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スルガニャン物語2  作者: サイコー君
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スルガニャン物語2(5)

  2 ベックオフを潰す方法


 緊急会議を開いた。もちろん議題はベックオフに関するものである。

 事務室に集まったのは俺とスルガニャンの他に、スルガニャル子、お辞儀君、貴殿野郎の三人と二匹だ。

「――そういうわけで残念ながらスルガイヤーの一人が亡くなってしまいました。ベックオフが取引停止さえしなければ、ふりかけさんが死ぬことはなかった。ベックオフに勝つというのはベックオフを撤退させることだと考えています。では勝つにはどうすればいいか? 意見のある者は遠慮なく挙手を」

「にゃるっ」

 手を……いや、前脚を上げたのはスルガニャル子さんだった。ちょっと意外。

「スルガニャル子さん。どうぞ」

「貴殿野郎をベックオフのスパイに送ったらいいにゃる。そこで会社のお金を使ってFXをやるにゃる」

「またFXネタか……もうそれはいいですよ。飽きてますよ、皆さんきっと。他にある者は?」

 ある人は? って言ってもいいんだけど、スルガニャンとスルガニャル子さんがいるからな。ある人と猫は? って言うのもなんだか変な感じだし。

「にゃい」

 前脚を上げたのはスルガニャンだ。なにを言ってくれるのだろう。

「貴殿野郎を買い取りに出したらいいにゃ」

 貴殿野郎ネタか。あいつはもうお笑いキャラだからな。

「待て、待つでござる! なぜ吾輩だけこのような扱いを受けるのか? 拙者、納得できんでごわす!」

「あんたが勝手に会社のお金を使ってFXやってたからだろうが。この野郎……」

「サ、サイコー殿。目が怖いでござる」

「お辞儀君はなにかないですか? もしあったら遠慮なく」

「いえ、ぼくは遠慮なんかしていません。ごめんなさい、アイディアありません。すみません。ごめんなさい!」

 お辞儀君は頭を下げてばっかだった。……なんだよ、駿可屋のメンバーってこんなに頼りないのばっかりだったっけ?

 塔子さんと由宇君がいたときはこんなんじゃなかったような……。二人の大切さが今になって実感した。

「スルガニャル子さん、ちょっと香水くさいですよ。なんかつけてるでしょ?」

「わかったにゃるか? さすがサイコー君にゃる。これはトルコから取り寄せたローズオイルにゃる。とってもいい香りだにゃる。三万円で買ったにゃる」

「高いですよ。来月のお小遣いから引いておきますよ。もう……」

「なんと! スルガニャル子殿はトルコがお好きだったのでござるか? トルコは金利が高くていいでござるなー」と貴殿野郎。こいつ、また話をFXにしようとしてるよ。全然懲りてない。

「貴殿野郎もなにかアイディア出してよ。それ次第で減給の期間とか短くするからさ」

「そうでござるなー。CD箱の値段を下げてみるのはどうでござるか?」

「下げるって……四百五十円でもギリギリなんだよ。安くしてどうするの?」

「いやぁ、ふりかけ殿がCD箱をベックオフに売って、取引を停止させられたでござる。だからたくさんの人が同じことをするんでござるよ。だったらベックオフは何千、何万の顧客を失うことになるでござる」

「それ……正解じゃないか。いい! いいよ、貴殿野郎! なにあっさり答え出してんの? 全然期待してなかったのに!」

 いいアイディアが出た。確かに貴殿野郎の言う通りだ。

 しかしなんという発想だ。俺は駿可屋のメリットを増やすことでベックオフの顧客を取り入れようとしていた。貴殿野郎の考え方はまったく違う。

 あえて駿可屋の顧客をベックオフに紹介する。駿可屋とベックオフの両方を利用するお客は多いからな。

 ベックオフは彼らにも取引停止メールを出すだろう。

 一人や二人、顧客がいなくなってもベックオフはなんとも思わない。でもそれが千人や二千人だったらどうなる? きっとベックオフはあせるはずだ。

 一万、二万にまで膨れあがるともう手遅れ。気づけば、お客さんはゼロだぜ。そうなれば確実に潰れる。

「スルガニャン、CD箱の値段を下げるんだ。値段は……三百八十円! そう、これしかない!」

「ラジャにゃっ!」

「あんた、がんばるにゃる」

「ご、ごめんなさい。いいアイディアが思い浮かばなくて。すみません」

「ふふ、これでもしかしたら臨時ボーナスが出るかもしれんでござるな。そうなったらもう一度FXで勝負をかけてゆくゆくは金持ちに……」

 価格変更のやり方は以前、担当だった由宇君から教わった。

 俺はキーボードを叩いてCD箱の値段を変更する。四百五十円から三百八十円だ。はっきり言って赤字。

 値段の変更と同時に、俺はブログでスルガイヤーに呼びかける。ふりかけさんの死について。そして俺たちがベックオフに闘いを仕掛けるということを伝えた。

 この作戦にはスルガイヤーの協力が必要不可欠だ。彼らが駿可屋を助けてくれる気持ちがあるのなら、必ず駿可屋は勝つぞ。


 ――それから二日がたった。

 ブログにCD箱の価格が下がったことを宣伝したこともあり、CD箱は八百箱を売り上げた。

 これらをすべてベックオフに売りに出す!

