第5話 講習会
レイが門に着く頃には既に8人ほど集まっていた。その内しっかりした防具を身に付けた者が2人。
「よし、これで全員だな。皆集まってくれ!」
整った装備の者のうちの男が集合をかける。
「今日からお前達ひよっこの面倒をみるゲイルだ。で、こいつがシア」
「こいつって言うな屑。私もお前らの面倒をみるシアだ」
どうやら2人は教官だったらしい。ゲイルといった男は角刈りの金髪によく焼けた逆三角形の筋肉マンで、シアと言った女はゲイルとは対照的に水色の髪を肩甲骨程まで伸ばしておりスレンダー美女だ。ちなみにゲイルはゴツい体つきに似合わず優しそうなタレ目である。
教官2人を除くと今回講習会に参加するEランク冒険者はレイ自身を含めて7人である。
「お前たちは2つの班に別れてもらう。その班で講習期間は過ごすから仲良くやってくれ!俺がつく班はーー」
講習会はこの7人を分け、そのできた班に教官が一人つくという計画であるといった。そして、班はレイがいる方にレイ含め3人。他方は4人となっている。レイの班はゲイルが面倒をみるらしい。
「これから西にあるすぐ近くの林で野営をしつつ、サバイバル生活をしてもらう!全ての経験が冒険者には欠かせないものだ!絶対身に付けろ!」
ゲイル班はメンバー同士の自己紹介も無いまま出発し、10分ほど経つと林に着く。
この林はレイが初めての依頼でクスラ草の採取に来た林である。当時は鬼気を全く纏っていなかったので街から林まで20分ほどかかったが、今では常に軽く鬼気を纏っているので10分短縮したところで何てこともない。
ちなみに普通のEランク冒険者であるレイとゲイル以外は少し息が上がってしまっている。
林に入り更に10分ほど経ち、ゲイルが立ち止まる。
「ここら辺か。今日からここで野営をする!」
少しだけ木が疎らなところで野営をするらしい。レイ達は初めての野営ということもあり、午前中でありながらゆっくり準備をするらしい。明日からは、午前中と午後の早い時間は様々な訓練をし、夕方あたりからその日の野営の準備をする予定とのこと。
「そこの2人はテントを張ってくれ。お前は俺と一緒に飯の準備だ、ついて来い」
レイはゲイルと一緒に行動、彼ら以外はテントを張るために行動を開始する。一人は30代後半の男性で、もう一人はレイと同じくらいの10代の少女である。この二人は知り合いの様なので、別れて行動する際にこの分けかたになったのも恐らく要因である。
「お前の名前は?」
「レイです」
「レイか……よし。ところでレイ、狩りはしたことがあるか?」
飯の準備と言っていたので料理をするのかと思っていたレイだったが、野営地から離れていき、狩りの話が出たので飯の準備は食料調達から始まるのかと心のなかで嘆息を吐く。
レイは依頼で何度もここの林を訪れていたが、狩りの依頼は受けたことを無かったので、もちろん日本でも無いため狩りの経験は皆無である。
このゲイルという男はランクCの冒険者である。Cランクとは熟練の冒険者の部類である。故にガーランでは筆頭冒険者であり腕がたつ者である。
「じゃあ、丁度いい。狩りの仕方も覚えておけ!まあ、剣で斬ればいいだけなんだがな!………」
「ど、どうしました?」
「……お前の武器はその背中の剣か?」
「はい。?」
小柄な身の丈に合わない大剣を使っている姿が想像つかないのか、「まさかねぇ?」と言ったように訊くゲイル。大剣はC,Dランク冒険者の中でもかなり膂力があるものが使う得物である。
「それ、本当に使えるのか?」
「はい、全然問題ないですよ」
レイはそう言って鞘から剣を抜く。
「っ!」
体に鬼気をさらに纏い、大上段に構えた剣を一気に降り下ろす。
するとあり得ない轟音と共に突風に近い風がゲイルに向かう。
「…………………まあ、合格」
ゲイルのこの判断は一応正しい。轟音と風が出たのは剣筋が甘かったからである。剣筋が甘いためきちんと刃を立てることが出来ず剣の腹で団扇の様になったという欠点をゲイルは驚きながらも正しい判断をしていた。しかし、鬼気を纏ったレイの膂力はやはり尋常ではないことは確かであった。
「でも、今回は大剣の出番は少ないかもしれんな」
叢の中に隠れながら進むこと数分。兎を見つけると、ゲイルが小さな手首だけの動作で何かを投げる。
「わあ!すごいすっね、一撃ですよ!」
「そうか?」
兎に近づいて確認すると、首筋に1本の投げナイフが根元まで刺さっていた。
大剣の出番が少ないと言ったのは、剣筋の甘いレイの技術では兎程度の小動物をミンチにしかねないということが理由である。