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スルガニャン物語2  作者: サイコー君
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スルガニャン物語2(1)

  あらすじ


 涼野守(サイコー君)は駿可屋の採用面接に合格し、スルガニャンたちと共に駿可屋で働くことになった。



第一章 スルガニャン人気ありすぎ


  1 パクリ疑惑


 クロガネ君にクロガネのサントラCDをプレゼントして半年がたった。

 今、俺とスルガニャンは東京に来ている。ある会社を訪問するためだった。

 二人はそこで応接間へ案内され、ピリピリした雰囲気の中、商品開発担当の黒田という男と議論している。

「あなたの会社、ウチのスルガニャンをパクりましたよね?」

「いえ、そんなことは……」

「シバニャンって思いっきりスルガニャンと被ってるじゃないですか。名前のゴロとか、猫とか。それにこの黒のサングラス! どう見たってこれはスルガニャンでしょう?」

 株式会社YOUKAI。ここは主に妖怪ペダルを製造・販売している自転車会社だ。

 自転車のペダルに妖怪のイラストを描くという斬新な方法で最近、急成長を遂げた会社である。

 その妖怪キャラのデザインがスルガニャンによく似ていた。

 柴猫のシバニャン。そもそも柴猫なんて存在するのか? 柴犬なら聞いたこともあるが。

「えー、ですから。これはただの偶然ですよ。たまたまデザインと名前が似ていた。そういうことだってあるでしょう」

 黒田という男は推定五十歳前後の男で、開発担当部長の役職に就いていた。

 白髪交じりで、ちょっと怖そうな感じの人。俺よりもガタイがいい。でも、そんなことで怖気づいたりしないぞ。

 スルガニャンがパクられたなんて大事件だ。このまま野放しにできるわけがなかった。

「……こんなこと言ってるよ。スルガニャン、この人になにか言ってあげてよ」

 俺の傍には黒のサングラスをした白い毛並みの猫が、おとなしく座っていた。その姿はあまりにも優雅。

 猫背のカーブはとても美しく、眺めているだけで幸せな気分になる。夢中になりすぎて時間が流れるのをついつい忘れてしまうほどだった。

 彼の名はスルガニャン。

 人間の言葉を話す猫。黒のサングラスをかけているのは目に光を直接浴びないためだ。それは悲しいことかな、事故の後遺症だった。

 そのサングラスが今やスルガニャンのトレードマークになっている。

「……サイコーくぅん。猫にサングラスをかけたから、おいらのパクリだなんて、やっぱり無理があるにゃ」

 不安そうなスルガニャンの頭を俺は撫でた。

「な、なにするにゃ? なんで頭撫でるんだにゃ?」

「それはね、スルガニャンがかわいいからだよ」

 そう言って、俺はスルガニャンの首をさわさわ撫でた。

「うにゃー、気持ちいいにゃ~」

 ソファにごろんとお腹を出して横になるスルガニャン。

 たまらん。今日のスルガニャンは甘えてくるな。人に見られてもいい。触れ、スルガニャンのお腹を触ってやれ!

「うにゃ、にゃはははははっ!」

「しゃ、しゃべった? ……猫が」

 目を丸くするのは黒田という男。

 俺は試していた。彼がスルガニャンを知っているのかどうかを。

 彼がスルガニャンを知っていたら、(スルガニャンのキャラクターを)パクッた可能性は高い。知らなければ可能性は低い。

 ただ、そのまま聞いてもすっとぼけるおそれがあった。だから俺は試しているのだ。

 スルガニャンを知っていたらどこかでボロが出るはずだ。

「本物のスルガニャンですよ。触りたいですか?」

「うっ! ……スルガニャン」

「今、スルガニャンって言いましたよね? やっぱり知っていますね、スルガニャンを」

「いや、知らない。君が言ったんじゃないか。スルガニャンって」

「スルガニャンは耳の後ろを刺激すると喜ぶんですよ。そのときに出す甘い声を聞くと勃起もんですよ。聞きたいですか? ……いいや、聞かしません。スルガニャンを知らないのならそんなこと興味はないですよね?」

