ミオちゃん 初めての… 1
3 ミオちゃん、初めての…… その1。
「よお、お疲れさん」
「誰の所為だと思ってるの、まったく。微笑んでるつもりなのに、こめかみの辺りがピクピク引き攣っちゃったわ」
「聖女の仮面にヒビが入ったってか。微笑みが究極の無表情だって聞いたことがあるが、姫さんの微笑みは鉄仮面並みの無表情だったからな。少しばかり悪戯心が擽られたんだ」
アルカシア王宮。
第一王女セリアの部屋は柱や天井にまで彫刻が施され、身分に相応しい豪華な造りになっている。そこに飾り気のない家具が装飾を隠すように置かれ、さらに白いカーテンが吊られて、清楚な雰囲気を醸していた。
その部屋で、雰囲気をぶち壊すような会話を繰り広げる二人。
「仮面を被らなきゃやってられないの。素顔を見せたらつけ込まれるからね。見た?祭壇の下にいた連中。イベントリーから出した剣を見てオー!だって。甘い顔見せたら、すぐ取り上げようとするわ」
「元々俺が神殿で見つけた剣だからな。姫さんが適当に由緒をでっち上げなきゃ、あの場のお偉方が色々と難癖つけて来ただろうな」
この部屋では盗聴の心配はない。セリアが家具を入れ替えたのは、実際の所それを防ぐためだ。逆に言えば、この王宮は常に盗聴を心配しなければならないような環境だと言うことだ。
だから、セリアが勇者召還の儀を行うに当たって真っ先に整備したのがこの部屋だった。
「魔族に立ち向かう前に同胞に気をつけなきゃならないのが、頭の痛いとこね」
「その辺りの面倒事は姫さんに任せるよ。この王国に俺の世界からビジターを招いた姫さんなら、頭の悪いお偉方を扱うのも容易いだろ?」
「政治に頭は回らなくても自分の利には聡いのよ、あいつら。まあ、何とかしてみるけどね。それより、あなたの方はどうするの?」
「呪いとやらは蒼龍で取っ払えるだろうが、神殿辺りの魔族や魔物は一人じゃキツい。少し時間を貰って仲間を捜すさ」
「騎士団の中から?冒険者ギルド?それともビジター?」
「分かってんだろ」
「ふふっ、お願いね」
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「おい、そこの平民!」
ボクたちはアルカシア魔法学校で絶賛勉強中。夏休みに入ったのに授業って、何だかおかしいよね。わざわざゲーム機材揃えて、親の冷たい視線を受けながら学校に通うって、どんな罰ゲームだろう。
今絶賛勉強中なのは、みんな一緒に受けようって決めた魔力操作の授業。瞑想して集中力を高めるとか、身体の中を巡る魔力を感じ取るとか、何か聞いたことのある訓練方法だけど、実際にやると飽きるよね。
ゲームってもっとアクティブなものなんじゃない?
そう思って、某漫画のホニャララ波を真似してみた。
すると、ビックリ!
両手の平から、何だか空気の固まりのようなものが飛び出て、窓ガラスを壊しちゃった。
幸い怪我人はいなかったけど、みんなボクの方を見て固まってるんだよね。それで、妙に凍り付いた空気を解かしたのが、冒頭の一言。
「な、何ですか?」
平民と言われて答えるのも何ですけど、ボクのことを指しているのは間違いない。だってレイ姉、・ガン兄を始めクラス全員がボクを見てるからね。
「今のは、何だ?」
先生かなって思って首を竦めてたけど、教室の隅の方から声が聞こえる。
見ると、豪華そうな衣服を身に纏った男が、立ち上がってボクを指差してた。隅にいたから気づかなかったんだ。
「…何でしょうね?」
「おい!」
突っ込みが早いね。良い傾向だよ、キミ。
「あー、ホニャララ波?」
「何で疑問形だ?」
「だって、何だか知らないもん」
何だか、最初の我が儘貴族なイメージが壊れそう。
「お取り込み中の所申し訳ないが、ミオさん。取り敢えず窓ガラス代弁賞ね」
先生の仲裁が入りました(泪)。
「ミオちゃん、災難だったわね」
「さっきのどうやったんだ?」
休み時間、レイ姉とガン兄に囲まれています。
あの後、突然の破損機材の弁償請求で再び凍った空気は解けず、瞑想という名の居眠りで時間が過ぎた。
授業中、二人とも何か聞きたそうな顔でこっちを見てたので、この事態は覚悟してたんだ。
「瞑想が退屈だから、こうやってこうしてたら、何か飛び出してきた」
これじゃあ分かんないよね。実際二人には身振り手振りでホニャララ波を実演して見せたから、分かってもらえたと思う。
「平民、こうやってこうするんだな」
「違うよ。こうやってこうするの」
ああ、台詞ってもどかしい。
でも、この人、いつの間に仲間入りしたんだろう?
「妹ちゃん、俺もやってみたいぞ」
ふふっ、ガン兄。中二病がぶり返したね。
「じゃあ、もっと広いところに行きましょう。また教室壊したら、今度は弁償じゃ済まなくなるかも、だからね」
レイ姉もやる気があるみたい。お仕置きよ!なんてアニメ、好きだったからね。
「それなら訓練場に行こうではないか。私の名前を言えば、いつでも使わせてくれるはずだ」
これって、クエスト?
