ミオちゃん 初めての… 5
7 ミオちゃん、初めての…… その5
ティフのおっさんは訓練場にいた。
相変わらず現場主義の男だ。
「よお、おっさん。久しぶりだな」
「ん、カケルか。…月の神殿以来だな。暫く姿を見なかったが、何処に雲隠れしてたんだ?」
おっさんには俺が勇者として召還されたことは伝わっていなかった。別に言いふらすことでもないが、今後俺のサポートとして情報を集めて貰うために一部始終を話しておく。既に姫さんには了解済みだ。
「と言うと、お前はもう正式にこっちの世界のやつなんだな」
「おうよ、同胞!もうビジターとは言わせねえ」
「神殿の時からお前をビジターとは思ってねえよ。セリア嬢ちゃんの使いっぱくらいに思ってたぞ。今度からは勇者殿って呼んでやろうか」
そう言や、おっさんは姫さんのことを嬢ちゃんて呼んでたな。とても子爵には見えないが、飾り気のない言動は好感が持てる。ただ脳筋だから釘は挿しておかないと、な。
「止せよ。ハエ叩きが面倒になる」
「そうか。相手は嬢ちゃんの敵、だな?」
「敵と言うより邪魔者だ。姫さんが歩く道端のゴミみたいなもんだな。少し悪臭がするんで俺が掃除を手伝おうって訳だ」
「はっ、なら今日からお前のことを清掃業者と呼ぶことにするか」
「……以前通りカケルで頼む」
それから小一時間ばかり世間話をして、やっと本題に入った。
「勇者の仲間って事は、即戦力が必要か?」
「いや、この世界に毒されてないやつの方が良い」
「お前の元の仲間たちはどうなんだ?」
それは考えないでもなかった。
俺はこの世界に召還された。それは以前の世界から俺の存在が消去されたと言うことだ。つまりテスターとして顔見知りだった連中は以前の俺を忘れている。
今の俺はビジターにとって、この世界のNPの一人。
勇者という肩書きで誘えば、喜んで着いてくるやつも多いだろう。だが、
「いや、ビジターもテスター上がりのベテランだと世間の柵ってやつがある。ゲーム感覚でLV上げに血眼をあげてるやつらは効率を考えるからな。自然と権力に近寄ってるんだ」
「なるほどな。勇者の旅にもいろいろありそうだ」
俺は早くから姫さんの従者にされたからあまり経験はないが、テスター連中は貴族や商人の護衛を好んで受けていた。金銭や経験値が美味しいらしい。中にはほぼ専属で依頼を受けてたやつらもいたな。
「ついでとは言っても清掃作業がある。身綺麗なやつが良いのさ」
「すると新人さんか」
「学園に、面白そうなやつはいないか?」
あいつらも学園に籍を置いてるだろうな。
少し手伝えば、俺の仲間として旅に出るくらいの実力はつけてやれる。あいつらにパワーレベリングをしてやるのも面白いだろう。
まあ、おっさんに情報を聞いてからだが、な。
「心当たりはある。少しばっかだが」
「話を聞かせて貰おう」
「……訓練場の石壁を消したやつに、興味はあるか?」
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「属性魔法って言いっても、マナに属性がある訳じゃないの」
学園に通い始めて今日で4日目。
ボクたちの1週間のスケジュールは、2日学園に通って1日クエスト、みんな日曜日はリアルで用事があるので自由行動って事に決めてある。
それで、ボクは今、1時間目の属性魔法の授業を受けてます。
「その属性の現象を頭に描いて、マナにお願いする魔法よ」
レイ姉とガン兄とは別の教室。属性魔法は学ぶ属性に別に分かれているんだ。
ボクはもちろん風属性。座学で先生が基礎知識の説明中です。
「例えば、基本的な風魔法だと……『ウインド!』」
おお、先生が立つ教卓の方から風が吹いてきた!
「これは、『私の後ろから前に向かって風が吹く』という現象を頭に浮かべて、『ウインド』という言葉でマナにお願いしているわけ。これが風魔法『ウインド』ね」
なるほど、なるほど、納得だね。
風魔法だから風という空気が動く現象を頭に想い描く、と、これは出来る。次に『ウインド!』って言って、マナにお願い……。
マナって何だろうね。
マリーさんもブレスレットを作る時に宝石のマナって言ってたから、魔法の素ってことで良いのかな。
「先生!マナって何ですか?」
「…ミオさん、ですね。そうね、あなたはビジターだから知らないのね。ん…何て説明したら良いのか分からないけど、マナとはこの世界の何処にもあるもので、人や生き物の身体の中にもあるもの、ってことかしら。分かった?」
あんまり分かりません。でも先生も説明に困ってるみたいだから、
「分かりました」
って、答えておこう。
世界中にあって身体の中にもあるって、トンチみたいだけど…。
要するに空気みたいなものかな。
で、それにお願いするって『ウインド!』……出来ないよね。
整理しよう。
1・マナは何処にもいっぱいあるらしい。
2・でも対象が広がりすぎて何処にお願いして良いか分からない。
3・だから上手くお願いが届かない。ってとこかな。
結局、マナを限定出来れば、お願いも出来るって訳だよね。
マナは身体の中にも……って、
今、頭に!が浮かんだ。
ボクが編み出したスキル・ホニャララ波!