「うっ、くくっ……」

 男は苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。

 バレていないと思ってるのか? お前はスルガニャンに熱い視線を向けている。興味がないなんてことはあり得ないんだよ。

「うにゃ~ん、うにゃ~ん」

 ふふ、相変わらずかわいいね。スルガニャン。

「――ハッ。え、えっと……とにかく! 我々はスルガニャンという猫をパクッていない! 話は以上でよろしいですかな?」

 こいつ、素直に認めればスルガニャンの頭を一回ぐらい撫でさせてやろうと思ったのに……。

 まあいい。俺には一つ秘策があった。

「わかりましたよ、黒田さん。あなたはスルガニャンを知らない。そうですね? だとしたらパクるなんて、とてもできない行為だ。だってそもそも知らないんだから。でしょ?」

「その通りだ。わたしは忙しいのだよ。そろそろお引き取り願いましょうか」

「では一つだけ答えてもらえませんか? あなたは駿可屋というネットショップを知っていますか?」

「もちろん知っ……いや、知らない。なんだ、それは? 和菓子屋か?」

「知らない? なるほど。わかりました。では……ハンパにゃい?」

「え?」

「続きを言って下さい。二の句ですよ。言葉遊びです。ハンパにゃい……」

「か、買取力? ……し、しまったぁっ!!!!」

 墓穴を掘ったな。やはりこの黒田という男、駿可屋を! スルガニャンを知っていた!

「これはどういうことなんでしょうねぇ、黒田さん……。まさか『ハンパにゃい買取力』という駿可屋の有名なフレーズを、たまたま思いついたなんて言うんじゃないでしょうね?」

「ひ、卑怯だぞ。これは誘導尋問だっ!」

「そうですよ。誘導したんですよ。これだともうスルガニャンをパクッたと認めているようなものですよ。そろそろ白状して下さい。あなたの会社でデザインしたとされている柴猫のシバニャンは、スルガニャンをパクったものですね?」

 男はついに観念したようだ。

 肩をガックリと落とし、俯いたまま呟き始めた。

「仕方なかったんだ。ウチの会社にもスルガニャンにような人気マスコットキャラクターが欲しかった。手っ取り早いのがパクることだった。本当に申し訳ない」

「反省しているんですね? ダメですよ。いくらかわいいからと言っても、スルガニャンは駿可屋の公式キャラクターなんです。本人も実在するんですから」

「あの、その猫は本当にスルガニャンですか? まさか本当にいたなんて……」

「本物です。……スルガニャン、お尻の傷を黒田さんに見せてあげて」

「んにゃ」

 スルガニャンは体をくねらせ、そのラブリーなお尻を黒田さんに見せた。

「お、おぉっ……! その傷、まさにスルガニャン!」

「あなたもかなりの通ですね。相当なファンじゃないと、なぜお尻の傷を見せたのかわからないはずなのに」

「この際です。白状しますが、わたしはスルガニャンの大ファンでね……あ、ちょっと待っていて下さい。……安心して下さい。逃げようなんて思ってませんから」

 黒田さんが部屋を出て、すぐにまた戻ってきた。

 その手にはスルガニャンぬいぐるみが抱えられている。

「わたしも駿可屋のサイトでスルガニャンぬいぐるみを買いました。毎日これを抱いて寝ています」

 黒田さんはスルガニャンぬいぐるみの頭を大切そうに撫でていた。よっぽど好きなんだろう。

「そんなに溺愛していたら家族の人が嫉妬するでしょう?」

「いえ、妻も娘もスルガニャンの大ファンなんです。家にはスルガニャングッズが三十点以上ありますよ」

 筋金入りだな、この人は。

 でも安心した。金銭目当てにスルガニャンをパクッたわけではない。純粋にスルガニャンが好きだからパクッたといったところか。

「それでわたしの処罰は? 賠償金はおいくら支払えばよろしいでしょうか? できれば裁判沙汰は勘弁してもらえませんか?」

「処罰だなんてとんでもない。俺たちは確認したかっただけですよ、黒田さん。あなたはいい人のようだ。シバニャンのキャラページの説明に『スルガニャンをイメージしました』と、ちょっと足しておいて下さい。それだけで十分です。賠償金なんてとんでもない。そんなものいりません。あなたも駿可屋のお客様です。駿可屋はお客様を第一に優先するショップです」

