I knew 愛
生まれて初めて恋をした。
自分のことにしか興味がない僕にとって、"恋"とか"愛"だとか言う不確かなものは無縁だと思っていた。
そんな僕を心配してくれる友がいて。
ある日、"恋愛"について熱く語ってくれた。
きっかけはほんの少し、雀の涙程の違和感だ。
ふとした拍子に体の奥がむず痒く感じ、僅かに心拍数が上がったような錯覚を覚える。
そしてそれらの発端は全て、特定の相手に結び付く。
それが、所謂"恋愛"の始まり。
普段からつい相手のことを意識してしまい、その相手の言動一つ一つに心は大きく揺さぶられる。
ある時は体内がマグマのように沸騰する高揚感に包まれ、
またある時は果てしなく谷を落ちていくような絶望に浸される。
僕のはまさに"それ"だった。
初めて目が会った瞬間、ドクン、と心臓が大きくなる音が聴こえた気がした。
世間で言う『一目惚れ』というやつなのだろう。
"恋愛"について聞いたときは、なんて面倒な、そして辛そうなとしか思わなかった。
マグマに熱され、谷を突き落とされるなど罰でしかないじゃないか。なにが いいもの なのだろう。
でもそれが、恋をしらない奴の甘い考えだったのだと知った。
毎日毎日毎日毎日君のことばかり。
君を想う度に誰かが僕の心臓が鷲掴みにするけど、それは苦しい痛みじゃない。
そのことを実感出来たのが嬉しくて友に伝えたけど、彼はそれは恋ではないと言った。
僕はもちろん恋だと主張したけれど、ただ呆れたような、哀れんだ視線を向けられただけだった。
どうして分かってくれないのか。
悲しかったけど、僕の想いは変わらない。
あぁ、君に会いたい。
一目見るだけでもいい。
求めずにはいられない。
こんなに何かを欲する時があるなんて。
自分の想いが否定されて虚しいからかもしれない。
行き場のない僕の心は限りのない広大な宇宙に漂い続けて、いつしか押さえようのないブラックホールに飲み込まれそうだ。
そして僕は、微かな気配に視線を向けた。
ほら、君はこうして僕の気持ちが読めるように現れる。
友の言ったように、体内が煮えたぎるような感覚。
頭が真っ白になり、空っぽになった。
あぁ、なんて愛しい。
独りでに足が歩き出す。
君を恐がらせないように、出来るだけ静かにそっと近付く。
距離が縮まる度にその姿が鮮明に映った。
なんて可愛らしい。
いい匂いがする。
そしてなんて……
・
・
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「あらアーリー。ネズミを捕まえたの?いい子ねぇ、でも汚いからペッしなさい」
僕らは引き離されてしまった。
だれもこの"愛"を分かってくれない。
僕は取り戻すために暴れようとしたけど、やっぱいいや。
新しい子を、見つけちゃった。
君もすごく……いい匂い。