ミオちゃん 初めての… 3
5 ミオちゃん、初めての…… その3
『アルカシアとエルカシア。姫さん、この国の名前は間違いやすいな』
(ふふっ、アルは東で、エルは南よ。王国の版図の東に築かれた都市、王都アルカシアの名はそう言う意味でつけられたの。そのまま、そこを領地にしていたあたしの先祖の名前になり、この王国の名にもなっちゃったけどね)
『じゃあ、エルカシアの町は、南の町って事か』
(そうよ。ついでに言えばイルが西で、オルが北。イルカシアとオルカシアの町もあるから、間違えないでね)
『面倒だな』
(だから、この国の人は王都以外にはカシアをつけないの。エルの町、イルの町ってね。エルカシアなんて言ってると、余程の田舎者だと思われるわよ)
『テスターの時はそんなこと言われなかったぞ』
(あなたはもうこの世界の人だからね。普段から気をつけてね)
『了解』
そう言うことで、エルの町。
守衛にギルドカードを見せて、咎められることもなく通り過ぎたんだが、後で見たらテスターの時とカード表示は変わってなかった。ステータスは見る影もないくらいに変化してたんだがな。
冒険者カード:ランクB
名前:カケル
種族:ヒューマン
性別:男性
こんな表示だ。
ちなみにギルドカードにはステータスは表示されない。
姫さんの仕業だと思うが、芸が細かいね。
時空間魔法なんてものを覚えてテレポートを研究、ポータースポットを異空間に繋げてゲーム世界を乗っ取った。かと思えば俺を召還。…寝る暇あんのかよ。
暇と言えば、俺と姫さんの念話、テレパシーって魔法も暇に任せて作ったって言ってたな。
多才過ぎるだろ。
冗談混じりに月の女神イーリスの生まれ変わりなんてほざいてたけど、俺は信じるぜ。
そうでもなきゃ、一人でこんな事出来ねえもんな。
まあ、ここは姫さんの世界。
俺はここを守るだけだ。
……惚れちまったからな。
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「ミオちゃん、もう身体が動かないよー」
「体術の基本はランニングだよ。さあ、文句を言わずに走る、走る!」
「だって、さっきの時間、槍の訓練だったんだよ。1時間中槍を振り回して、足運びがどうとかこうとか。女子大生の体力を越えてるよー」
「レイ姉のステータスはボクより上だよね。何で先にへばるのさー」
「精神的に参るのよー。槍持って棒杭突っついて、革鎧つけてグラウンド走るなんて、どんな女子大生だっつうの。アイデンティティがガタガタに崩れるのよー。ゲ、ゲームなんだからサー、お手軽モードが有っても良いんじゃなイー」
走りながら話すと余計に疲れるよね。でも、レイ姉の語尾が微妙に崩れてるのが面白くって、つい話し続けちゃった。
「レイ姉、リアルのことは言わない約束だよー」
ゲームで疲れるってどういう事なんだろう。
ステータスにSTR(体力)ってあるけど、レイ姉見てるとそれだけじゃなさそうな気がする。ガン兄は黙々と走ってるからステータス通りかも知れないけど、元々リアルでも体力あるからなあ。
精神力って隠しステータスがあるんだろうか。
「妹ちゃん、お疲れ!」
ガン兄の言葉は深いね。
最後までレイ姉の相手を努めましたから。
兎に角、訓練場10周、終わりました。距離にして4キロくらいかな。リアルで走ればその半分でダウンだろうけど、ゲーム補正って凄いよね。疲れはしても足は動く。翌日、筋肉痛なんてことにもならないだろうし。
「レイ姉、あと1周だよ!」
しっかり周回カウントしてました。
