ミオちゃん 初めての… 4
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6 ミオちゃん、初めての…… その4
アルカシア魔法学園。
初めて俺がこの世界に足を踏み入れたとき、冒険者ギルドのおっさんに叩き込まれたのがここだ。
テスターだったから予め得られるゲーム情報は皆無。取り敢えず定番のギルドに顔を出したんだが、この世界の常識の欠片も持ってなかった。ギルドにいる冒険者NPと一般人の力の差なんて、考えもしなかったんだ。
魔法・スキル共に何も持たない人間がギルドの役に立つはずがない。おっさんにそう言い切られて簡単に頭に血が上った。
俺のステータスには剣の才能がある。応募してテスターになったくらいだから格闘ゲームにも自信があった。先ず腕を見てくれと、おっさんを訓練場に誘い出して剣を振り回したんだ。
…いやー、強かったね、おっさん。思いっきりボコられました。
スキルの一つも覚えて来いと、首根っこ掴まれて学園に連れてかれたのは良い思い出だ。
冒険者カードは作って貰えたけどね。
ここに来て不思議に思ったのは、魔法学園でありながら武術・体術を教えてくれること。
俺は兎に角走らされた。朝から晩まで訓練場を走り回って、その合間に剣を振るって、魔法学園の名称詐欺じゃないかって思ったね。
時間割表には魔法って書いてあるんだが、教室に行ってみると俺の席はない。先生らしきNPに肩を叩かれて君はあっちと訓練場を指差される。
指示通り訓練場に行けば、おっさんがニコニコ顔で待ってるんだ。
後で姫さんに聞いたら、俺たちのテスター期間はこっちの世界でもビジター受け入れ準備期間だったらしく、テスター一人一人に担当者をつけて様子を窺ってたんだとか。俺は血の気が多そうだってんで、姫さんの護衛に中でも一番の腕利きをつけたらしい。
腕だけじゃなくて性格も確かめろよ。おっさん脳筋だぞ。
と言う訳で、俺の用があったのはそのおっさん。
現在、学園の武術指導教官長で、名前はティフ・ボルドマン。
子爵の肩書きを持つ貴族の一員だが、姫さんの幼い頃からの護衛で信頼も厚い。今回の姫さんの計画にも最初から関わっていて、このエルカシア…おっと、エルの町だ…の計画運営責任者でもある。
俺の役割は、勇者として仲間を集い、各地に掛けられた呪いや封印を解くことにある。もちろん、ついでに陰でウロウロしてるやつらをぶっ飛ばすんだが…。
先ずは情報収集。
目処は立ててるんだけどな。
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冒険者ギルドですることは、先ず依頼を見つけることだよね。
ボクたちのパーティのランクに合った依頼を探して、受付に持ってって、無事に受理されればOK。後は依頼を果たすために出撃…って事なんだけど、
「おお、ミオ殿。ここで会ったのは奇遇だな」
ギルドで絡まれるのはテンプレだ。でも相手がヘンリ君とは思わなかった。
「依頼を受けられるのか?…ん、初めての冒険?…ならば私が」
「薬草集めと野ウサギ狩り。これで良いよね、レイ姉」
「うーー、蛇は出ない?」
「茂みには近づかない、約束するよ」
「原っぱには殆どいないって聞いてきたぞ。昨日はよっぽど運が悪かったんだな。まあ、ガサガサ音がしたら俺が確かめるさ」
「おい、聞いているのか!私が君たちについて行ってやる。これで蛇など出ても安心だろう」
押しが強いよ、ヘンリ君。
シカトって言うリアル最強の技を使ったのにめげないんだ。しかも、しっかり話を聞いていて会話に参加してくる。精神力の裏ステータス(仮)、MAXかも。
「ボクたち初めてのクエストでお試しみたいなものだから、迷惑掛けるよ?」
「わ、私も初めての冒険だ。迷惑など、ない」
つまり、連れてってくれ、と。
貴族の面子ってやつだ。素直じゃないんだから。
「俺は良いと思うぞ。昨日下見に原っぱに行ってみたが、俺たち3人パーティじゃ手に負えない感じだったからな。弓は当たらない。無駄に突っ込む。蛇に逃げる。森に辿り着くのも難しいと思ってた」
「そんな言い方ないでしょ!ガンちゃんだって、盾を構えて突っ立ってるだけだったわ!」
「まあまあ、レイ姉、ガン兄。初めにボクが弓を外したのが悪かったんだけど、何時までも失敗したことを言い合っても先に進めないよ?LV上げが目的なんだから、少しくらいのミスは目を瞑って頑張ろ?」
「さすがミオ殿、素晴らしい!この私が目をつけただけのことはある。反省は必要だが、大事なのは反省を生かして前に進むことだ。長時間ギルドで見張ってた甲斐があったと言うものだぞ!」
見張ってたのかい!
