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スルガニャン物語2  作者: サイコー君
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スルガニャン物語2(ラスト)

  エピローグ


 ……なんだろう。

 なんか涼しいな。それに変な匂いがする。消毒っていうか、病院の匂い。そんなに嫌いじゃない。

 昔、脱腸で入院したことを思い出した。筋トレをやろうと思って、重たいダンベルを持ったらなっちまったんだよね。

 手術代に十万かかったよ。体を鍛えるのが目的だったのにさ。ハハ、アホみたいな話だ。

 目を開けると、見慣れない光景が飛び込んできた。……どこだ、ここ?

 どうやら病院っぽい。

 あ、そうか。俺、頭を強く打ったんだよな。それで病院に運ばれたのか。

 ……皆はどうしたんだろう。無事にベックオフの本社から逃げ出すことはできたのか?

 塔子さん? 由宇君?

 お辞儀君……。

 誰もいない、か。……スルガニャン。スルガニャンはどうなった?

 ふと、横を見るとぬいぐるみのようにちょこんと横になっている白い猫がいた。

「スルガニャン……無事だったんだ」

 耳を澄ませばスルガニャンの寝息が聞こえる。呼吸のたびに毛布が盛り上がった。スルガニャンは生きているんだ。……本当によかった。

 部屋に明かりはついていない。窓からの日差しだけで十分周りが見えた。

「――お。……サイコー君、目が覚めたか?」

 病室に入ってきたのは塔子さんだった。左腕は肩から三角巾を掛けて固定されていた。

「塔子さん? 無事だったんだね。君が救急車を呼んでくれたの?」

「そうだ。無茶をしたな、サイコー君」

 塔子さんの話を聞くと、入院したのは俺とスルガニャンだけらしい。

 塔子さんたちは軽傷で済んだんだって。

 貴殿野郎も特にケガはなく、相変わらずだそうだ。警察に自首するかどうか葛藤しているらしい。早く行けっての。

 ベックオフの社長はこことは違う別の病院へ運ばれたようだ。

 ……実は彼、相当な隠れスルガイヤーだったらしい。社長室からは大量のスルガニャンぬいぐるみが大切に飾られていた。

 本当は駿可屋を愛していたんだ。でも、彼はベックオフの社長。運命のイタズラってやつか……。

 ベックオフは倒産した。一番の原因はやはり貴殿野郎のFXで出した損失らしい。ほとんど貴殿野郎が倒産させたようなもんじゃん。

 これで、ふりかけさんも成仏できるかな……。

「スルガニャンの目はどうなの? 大したことないよね?」

 こんなに静かに寝てるんだ。きっと大したことない。

 でも塔子さんの表情は暗かった。彼女が重々しく口を開く。

「父上の目の状態は深刻だ。近いうちに手術が必要らしい」

「そんな……でも、手術したら治るんだよね?」

「医者はそう言っている。……だが、手術には多額の金が必要になる。その額、三千万円」

 三千万円? そんなにお金がかかるんだ……。

「サイコー君、どうすればいい? このような大金、駿可屋にはないぞ」

 駿可屋を店ごと売ったらどうだろうか。そしたら三千万円、工面できるかもしれない。

 でもそれは俺たちの駿可屋がなくなるってことだ。もう皆と仕事ができない。

 駿可屋にはたくさんの思い出が詰まっている。それはお客さんにとっても同じことだ。

 きっと悲しむだろう。駿可屋の買い物が生きがいだという人も少なくない。

 ベックオフがなくなり駿可屋もなくなったら、日本国内にマンガ・ゲームの買い物難民が溢れかえってしまう。

 それはもう楽天やヤフオクの力だけではどうしようもない。

 そうだ、お客様。お客様に頼ることはできないだろうか?

 商品の最低単価を高く設定する。タイムセールの割引率を低くする。

 〇円買い取りの復活。買い取りアップキャンペーンの改悪。

 どれもお客様の立場になれば不利な条件だ。こんなの受け入れてくれるはずがない。

 駿可屋の良さがなくなってしまうじゃないか! でも……それでも俺は信じてみたい。

 願いは叶えるものだ。信じたい、奇跡を。

「塔子さん。俺のスマホ、どこにある?」

「あ、あぁ。それはここに……」

 俺はブログにこのことを記事にする。スルガニャンの手術代を捻出するため、皆に泣いてもらうことを。

「サイコー君? 君はなにをするつもりなのだ?」

「塔子さん……あんた、駿可屋のお客様を信じられるか?」

「なにを……言っている?」

「俺は信じたくなった。スルガイヤーはスルガニャンが苦しんでることを知ったら、きっと助けたくなるはずだ。駿可屋は今日から値上げする」

「値上げだって? お客様から消費税の便乗値上げだと非難されるぞ? その覚悟はあるのか?」

「もちろんだ。でも、俺はそうならないと思う。……ラブリーラブリー、スルガニャン」

「ラブリーラブリー……スルガニャン?」

「恥ずかしがるなよ。もっと声を大にして言おうぜ。ラブリーラブリー、スルガニャン」

「ラ……ラブリーラブリー、スルガニャン」

「そうだ。ラブリーラブリー、スルガニャン」

「「ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン!」」

 隣の病室からも聞こえる。……ラブリーラブリー、スルガニャン。

 患者が部屋にやってくる。彼らは口を揃えて言った。

「ラブリーラブリー、スルガニャン! ラブリーラブリー、スルガニャン!」

 看護婦さんも、先生も部屋に来た。……もう部屋は人でいっぱいだ。

 近所の人たちも集まってきた。そして世界は一つになった!


「ラブリーラブリー、スルガニャン!」


 ――後日、ブログに書き込みがあった。

 それは値上げを理解してくれる、温かい声の数々だ。

 浮いたお金はすべてスルガニャンの目の手術代に回された。

 もちろん三千万円貯まったら値上げは解消する。

 費用を前借りして受けた手術は大成功だった。いつものスルガニャンに戻った。元気に動き回っている。

俺とスルガニャンは退院し、二人は事務所にいた。

「スルガニャン、聞いた? 貴殿野郎が商品の価格をしょっちゅう変えてるって話」

「あぁ、知ってるにゃ。『ころころ値段が変わるから株みたいで、お客様も楽しいでござろう?』なんてほざいていたにゃ」

「ったく、早く自首しろっつーの。……話は変わるけど、そろそろクリスマスにお正月じゃない? せっかくだから今年は特に大きなセールをしたいよね」

「去年はうまい棒の千本セットがインパクトあったにゃ。今年は一万本にでもしようかにゃ。にゃっはっは」

「お客様に喜んでもらえるセールにしようよ、スルガニャン」

「んにゃ、年末も年始も忙しくなりそうにゃ。サイコー君、これからも駿可屋を頼んだにゃ」

「うん……あのさ、スルガニャン」

「ん? なんにゃ? サイコー君」

「キス……しよっか」

「え……えぇっ???? マジで言ってるのかにゃ、サイコー君。それってセクハラ……いや、猫ハラだにゃ!」

「いいじゃないか。猫ハラ、最高だよ」

「うにゃ~、ちょ、ちょっとだけだにゃ。今日のサイコー君は強引だにゃ」

 俺とスルガニャンの未来はこれからも続く。

 猫ハラがマジで最高!

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