3時間目は予定通りロゴアウトして昼食。夏休みの宿題にも少し手をつけた。この辺はきちんとこなさないと、ペアレンツ・ストップが掛かるからね。玲姉の名前を出しても、駄目なものは駄目なんだよ。このところ、殆ど1日中ゲームしてるから…。
午後は学食で待ち合わせた。
昼ご飯の後だからお茶しただけ。さすがに食べる気は起きないね。
今日の授業はこれで終わり。
バイトまでの空き時間に町の外を探索してみることにしたんだ。ゲームを始めて1週間以上過ぎたけど未だに町から出ていない。冒険者ギルドに登録してあるのに全く依頼をこなしていなかったから、クビになるかも知れないし。
明日はクエストを受ける予定。下見だね。
そんな訳で、しっかり装備を調えて Let's go。
「妹ちゃんは俺の後ろ、レイは奇襲に備えて後尾な!」
「OK!今宵の槍は血に飢えてるわ!」
「血を見ないように警戒して欲しいんだけど」
「…宵じゃねえし」
まだ門の外に出たばっかりだよ。門番の人、笑ってるし。
「薬草って、この辺りにも生えてるのかな」
「水辺の近くって聞いたわね」
門の外は原っぱが広がってる。遠くに森が見えるけど、ここから1キロくらいありそうだ。川は見あたらないから森の先かな。薬草集めも大変そうだ。
「どんなクエストを受けるのが良いかなあ」
「採取なら薬草、討伐なら定番のゴブリン、狩猟なら野ウサギってとこだな。多少危険はあっても、ゲームなんだからクエスト受けなきゃLV上がらないだろ」
「でも、何だか妙にゲームって感じがしないのよね。叩かれたら痛そうだし、死んだらそれっきりになりそうな気がするわ」
「ボクもそんな気がする。アクセサリー作ってて思ったんだけど、手作業が妙にリアルなんだよね。ビーズに紐を通すときも手がブルブル震えちゃって…」
「あ、あたしの料理はリアルじゃないわよ!現実にダークマターが出て堪るもんですか!」
「…似たようなものは、見た気がするぞ」
「ボクも…」
「何処でよ!」
「………レイの実家」
原っぱが広いから、会話が止まらないね。取り敢えず森まで行こうって決めたけど、まだ半分ぐらいありそうだ。って、茂みがガサガサいってる。
「ガン兄、茂み!」
「おう、…野ウサギか?」
「虎徹の餌食ね」
虎徹って、確か近藤さんが持ってた刀の名前だよ?
「妹ちゃん、弓撃って!」
「OK」
初めての弓だ。午前中の訓練では10本中3本くらいの的中率だったけど、本番では才能発揮するよ。よく狙って…。
「ガン兄ごめん、外れた」
「おう、じゃあ、例の魔力弾、何とか波だ!」
「待って、あたしに任せな!」
レイ姉、人が変わった。言うが早いか、槍持って茂みに突撃!
「…ヘ、ヘ、ヘ、ヘビーーーーー!」
終わったね。レイ姉の蛇嫌いは筋金入りだ。目にも留まらぬ早さでUターン、一目散に門の方まで駆け去った。
「おーい、待てーー!」
「レイ姉ーーー!」
はあ、下見はここまでだ。
「ひ、酷い目にあったわ。明日のクエスト、早退、中退、オレ辞退よ!」
「そんな訳にいくか!LV上げにクエストは欠かせないんだぞ」
「LV上がる前に、血圧が上がっちゃうわ。ゲーム中にポックリ逝ったらどうすんのよ!」
「レイ姉、茂みには近寄らないって事で…」
「ミオちゃんまであたしを裏切るの!おむつを替えてあげたこともあるのに…」
嘘です。
何とか宥めすかして明日のクエストにOK貰ったときは、ジャスト3時。
「「「遅刻だよー!」」」
全員、バイト先にダッシュしました。
本日の成果
魔法・スキルともになし。
筋力強化のブレスレット:POW(筋力)+2を作りました。
マリーさんにもの凄く怒られました。
体力がついたような気がします。