あの手の平から飛び出したやつが、もしかしたらマナかも知れないね。
と言うことはさ、あのときの状態を逆回しして見れば、ボクの身体の何処にマナがあるのか分かるかも、って事だよね。
早速やってみよう。
先ずは、『ホー、ニャー、ラー、ラー、破―――!』
ん?手の平から何か飛んでったね。…まあ、いいや。
次は、っと、飛んでったものをかき集めるように精神集中。
そんでもって、かき集めたものを身体に吸い込むように考えながら、肘を後ろに引いて身体を捩っていく。んー、限界だ。そこで、もう一度、精神集中。
そうだ、考えるな。念じるんだ!
マナよ、答えよ。ボクの呼びかけに答え、身体中を駆け巡って見せよ!
ふぅ、疲れた。
でも、何だか知らないけど、身体に力が漲ってきたよ。
「ミ、ミオさん?…あなた、一体何やってるの?」
「はっ?」
「あなたの身体、な、何だか光ってるわよ」
「え?」
「見てご覧なさい!」
ホントだ。うっすらとだけど、全身が光ってる。
身体に異常を感じたら、すぐステータス!これ、常識だよね。
スキル:(マナ吸収/身体強化LV?)
何だろうね。
「ミオさん。何をしてたか知らないけど、窓ガラス代弁償です!」
わーん、ヘンリえもんーーー!
2時間目、魔力操作。
早速、ヘンリ君に泣きつきました。
当然さっきのことを話したんだけど、みんな授業そこのけで食いついてきました。
「妹ちゃん、何やってんだ?」
「さすがミオ殿。この私の目に狂いはなかった!」
「ミオちゃーん。もうあたし、呆れちゃうよ?」
3時間目の訓練場行き、もう決まりだよね。
魔力操作は少し進展したよ。
ホニャララ波のスローモーション逆再生を試みたのが良かったのか、何となくさっきのマナの残りが感じられたので、身体の中で少し動かしてみました。
変な感じだね。
おへその上辺りに凝りのようなもの見つけたから、上に持ち上げようと考えたらムズムズって動くの。
それで右手の方に動かして、指先に集めたら爪の先からスーって出てった。
見えなかったけど、これがマナなんだと感じた。
世界中の何処にでもあるって先生が言ってたのは、空気なんだね。
要するにマナは気体みたいなもので空気中にとけ込んでいる、って事なんだろうと思う。
そんな訳で、授業の終わりにステータスを確認したら、
スキル:(魔力操作LV1)
が、しっかりついていました!
「ホニャララ波を逆再生?」
「そうだよ。手からドーンって出るでしょ。それをグイーンって巻き戻すの」
「ドーンをグイーンだな」
「ドーンをグイーン!」
「ドーンをグイーン」
先日同様、ヘンリ君に貴族用の訓練場を貸し切りにして貰ってワイワイやってます。
「先ずね、こうやって…『ホ、ニャ、ラ、ラ、波――』」
うん、軽くやったから弓矢の的が消し飛んだだけ。納得の加減だ。
「そんで手の平にマナを集めて、こうやって身体に戻すの」
「妹ちゃん、俺、これ以上身体が捻れない」
「ガンちゃんは柔軟体操からね」
さっきより簡単に出来るみたい。
集中してるから、雑音は聞こえないよ?
「ほら、身体がピカピカって光ってるでしょ」
「……ミオ殿、私は、私は今、ツイストドーナツになっているぞ…」
「妹ちゃん、俺の身体中の骨がキシキシと……」
「だから、柔軟体操よ!」
レイ姉はホニャララ波の方に興味があるみたいで、身体強化は途中でリタイアしました。
今日も、的に向かって手から何かを捻り出しています。
ガン兄とヘンリ君は変化なし。
二人とも力一杯踏ん張って顔を赤くしてたので、顔面強化がつきそうだね。
「お前たち、ここにいたか。ちょっと話がある」
見覚えのある人がやってきた。
……多分、一昨日の体術の先生だ。
これから走らされるのは、お断りだよ。
本日の成果。
スキル:(マナ吸収/身体強化LV?)
スキル:(魔力操作LV1)を、手に入れました。
レイ姉のホニャララ波が、一昨日より1.2メートル遠くまで飛んでます。
ガン兄とヘンリ君に顔面強化のスキルが芽生えそうです。
称号:ガラスクラッシャーがついてました。