第4話 休日と冒険者
「じゃあ、これが新しいギルドカードよ」
「おおっ!」
こっちに来てから約2ヵ月たった。最初の1週間程は独りで採取依頼や雑用をこなしてその日必要な分だけ稼いでいた。その後は、エルと一緒に依頼を受けた。そんな生活が続きレイは遂にFランク冒険者となった。
ちなみに、エルはレイと出会ったときからEランクだったが戦闘が主体になってくるDランクには戦闘技術を身に付けてからということで、自ら昇格を辞退していた。
「なあ。そろそろ武器が欲しいな」
「なら帰りに武器と防具買いに行く?」
「だな。ってそう言えば、何でエルはEランクなのに武器持ってないんだ?」
「僕は戦士より魔法使いになりたいんだ。だからーー」
エルは冒険者でお金を稼ぎ、そのお金で魔法習得に使うと言う。魔法習得は魔法や剣の技術向上のために設立された施設で出来る。ちなみに、ガーランはリミア王国に属している。そして、リミア王国のバロディアにあるリミア王国立傭兵育成学園で魔法の習得が出来る。
二階建で一階が武器屋、二階が防具屋となってる建物の前に着く。
中に入ると壁にハルバードや大剣、槍などの大きな武器が掛けられており、商品棚にはメイスや細剣、短槍が置いてある。
「いらっしゃいっ!って子供かよ。坊主にはまだここは早いぞ」
店に入った途端、店員にお子様扱いをされる。レイとエル。レイは身長160cm程の黒目黒髪の日本人顔で、エルは身長155cm程と小柄で童顔系美少年なので店員の判断も強ち間違いではない。
「僕じゃなくてレイさんが買うんだよ」
坊主と言われたのがエルは自分だけだと思い、レイが買いに来たと告げる。
「いや、こいつも子供だろ」
「………。あれをくれ」
エルと店員の問答の最中、自分は関係ないとばかりに商品を物色し、壁に掛けてある大剣を指す。
レイは敬語で話す相手かどうか無意識に判断しており、どうやらこの店員は対象にはならなかったらしい。
「だから、お前もまだ早いって言ってるんだよ!」
「気にしなくてもいいから。なにせ俺は冒険者だからなっ!」
ギルドカードを紋所の様に店員の顔の前に押し付けてドヤァってなるレイ。
「はあ。………何かお前と会話が成立しないな」
「?まあいいから、あれ取って」
店員の言っている意味が分からず首を一瞬傾げるが、直ぐに目線は大剣へ。
「はいはい。もう何言っても無駄なんだろうよ……」
「分かれば宜しい」
呆れ諦めた店員と一言多いレイ。
店員に大剣を取ってもらい渡されると思いの外重く落としそうになる。
「おいおい、流石にそれは無理だろ。闘うとなると大人でも厳しいんだぞ。って、は!?」
落としそうになっていたレイは体に鬼気を纏い体を強化し、大剣を片手でブォンブォンと振る。その姿に驚く店員は目玉が飛び出そうなほど目を見開いていた。
「これ、決まりだな。これ下さい。」
「…………………銀貨50枚」
少し放心状態で会計する店員。ちなみにこの世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の4種で成り立っている。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚。金貨100枚で白金貨1枚となっている。一般家庭で一人あたりの食費は銀貨1枚で収まる。つまり、この大剣は初心者が持つには高価である。
大剣の鞘を背中に付けクルクル回りはしゃぎなから、防具屋のある二階へ上っていく。
二階の防具屋はフルプレートの様々な鎧が壁に掛けてあり、革鎧や単品の部分鎧が棚に置いてある。
「いらっしゃいませ」
先程の武器屋の店員とは違い、防具屋の店員は落ち着いていて商品を選ぶ客の質問に答えられるように客の近くに立っている。かといって邪魔にはならないように絶妙な距離を保っている。
防具はこれといって欲しいものが無いのか意味もなく物色していると、その様子に気付いた店員に声をかけられる。
「お決まりでないのですか?」
「あ、はい。何が良いのか分からなくて」
「そうですか。ではお客様の戦闘スタイルを教えて頂けないでしょうか」
「結構動く方だと思います」
「では、頑丈で軽くかつ伸縮性のある革鎧が良いでしょう」
自分の戦闘スタイルに合わせた防具を選んでくれる店員は武器屋の店員とは違うなと感心するレイ。
エルは店員の言葉使いが貴族などの上級身分の様だと感心する。
実はこの店員はかつて貴族などを相手に商売をしていたらしい。
「具合はいかがですか?」
胴だけの革鎧を着けて問題なしと頷くレイ。それを見た店員は手早く会計を済ませる。革鎧は銀貨8枚で購入。
革鎧と大剣を身に付けたまま店の外に出ると、レイを見た通行人が苦笑いを浮かべる。レイの格好は身の丈に合わない大剣を背負った新人冒険者とい不恰好な様である。
そんな通行人を全く気にしないレイはやっと冒険者らしくなってきたと顔が綻んでいる。
「レイさんそろそろご飯にしよう」
「そうだな。丁度いい、あの店にするか」
白を基調とした壁紙に水色のテーブルクロスが掛けてる清潔感の漂う店に入る。
「おや?デートかな?」
「?」
店に入ると割とおばさんとは言ってはいけない微妙な年齢の女性店員に声をかけられる。
確かにエルは顔立ちが少し中性的だけど、勝手にホモにはしないで欲しいなぁ。男も試してみれば意外と良いものだとネットで見たことはあったがやっぱりパイオツは欠かせないよな。
レイが下らないことを考えていると、案内された席に着く。レイとエルはパスタの様なものを頼む。
エルが女じゃないなんて簡単なことなのに何故分からない奴がいるんだよ。ホント。ほら、エルはパイオツが無いだろ?エルの年齢は大体14歳といったところだろ。その年齢になったら女ならある程度出てくるじゃないか。パイオツ無い=男。この方程式簡単。
「レイさん。何か失礼なこと考えてない?」
「い、いや?」
まさか男のエルのパイオツについて考えてるとは言えないレイ。
うおぉぉう!何か焦ったー!まあ、でもエルが男とは確認してないから女って可能性もあるかも知れないな。もし、エルが女だったらって考えるとーーー。
レイはその日エルが女だったらどうするかと寝るまで妄想するのであった。
翌朝、ミリアに挨拶をしてギルドに向かう。
「レイ君、ちょっと連絡があるからこっち来て」
「え?あ、はい」
ギルドに入ると直ぐにロレーヌに呼ばれカウンターに向かう。
「明日からEランクの講習があるから予定開けといてね」
「何ですか?これ」
「初心者講習会みたいなもので野営の仕方など冒険者のノウハウを教えて貰えるっていうやつ」
「何日間あるんですか?」
「期間は3日間~4日間といったところね。ちなみに強制参加だから遅れないように注意してね」
「は~い」
明日からある講習ではEランクから依頼に戦闘が入ってくるので、戦闘訓練などを指導してくれるらしい。