って、ヘンリ君。ストーカー行為を暴露しちゃったよ。
でも、一昨日訓練場でつきあった感じでは、押しは強いけど悪い人じゃないみたいだし、イベントNP疑惑もあるから、仲間に入れよ。
ボクの財布だしね。
「ボクも、パーティに入って貰っても良いと思うよ。ヘンリ君、訓練場でも一生懸命だったし、仲間に入っても問題起きないと思う」
「ミオ殿……」
「まあ、ミオちゃんもそう言うんじゃ仕方ないわね」
「ヘンリ君、宜しくね!」
「ミ、ミオ殿ーーー!」
そんな訳でパーティを結成したボクたちは、無事に依頼も受けて門の外に来ました。
ちなみに依頼は薬草採取と野ウサギ狩り。同時に受けても良いんだって。
「ではミオ殿は私の後ろに!ガン殿とレイ殿は適当に…」
「おい!リーダー気取るなら、ちゃんと隊列を指示しろ。俺が先頭、妹ちゃんはその後ろ、レイとヘンリは妹ちゃんの左右で後方の安全も確認しながら進む。これで良いな!」
「うむ、参謀に任命してやろう」
「リーダー、ガンちゃんの方が良い気がする」
門番の人、また笑ってる。
「野ウサギ確認、あの木の下。俺と妹ちゃんはゆっくり進むから、レイとヘンリは左右から囲むように回り込め」
「「了解」」
結局、ガン兄がリーダーだね。
隊列を作って森の近くまで来たところ、灌木の前に蹲ってる野ウサギをガン兄が発見。ヘンリ君も指示に従って動き始めたから、暗黙の了解が取れたわけね。
「妹ちゃん、ミスっても良いから弓で狙ってくれ。レイとヘンリはその後で襲撃」
「ラジャ」
さあ、ボクの才能が開花するときだ。
数多ある竹林から選ばれし魔竹の弓よ、解放されしボクの力を余すところなく破魔の矢に伝え、電光の早さを持ってかの獲物を射よ!
…初心者用竹の弓と矢なんだけどね。
「掠った!」
「惜しい!」
矢が野ウサギの足を掠めたみたい。驚いて飛び上がったところに、
「はっ、虎徹の槍!」
「ウルトラコーカスソード!」
はずれ。
飛び跳ねる野ウサギに、素人の槍や剣が当たるはずないよね。
それにしても二人とも中二病?ボクは口に出さなかったよ。
「聖天守護の盾!」
中二病、最後の大物がいた。
野ウサギさん。こっちに向かって跳ねてきて、偶然ガン兄の盾に当たってご昇天。何か待ちぼうけみたいだね。ヘンリ君が獲物袋を持ってたから入れて貰って、はいお終い。
納得いかないんだか、呆気なかったんだか、みんなしばらく呆然としてた。
森にはいろんな生き物がいるらしい。
今回の戦闘?の結果、足を踏み入れるのはまだ早いと全員一致で可決した。それで森を迂回しながら川を探す事になったんだ。薬草は水辺って言ってたからね。
「第2野ウサギ発見、前回同様戦闘に入る。総員準備せよ!」
ガン兄、乗ってきた。病気って怖いね。
今回の野ウサギは大木の陰。みんなで周りを囲んでフルボッコの予定だ。
「妹ちゃん、破魔の矢!」
「ラジャ」
「レイ、虎徹の槍!ヘンリ、コーカスソード!俺の聖天守護の盾に続け!」
OH!凄い。何がって、みんなの中二ネーミングを憶えてることが、だよ。
今回初めてボクの矢が足に当たり、槍と剣が刺さった後、盾で叩き潰すという暴挙。ミンチに近くなったんだけど、買い取って貰えるんだろうか。でもヘンリ君の獲物袋にIN。
「この辺は何か平和よねー」
レイ姉がのんびりした声を出してる。
やっと見つけた川。春の小川のようにサラサラ流れてた。薬草探しの前に一息入れようと、川辺の砂っぽい地面に腰を下ろしたところで出た一言。
フラグにならないと良いなと思ったのは、ボクだけでしょうか?
「ところでさ、薬草ってどんなものだか知ってる?」
全員の顔が凍り付きました。
「お、俺は、レイが知ってるんじゃないかと…」
「あ、あたしの所為にするの?こういうのはリーダーが調べておくべきじゃ…」
「はい、ストップ。それでは現地に詳しい原住民のヘンリ君に…」
「私は貴族だぞ。何で薬草ごときを憶えておかねばならんのだ」
質問:こういう場合どうしたらいいでしょうか。
答え:それらしいものを何でもかんでも集めて持ってけばいいんじゃね。
と言う訳で、みんな血眼で集めました。
何でもかんでも、手当たり次第、下手の鉄砲数撃ちゃ当たるってさ。
ギルドの受付の人がメチャ怒ってたけど、偶然雑草の中に依頼の数以上の薬草が混ざってたので許して貰えました。
物事に正解はありません。神の思しべしがあるだけです。
本日の成果
野ウサギ:2羽(1羽買い取り拒否)
薬草:一束
毒草:二束
霊薬草:2本(魔力回復薬の原料になるそうです)
雑草:数知れず
ボクが、スキル(弓の心得LV1)を習得しました。
ガン兄が、スキル(盾の心得LV1)を習得しました。
お小遣いが少しだけ増えました。
レイ姉に、フラグテイマーのスキル疑惑が発覚しました。
全員に、カルマ(中二の病LV1)がつきそうです。