 俺がそう言うと黒田さんの目から涙がポロポロと流れた。

「すみません、本当にすみません!」

 これで一件落着だな。さて帰るとするか。

 用件が済んだので俺とスルガニャンはここから去ろうとした。そんな中、黒田さんが駆け寄る。

「なにか……?」

「図々しいことを言っているのは百も承知です。後生です! 生スルガニャンの頭を撫でさせていただけないでしょうかっ?」

 黒田さんは土下座していた。スルガニャンをどれだけ愛しているのかがわかる。

「スルガニャン……」

 俺は目で合図を送る。触らせてあげなよ、と。

「んにゃっ」

 スルガニャンが黒田さんの傍に寄った。

「なんという幸せ! これがスルガニャン。生のスルガニャンっ!! ハハハッ!!」

 黒田さんはさらに図々しく、スルガニャンのサインをねだってきた。

 こいつ、遠慮ってもんを知らねぇな。

 てっきりどこにでもある色紙を持ってきたのかと思った。でも黒田さんが持ってきたのは『ハンパにゃい買取力』のチラシだった。

「これ、持っていたんですか? このチラシ、一万五千枚しか作っていない。相当レアなものですよ」

「そうです。妖怪メダルの高価買取……ですが、このチラシが配布されてすぐに高価買取はなくなった。伝説のチラシですよ」

 配布期間は約一週間。よほど運がいいか駿可屋のヘビーユーザーでないと、このチラシを手にすることはない。

「いや、驚きましたよ。まさかここでこのチラシを見ることになるとは」

「妖怪メダルの高価買取はなくなったんですね? どれでも百円買取保証は確かにハンパではなかった」

「日本国内から想像以上の妖怪メダルが集まりました。少々、経営を圧迫しましたよ。お客様の笑顔が見たくて始めたこの取り組みですが、さすがにサービスしすぎたようです」

「駿可屋さんらしいですね。あの、もしかして涼野さん。あなた……?」

「えぇ、サイコー君ですよ」

「サイコー君?? まさか、あの? 『駿可屋がマジで最高!』のサイコー君?」

「そうです。顔は一度も出したことがないのですが……わかっちゃいましたか?」

「わかりますとも。そのスルガニャンとぴったり息が合ったやり取り。駿可屋の知識。どこをどう見てもサイコー君です」

「はは、そう言われると照れますね」

「しかし、あなたがいてなんでこんな……」

 さっきまで陽気に話していた黒田さんだったが、急に表情を曇らせた。

「黒田さん? なにか気になることでも?」

「『ハンパにゃい買取力』……確かにハンパじゃないですよね。買取金額が〇円なんですから」

 買取金額が〇円?

