?」

 「ああ、問題ない。ビジターのシステムが知られたからどうなるって事もないからな」


 「君たちのこの世界の身体がクローンだって言ったら、どう思う?」


 取り敢えずここまでの成果ね。

 魔法:(風魔法LV1)をゲット!

 称号:ガラスクラッシャーに磨きがかかりました。


 中途リアルがまだ続いています。




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