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ミオちゃんのチュートリアル 2

 2 プロローグ*ミオちゃんのチュートリアル その2



 「勇者様、どうかこの国をお救い下さい」


 聖女は勇者の前に跪いた。銀糸の髪がふわりと舞い、辺りに眩い輝きが広がる。


 「お立ち下さい」


 その言葉に、柔らかく微笑みを返しながら、


 「わたくしはアルカシア王国の王女セリアと申します。この度、やむにやまれぬ事情があって勇者召還の儀を執り行いました。あなたさまの迷惑も省みず、甚だ勝手とは存じますが、どうかこの国のためにお力をお貸し下さい」


 セリアは、尚も深く頭を下げた。


 「セリア様。どうかお立ち下さい。私は非才の身、あなたのような立場の方に頭を下げられるほどの者ではございません」

 「いいえ、月の女神イーリス様の御神託が下りています。この国にある幾つかの神殿、また、この世界にある幾つもの聖域、そこに掛けられた魔王の呪いをうち破れる方は、召還された勇者様より他にございません。非才などと卑下されず、どうか、どうかお力をお貸し下さい」


 跪いたまま、頭を激しく左右に振るセリア。その度に錦糸の輝きが撒き散らされる。


 (ねえ、さっきから変なト書き入れてるでしょう)

 『姫さんの女優ぶりに感心してるんだよ。敬意を表して、少しシナリオっぽくしてみた』

 (馬鹿やってないで、さっさと話を進めてよね)


 「分かりました。私はニッポンという国からやってきましたカケルと申します。私にどれ程の力があるか存じませんが、アルカシア王国とセリア王女のために全力を尽くしましょう」


 と言いながら、カケルはセリアに手を差し伸べた。セリアはその手を両手で包むように押し抱き、カケルの顔を見つめたまま頬を赤らめて立ち上がる。その潤んだ瞳には…


 (ちょっと、いい加減にしなさい! ト書きが願望で歪んでるじゃないの)

 『良いじゃないか。俺は欲望に忠実なだけだ。まあ、姫さんにも忠実に尽くすよ』

 (欲望抜きで頼むわよ、ホントに)


 「ありがとうございます、勇者カケル様。これは古よりアルカシア王国に伝わる宝剣・蒼龍。魔を滅する蒼月の光を刀身に宿すと伝えられています。カケル様のお力の一助として、どうぞこの剣をお受け取り下さい」

 

 セリアは両手で虚空を掴むように掲げた。そこに龍の意匠を持つ青銀の剣が現れる。その剣を一度優しく抱き留めると、決意の籠もった表情でカケルに向かって差し出した。


 『おっ、イベントリーを使ったな。上手いね』

 (うるさい!…そろそろフィナーレだからちゃんとやってよ)


 「この剣に誓って、アルカシア王国とセリア王女に生涯の忠誠を捧げましょう」


 カケルは青龍を押し抱き、セリアの前に跪いて答える。


 「お立ち下さい、カケル様。わたくしたちの剣として、どうかこの世界のためにご尽力下さい」

 「はっ、この命尽きるまで」


 その瞬間、二人の身体は蒼い光に包まれた。


 『光魔法のムーン・レイ。威力は極小に抑えたぞ』

 (はいはい。よく出来ました)


 祭壇下から、大きなどよめきが起こる。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^


 アルカシア魔法学園の学食。お腹減ってたからナポリタンを食べて、今は履修予定の科目を相談中だよ。


 「…で、ミオちゃん、風魔法は決まりね」

 「うん。レイ姉は火魔法で、ガン兄は土魔法っと…」


 ボクは学校から渡された履修表にチェックを入れていく。属性魔法や武術は全て同じ時間にクラスが分かれるので、互いの時間割には干渉しない。


 「武術はボクが弓でレイ姉が槍、ガン兄は盾。ここまでは良いよね」

 「ガンちゃんが前衛でタンク、あたしが中衛で攻撃、ミオちゃんが後衛で補助。良いんじゃない?バランス的に…」

 「…パーティにもう一人攻撃役がいれば、レイも魔法に専念出来るんだがな」

 「無理に探す必要はないわ。冒険者を本職にするつもりはないんだから」

 「アイテム探しと小遣い稼ぎ程度だからな」


 時間割から話題がずれたね。わざとらしく用紙を鉛筆でコンコン。


 「お、おう。それで後はスキルをどう取るか、だな」


 ガン兄GJ。分かったみたいね。


 「みんな一緒の授業が受けたい!」


 こら!レイ姉!

 いつもの我が儘を言い出す前に、急いでフォローしなくっちゃ。


 「だったら魔力操作と体術スキルかな。魔法の威力上げと攻撃や罠の回避に、全員必要だと思うよ」

 「俺は身体強化のスキル。タンクの必需品だ」

 「あたしはもう一つくらいミオちゃんと同じ授業を受けたいわ。魔法使いメインなんだから、魔法陣なんて良いんじゃない?」

 「うん。ボクのアクセサリー作りにも必要だからね」


 大分履修表が埋まってきた。学校だけじゃなくってアクセサリー屋のバイトもあるから、このくらいかな?冒険者ギルドに行って依頼も受けてみたいし。


 「ミオちゃん、何か飲む?」

 「うん。コーヒー」


 一段落ついたのを期に飲み物を尋ねられた。喉が渇いてたので間髪入れずに答えたけど、コーヒーって苦い。いつからこんなものが好きになったんだろう?