 ふりかけさんは十箱で一万五千円になったと言った。ということは八百箱だと約百二十万か。それほど大きな額ではない。

 買い取り金額でベックオフに致命的なダメージを与えることはできないな。

 顧客の減少がなによりも効くはず。こういう悪評はすぐに広がるもんだぜ。

 ネットサイトでこけりゃあ、店舗経営にも影響が生じる。案外、あっさり崩れるかもしれない。

「サイコー君、CD箱が飛ぶように売れてるにゃ!」

 俺は事務室で売上データを確認していた。そんなときにスルガニャンが部屋にやってくる。

「まだ在庫はあるかな?」

「大丈夫にゃ。まだまだあるにゃ」

 頼もしい言葉だ。……おっと、電話だ。誰からだろう。

 履歴を見ると株式会社YOUKAIの黒田さんからだ。どうしたんだろう。

「はい、駿可屋の涼野ですが」

『サイコー君ですか。この間はどうも』

「はい、どうも……」

『ブログ見ましたよ。ベックオフと勝負するんですって? わたしたちも微力ながらお手伝いさせてもらいますよ。CD箱を百箱買わせていただきます。ベックオフは一度に二十箱しか送れませんが、五人の従業員が送れば問題ありません。ふふ、ベックオフの倉庫が駿可屋のダンボール箱だらけになってしまいますね』

 なんと嬉しいことだ。この前はパクリだのいろいろと責めたのに。やはり駿可屋は愛されるショップというわけか。ありがたい!

「助かります。ありがとうございます!」

『はは、礼には及びませよ。あ、その代わりと言っちゃあなんですが、スルガニャンの写メでも送ってくれませんか? オカズに……いや、娘が欲しがっているもんでして。ハ、ハ!』

 ったく、相変わらず図々しいな。それにしてもオカズって言ったよな? ……この野郎、スルガニャンをオカズにしてるのか? 変態野郎か。

 ま、それでも協力してくれるのは嬉しい。百箱か。人手が足りなさそうだな。遅延を起こす前に俺も通販部に行って手伝うか。

 プルルルル、プルルルル……。

「また電話か。――はい、涼野です」

『サイコー君? ブログ見ましたよ。ベックオフと闘うんですね?』

「え、誰……?」

 履歴を確認して電話を取らなかった。耳をケータイから遠ざける前に、彼はこう名乗った。

『クロガネ君ですよ。以前はお世話になりました。おかげで念願のクロガネのサントラCDを手に入れることができました。本当にありがとう!』

「クロガネ君? ……いやぁ、懐かしい。サントラCDはどうでしたか? 音飛びなんかしていませんか?」

『えぇ、状態は完璧でしたよ。金庫に入れて保管しています。これはぼくの命そのものです。例え強盗が入って肉親を人質にされても、このクロガネのサントラだけは渡せませんよ』

 クロガネ君……スルガニャル子さんを探してくれた青年だ。

 そのお礼として駿可屋は彼にクロガネの翼のサントラCDをヤフオクで落札してプレゼントした。

 クロガネの翼はパソコンゲームで、サントラCDはソフマップの予約特典だ。

 彼は2ちゃんの駿可屋スレで何度もクロガネアピールをした。その粘り強さは賞賛に値する。

『クロガネのサントラの恩返しをさせて下さい。ぼくも闘いますよ、ベックオフと』

「本当ですか? それは非常に助かります。ありがとうございます!」

『サントラを落札するのに数百万円使ってくれたのは知っています。だから今回は百六十万円分のCD箱を買わせていただきます。これが今ある、ぼくの全財産です』

 百六十万……。ということは四千箱? そんなに在庫あるかな。

 CDの枚数にして八十二枚✕四千箱。クロガネ君、買ってくれるのは嬉しいけど家の中に入らないだろ。

「お気持ちは嬉しいですが、ベックオフの買い取りは一度にダンボール二十箱です。四千箱はちょっと……」

『そうですか……そうですよね。すみません、あまり考えずに言いました。ではこうしましょう。購入は六十箱。三回に分けて発送します。あとはですね、地元の友だちに頼みますよ。購入代金を渡します。五十人に頼んだら二十箱✕五十人で千箱分ですよ。これでベックオフの倉庫を圧迫できます』

 圧迫するだけじゃない。買い取り作業には人手が必要になる。駿可屋はCDを詰めてお客様に発送するだけだが、ベックオフは一品一品、検品しなくてはならない。商品ごとに買取価格を伝えるのをウリにしているようだからな。

 だが、そのシステムも今では相当な負担。

 検品にかかる時間はあまりに膨大。人手がかかるということは人件費にもダメージを与えることができる。

 貴殿野郎、なにげなく言ったのかもしれないが、確実に敵の急所を突いている。すげぇ作戦だ。

「ありがとうございます。スルガニャンも喜びます。では、よろしくお願いします」

 それからは黒田さんやクロガネ君以外でも、協力してくれる人たちが多数名乗りでてくれた。

 これが駿可屋の力だ。資本金や売上だけが会社の力ではない。

 お客様こそ、駿可屋の財産。力なのだ!

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