テンプレの台詞で登場してきたから敵性のMOBキャラかと思ったんだけど、もしかしたらレアな魔法を授けてくれるイベントNPかも知れないね。ボクのホニャララ波の動作がフラグだったのかも。掲示板に乗せようかな。
「ボクはミオ。キミの名前、教えてくれないかな」
「口の利き方がなってないが、物事を知らぬビジターの平民だから今回は許してやろう。私の名はヘンリ・コーカス。コーカス伯爵家の次男だ。憶えておくが良い」
名前聞き出したから、メモしとこ。ヘンリ・コーカスっと。キミの名前は覚えておくよ、イベントNP(仮)として、ね。でも、予想通り貴族だったんだね。
この国って王国の設定だから、身分制度があるのかなって思ってたけど、いきなりイベントに貴族を絡ませるなんて、やるじゃん。
何れ王様やお姫様にも会えるんじゃないかって、希望が膨らむよ。
まあ、ヘンリ君に期待しとこ。
「さあ、こっちだ。君たち平民と違って、私はこの学園に詳しいし顔が利く。今回は特別に、貴族用の訓練所に案内してやろう。着いて来い」
おお!イベントの匂いプンプン。
ボクたち3人ともリアルの昼食を予定してたから、次の時間割が空いてる。テンプレ、テンプレ。
そして、やって来ました訓練所。
期待通りヘンリ君の顔が利いて、この時間、ボクたちの貸し切りになりましたとさ。
「ミオ、だったな。ここなら少々暴れても文句はつけられない。さあ、さっきのをやって見せろ」
ヘンリ君、かなり気が短いね。レイ姉とガン兄もソワソワしてるから、さっさとぶちかまそう。
ホー、ニャー、ラー、ラー、波ーーーー!
おおー、出た、出た。
何か飛んでって、弓道の的みたいなやつに当たって………後ろの石塀も消えたね。
「ミオちゃん?」
「妹ちゃん………」
「…………素晴らしい!」
おーお、3人3様の反応、見事に戴きましたよ。
レイ姉は目をキラキラさせてボクを見てる。ガン兄は目の焦点が合ってない。ヘンリ君、興奮で顔が紅潮してる。もの凄く喜んでるみたいだから、訓練場の弁償はお願いね。
「わ、私からだ。さあ、早く教えてくれたまえ!」
「あ・た・し・からよね、ミオちゃん!」
「妹ちゃん………」
…予想はしてました。でも、ガン兄、何だか声に悲壮感が滲み出てきたぞ。
「はい、はい、みんな、そこに並んで。動作はさっき見せた通りだからね。あっちの的に向かって…、用意は良い? せーの!! …って言ったら撃つんだよ」
「おい!」
一応、お約束だからね。
「ごめんね。でも、ほら、緊張してると上手く出来ないかなって思って。みんな、肩の力を抜いてリラックスだよ!」
嘘をつきました。
ヘンリ君、突っ込みが良いから面白そうだと思っただけ。
言い訳したのは、ヘンリ君が石塀弁償のスポンサー(仮)だからだよ。
怒らせないようにね。
「じゃあ、今度こそ本番ね。……せーの!」
お!お、お、ぉ、ぉ、ぉ……。残念!
レイ姉の手から何かがポソっと出たんだけど、的まで辿り着かずに途中で消滅。
ヘンリ君は全く変化なし。
ホニャララ波ポーズを決めたガン兄は、恥ずかしさで手が震えてる。
「何か出た!」
「おい!ちゃんと教えろ!」
「…………」
1時間後、進展はありませんでした。
ちなみに、石塀の修理費はヘンリ君のコーカス伯爵家持ち。ついでに窓ガラス代もお願いしたらOKだって。良い財布を拾ったね。
で、4人は今、学食に来ています。
「ミオちゃん。魔法かスキル、ついてた?」
「あっ、そうだね。確認しなくちゃ。……ステータス!」
早速ステータスを確認。お、おぅ!
「スキルのとこに(圧縮魔力弾LV?:1/3)って、ついてる!」
「何だと!」
ヘンリ君、拳を握って立ち上がった。
「ヘンリ君、知ってるの?」
「いや、聞いたこともない。…良いか、由緒正しい貴族の私が、だぞ。今まで聞いたことがないスキルなんだ。驚くのが当たり前だろう」
「ミオちゃん、凄い!レアスキル!……あたしも、欲しい!」
「………ぅ、ぅ、ぅらやましぃ、ぃ、…」
やっぱりヘンリ君、イベントNPだったんだね。レアスキルがあっさり手に入っちゃった。掲示板ものだね。メモ、メモ。
――発動条件:魔力操作のクラスでホニャララ波の真似。
参考:教室の窓ガラスを破壊。(おい、平民!と呼びかけられること必要?)
取得スキル:圧縮魔力弾LV1
イベントNP:ヘンリ・コーカス(コーカス伯爵家次男)
ふぅ、完璧。
これもゲーマーの心得だよね。
結局、今日は1時間目が属性魔法(ボクは風魔法)、2時間目がみんなで魔力操作、3時間目は昼食予定のとこ訓練場でイベントに変更。午後の4時間目はレイ姉と魔法陣の授業を受けました。
今回の成果
授業で憶えた魔法・スキルは、共になし。
イベントでレアスキル(圧縮魔力弾LV?)ゲット。
レイ姉も何か少し憶えかかっています。
ヘンリ君から、毎週3時間目に訓練場で特訓を提案(強制だね)されました。
得られたものは、プライスレスですよ。