 「おう、俺もコーヒー頼む」


 さっさとドリンクコーナーに歩いていくレイ姉に、慌てて注文を言うガン兄。

 うん、デフォルトだ。


 ちなみに学食はセルフサービス。ドリンクはお代わり自由。スマイルはありませんでした。



 「履修表も提出したし、後は町を見学しましょう」


 レイ姉の一言で、ボクたちは商店街に足を向けた。

 これまでに行ったことがあるのは、魔法学校と冒険者ギルドとハロワくらい。アクセサリー屋のバイトを決めたのもハロワだったので、店にはまだ顔を出していない。期末試験で忙しかったからね。

 ついでだから後で店を覗いてみよう。


 「町は石壁に囲まれているのね。あっ、兵士スタイルの門番さんがいる!」

 「冒険者ギルドは意外と門の近くだったんだな。登録したときは暗かったからよく見てなかった。それに宿屋と食堂もこの辺に集まってるみたいだぞ」

 「冒険者御用達ね。ほら、こっちの通りには武器屋さんと防具屋さん・薬屋さんがあるから、冒険者通りって呼ぼう」


 ワイワイするのは楽しいね。

 今まで時間に余裕がなかったし、試験の結果が気になってたから、心の余裕もなかったんだ。みんなで歩いてみると、何だか新鮮だね。町が色鮮やかに見える。

 成績表?…気にしちゃ駄目だよ。


 「この辺りが商店街ね。八百屋さん・魚屋さん・肉屋さんって、何か懐かしい感じがするわ。昭和の香りってやつ?…やっぱり、コンビニやスーパーはないのね」

 「見たことないものばっかり売ってるな。ホントに食えるのってものもあるぜ」

 「ファンタジーだから市場に露天商ってイメージだったんだけどね。店舗で商売出来るってことは、それだけこの町の流通がしっかりしてるってことかな?」

 「ミオちゃん、頭良い!食える食えないって騒いでるどこかのアホとは大違いよ」


 だからって、こんなとこで抱き締めるのは止めてよね。


 「ここが服屋さんだから、この辺りに…、あったわ!ほらほら、ミオちゃんのアクセサリー屋さん!」

 「ボクのって、経営者じゃないんだけど…」

 「良いの!ミオちゃんが働くんだから、ミオちゃんのなの!すぐに看板娘になって、町の誰もが、ここをミオちゃんのアクセサリー屋って呼ぶことになるんだから」

 

 レイ姉、何でそんな事を力説してるんだろう?病気?テンションMAXだね。


 「何を店先で騒いでいるのかな?」


 ほらほら、店の人が出てきちゃった。


 「お、お騒がせしてすみません。ボク、ミオって言います。明日からこの店でお世話になる予定の者なんですが…」


 ボクのお母さんくらいの年の女の人だ。たぶん雇い主だから、何はなくてもご挨拶ね。


 「ほうほう、君がハロワから紹介のあったビジターさんか」

 「ビジターさん?」

 「何だ、違うのかい。ハロワからはビジターのエルフ少女って連絡があったんだけどね」

 「ボクの種族はエルフですけど、…ビジターって何ですか?」


 エルフって言ったし紹介に間違いはないだろうけど、聴き慣れない言葉があった。


 「ああ、知らなかったのかい。そりゃ悪かったね。ビジターって言うのは、元々この世界にいなかった人たちの事さね。ここは魔物や魔族なんてものが居っての、常に危険と隣り合わせの世界なのじゃ。魔族は魔物を使って度々戦争を仕掛けてくるしの、その上魔物が出るために利用出来る土地も少のうて、わずかな土地を巡って人間同士も争っておるわ」

 「何だか口調が変わってるんですけど…」


 この人、少し怖い。目が据わってきてるよ。


 「腰を折るでない!わしは大事なことを話しておるんじゃ。…良いか、こんな世界では国は育たん。子が生まれてもそれ以上に人が死に、人口は減るばかりじゃ。働き手が少なく、作物も採れん。徐々に衰退していくばかりじゃ。そこでじゃな、ここではないどこかの世界に道を繋げて異世界の人々を招くことにした、と言う訳じゃの」


 「じゃあ、その招かれた人のことがビジターさん!」


レイ姉、かなり退いて見てたみたいだけど、やっと会話に参加。ガン兄は何だかまだ怯えてる。


 「うむ、そうじゃ。じゃが、これだけではビジターがわしらの世界の発展に力を貸してくれる訳がなかろう?そこで、学校やらハロワやらを造って、ビジターにこの世界で生きていくための知識や技術を教えることにしたのじゃよ。WIN&WINの関係じゃね」


 メタ設定キター!って、たぶん選んだ職場や学校のNPの人たちが、プレーヤーにこんな話を伝えてるんだろうね。リアル感の演出ってやつ。


 「あ、あのー、お姉さんのお名前を教えていただけますか?」

 「ははっ、お姉さんか。あんたとは仲良くやれそうだよ。遅れて悪かったね。あたしはマリー、このマリー装飾店のオーナーだよ」


 中年女性はこの手に限るね。変なところもあるけど、明るくて話しやすそうな人だから仲良くしようっと。


 「アクセサリー作りは教えていただけるんですか?」

 「もちろんだよ。ミオちゃんって言ったっけ?あんたいい子みたいだから、付きっきりで教えてあげる。頑張りな」

 「はい。ありがとうございます!」

 

 ふぅー、掴みはOK。良い子頂きました!

 明日からが楽しみだね。



 ところでレイ姉とガン兄、何処行っちゃったのかな。

 レイ姉は店内のアクセサリーに目を光らしてるみたいだけど、ガン兄は何だか遠い目をしてる。

 おーい、戻っておいで!

 



 

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