 はぁ? なにを言っているんだ、この人。

 駿可屋の買取力はマジでハンパない。それは俺が駿可屋に入社する以前からだ。

 買取金額が〇円だと? そんなバカな話があるか。

「なに言ってるんだ、あんた? 駿可屋で買取金額が〇円のはずがないだろう。なに言ってんだ?」

「まさかご存知ない? スルガニャンも?」

 スルガニャンは首を横に振る。

 ご存知ないっていうか、買取〇円とかないから。そんな店じゃないから。

 駿可屋を侮辱されたみたいで俺は腹が立った。それはスルガニャンも同じことだろう。

「もう一度聞きますよ? 駿可屋で買取金額が〇円だと言われた……そうですね?」

「はい。会社ではなく、わたし個人が買取申し込みをしたんです。申し込む前に買取金額を検索しました」

 あんしん買取か。あんしん買取は駿可屋が誇るお客様に大好評のシステムだ。

「検索したのですが、そこに表示されたのは〇円……〇円、〇円、〇円。ほぼ、すべてが〇円でした」

 そんなことあるわけがない。海岸に落ちていた貝殻でさえ、十円で買い取るほどの店だぜ、駿可屋は。なめんなよ。

「あなた、そのとき寝起きでしたか?」

「は?」

「だから、寝起きでしたか? きっと目が霞んでいて、十円とか百円が〇円に見えたんでしょう。そうとしか考えられない」

「……そこまで仰るのならいいでしょう。ご自分の目で確かめてはいかがですか?」

 なんだその自信は? こちとら駿可屋の社員だ。

 吠え面をかくなよ、なんて一生使わない言葉だと思っていた。でも今の心境がまさにこれ。

 俺はこの男の目の前で証拠を突きつけるつもりだった。

「駿可屋サイト、駿可屋サイト……ん?」

 買取の検索ページで試しに『天地無用!』と入力してみた。そしたら……。

「な、なんだこれ? 〇円? どういうことだ?」

 あり得ないよ、こんなの……。まるで悪夢でも見ているようだ。

 買取不可じゃない。〇円買取!

 似ているようだが微妙にニュアンスが違った。買取不可よりずっとせこい気がする。

「待てよ、ほとんど〇円じゃねぇか。LDだったらまだわからんこともないが、CDが〇円って……そんな」

「サイコー君? マジで言ってるのかにゃ?」

 スルガニャンが俺の右肩に跳び乗った。顔をケータイの画面に近づける。

「にゃ、にゃんだこれは?」

 俺とスルガニャンにはまるで心当たりがない。……いや、わずかにあった。

 スルガニャンには娘と息子がいる。梨本塔子さんと由宇君だ。

 二人は優秀だった。まだ二十二歳と二十歳だったが、なんでもそつなくこなした。

 これまで駿可屋の運営は主にこの二人に任せていたのだ。……が、スルガニャンの奥方――スルガニャル子さんが現れて、二人は大学に進学した。

 これまで駿可屋の運営で二人を縛っていた。

 スルガニャル子さんが駿可屋で働くことになったので、二人にはそれぞれ自由な時間過ごしてもらうことにした。そういうわけで二人は数年の間、駿可屋の運営から手を引くことになった。

 二人はそれぞれ地方の大学に一人暮らししていて、当分駿可屋には帰ってこない。

 俺とスルガニャンは東京に来る前に、高知県に寄っていた。

 ここのゆるキャラであるカツオにゃんこが、これまたスルガニャンのパクリではないかと疑問に思ったので調査しに行ったところだ。

 二〇一一年に作られたキャラのようだが、駿可屋の歴史のほうがずっと古い。スルガニャンがモデルになったのは明白だった。

 高知県に行ったついでに、つい観光してしまった。だって高知県って言ったら坂本龍馬じゃん。スルガニャンといろんなとこ巡り歩きしたいよ。

 その期間は三週間だったかな。で、東京に来てからもスルガニャンとアキバに行ったりとちゃっかり旅行を楽しんだ。まあ、俺から言わせればほとんどデートだ。

 トータル一か月。その間、駿可屋は俺もスルガニャンもいなかった。

 主にスルガニャル子と貴殿野郎に駿可屋の運営を任せた。

 買取金額が〇円表示される原因はこの二人にあるのかもしれない。すぐにでも静岡に戻ろう。

「行くよ、スルガニャン。……黒田さん、すみませんでした。理由はわかりませんが、買取金額が〇円表示されるのは事実。もちろんそういう意味での『ハンパにゃい買取力』ではありません」

「わかっていますとも。あなたたちはすぐに駿可屋に戻るのです。そして本当の意味での『ハンパにゃい買取力』にして下さい。期待しています」

 そして黒田さんが右手を差し出した。握手か……なんだ? スルガニャンと握手?

 最後まで図々しかったな、この人は。

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