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ミオちゃん 初めての… 2

 4 ミオちゃん、初めての…… その2



 このゲームは異常なほどβテストの期間が長かった。そして更に異常なことに、テスト期間中に解放された月の神殿が、解放されたまま一般公開されたのだ。


 『久しぶりの王都アルカシアか…、あまり日が経ったって訳じゃないのに、何故か懐かしいな』


 βテストの期間中、カケルを始めテスターたちが王都に足を踏み入れることは少なかった。

 初期設定のポータースポットは始まりの町であるエルカシアに設置されていて、殆どのテスターがその町を中心に活動していたからだ。

 冒険者ギルドを始め、エルカシアの町には必要とするものが殆ど揃っていた。

 魔法やスキルのための学校・施設、更にその紹介所と、テスターたちには先ずそこで得られる全ての技能の検証が求められていた。

 王都に足を向ける者は、それなりに技能を習得し且つ技能LVの高い者が、護衛などのクエストを受けて、向かう必要があったときに限られる。

 王都の門は、アルカシア王宮と都に住まう者にのみ開かれていたから。


 (ふふっ、お年寄りみたいね)


 カケルは、エルカシアの町を視察していたセリア王女に拾われて王都に入った。そのまま王女の従者として雇われ、ついには月の神殿の開放を手伝う羽目になってしまった。


 『テスターの時とは空気が違う。姫さんに扱き使われてた頃が、遠い昔のようだぜ』 

 (今はこの世界の人だからね。電気信号に置き換えることなく世界を感じてるのよ)

 『ああ、実感するな。もう他人事じゃ済まないって、な』


 王宮を一歩離れれば、豪奢な貴族屋敷が並ぶ超高級住宅街。各屋敷の門には衛兵が立ち、馬車が余裕を持って擦れ違える通りには近衛の騎士たちが巡回している。更に中心を離れていくと、立派な店構えの商店が建ち並ぶ超高級商店街。


 『しかし贅沢だよな、姫さん。…前にも言ったけどさ、異世界からビジターを招く前にこいつらを整理した方が良かったんじゃないか?』

 (既得権益ってやつは、取り上げるのが難しいのよ。お金は持ってるとこに集まるし、権力は振り翳すやつを守るように出来てる。金と権力を手に入れたやつらが、簡単にそれを手放すと思う?)


 王都アルカシアは今見てきた通り、王宮を中心に貴族屋敷・大商店と広がっている。逆に見れば、王宮が貴族たちに包囲されている状態とも言える。


 『…自分の首を絞めることにも、なりかねないか』

 (否定はしないわ。だからやり方を変えたのよ。あいつらとは根本的に目的が違う。この世界のため、なんて言うと偉そうだけどね、誰かが大上段に正義を振り翳さして進まないと、この世界が詰んじゃうからね)

 『姫さんの正義については、やれる限り手伝うさ。ついでに正義って名前のパンに集るハエを叩き潰しても、文句は言わないよな』

 (お願いしたいくらいだわ)

 『じゃあ、とっととエルカシアに行って、ハエ叩きを用意して来るぜ』

 (目的を間違えないでね)



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

 「マリーさん、今日からお世話になります。アクセサリー作りは初めてですが、頑張りますので宜しくお願いします」

 「あいよ、ミオちゃん。ビシビシ行くから覚悟しときな」

 「望むとこですよ」


 そんな訳で、今日からマリー装飾店にお世話になります。

 昨日、メタっぽい設定で聞かされた通り、ボクたちビジターにスキルを付けるのがNPマリーさんの主目的みたい。スキルが手に入って更にバイト料まで貰えるんだから、紹介してくれたハロワは内職形プレーヤーの味方だ。

 パーティ組んで討伐だけがファンタジーじゃないからね。


 「とっとと中に入んな。仕事の説明するよ」


 そう言われて店の奥に着いて行くと、連れて行かれたのは八畳ほどの作業部屋。マリーさんが指差した勉強机みたいなテーブルの上には、ルーペやビーズのような玉の入った小箱、革紐などが、雑然と置かれていた。


 「先ずは、一番簡単なやつからだよ」


 ビーズ細工だね。紐にビーズを通していくだけ、簡単、簡単。

 …と、思ったんだけど、ビーズの材質によって付加効果が違うんだって。

 定番の魔物の爪や牙を研ぎ出して作られたものや、属性を持つ宝石を研磨したものなどがビーズになってるから、素材の持つ属性を生かすように組み合わせなくっちゃ駄目みたい。

 素人目には殆ど同じように見えるビーズを用途別に仕分けして、大きさを揃えて、紐に通す順番を確認して…。

 マリーさんの指導がなかったら、無理ゲーだよ。


 「ほら、土属性のオパールはオークの牙で挟むように通すんだよ。コボルトの爪は補助効果があるからね、その隣に通して…。それじゃないよ!コブリンの爪は色が濁ってるだろ、もっと白いやつがコボルトさね。それ間違うと、体力強化の効果が消えちまうからね」


 こんな感じ。


 土属性は体力で火属性が筋力、風属性が素早さで水属性は賢さ、と。属性とステータスはリンクしてるんだね。

 宝石はそのままだと属性効果しかないけど、魔物素材を組み合わせることでステータスにアドバンテージをつけることが出来る。マリーさんが例の口調で言うには、魔物はマナを体内に取り込んで身体能力を向上させているらしい。だから宝石が発する各属性のマナを特定のステータスに変換出来るんだって。

 魔物の種類やランクによって効果が違うから気をつけろ!って、あの口調で脅されたけどね。


 おかげで基礎知識は身に付きました。

 

 今日の作品

 体力強化のブレスレット:STR(体力)+2


 微妙だね。

 とっとと、レイ姉の食堂に行こうっと。


 「マリーさん、ありがとうございました」


 挨拶は基本だよ。



 レイ姉がバイトしてる食堂は、冒険者ギルドの近くにある。例の御用達ってやつだね。

 ちなみにガン兄は八百屋さんで働いている。農業の才能を付けたから、売られている農作物の調査を兼ねてるんだって。でも何だか商人のスキルが付くような気がするよ。

 レイ姉はDEX(器用さ)が壊滅的に低いから、料理の才能があってもスキルが付くか心配してた。パーティには料理当番が必要だからって、料理を選んだんだけどね。それならケットシーにならなくても…。

 好みだからね。

 ゲームは楽しまなくっちゃ。


 と、思ってる時期もありました。


 「ふぇーん、ミオちゃーん」


 食堂から飛び出してきたレイ姉。どうやら3時から5時までの、たった2時間のバイトで心が折られたみたい。ボクを見つけるなり、泣きついてきました。


 「目玉焼きが…、ウインクしてるんだよ。瞑った目から黄色い泪が飛び散ってるんだよ」

 「ファ、ファンタジー、だね」

 「……ホラー、じゃないのか?」


 ガン兄、そんなフォローは要らない。


 「スープに異臭がするんだよ。パンがダークマターに覆われてるんだよ!」

 「……ホラー、だな」


 うっかり頷いたのは、ボクの所為じゃないからね。


 「レイ姉、お家に帰って、ご飯食べよ?」

 「バカ――――! あたし自炊なのよー!」



 今日のバイトの結果

 アクセサリー(ブレスレット)を作りました。が、スキルは付きません。

 ガン兄が、八百屋さんで(商人の心得LV1)をゲット。


 レイ姉の心が、ダークマターに覆われました。






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