第2話 ガーラン
少し日が傾いて来た頃、林を抜けて草原に出ると遠くに街道が見えてきた。
ここに来るまでの道程でエルとは色々話した。あの小鬼は何なのか。魔界の住人なのか。何故リンチされていたのか。ガーランの町はどういう町なのか。と沢山尋ねた。
逆にエルからも質問された。何者なのか。どうしてそんなに強いのか。何でそんな格好をしているのか(意訳:変態なのか)。など話題は尽きなかった。
そんな中でレイは少し顔を暗くさせうつ向いた。
また因子に振り回されたんだよな……。因子が無ければ俺は背格好に見合う力しかない。理性を保ったままで因子の力を引き出す訓練をしないと、いつ味方にも危害を加えるか分からないな。
「ん?レイさんどうしたの?」
レイの表情に気付いたエルが背中から声をかけるが、聞こえてないのか反応しない。
因子の力はどんなときに露見したか。ーー生きようと願った時か?しかし、1回目とさっきの時は命の危機に晒されたわけじゃあないな。となると、憎しみという感情か?これなら、3回とも当てはまると思う。でも、そのーーー
「ーーーっつ!?」
「レイさーんっ!大丈夫ですか?急に黙りこんで」
耳元で大声を出されてやっと気付いたレイは自分が不自然に沈黙し続けていたことを理解する。
「あ、ああ。大丈夫。それで冒険者ってのは何なんだ?」
「冒険者っていうのはーーー」
自分のことは記憶喪失で目が覚めたらあそこにこの格好でいたと説明してあるので、因子について考えていたとは言えないので気を逸らすためにエルの職業である冒険者が何なのか質問する。
冒険者とは冒険者ギルドから斡旋された依頼をこなす仕事である。依頼は薬草などの採取依頼、魔物の討伐依頼から町の中での雑用までとある。もちろん、依頼には難易度が設定されており基準を満たすランクの冒険者しか受けられない。
ランクは下からF,E……A,Sまでと分けられている。ちなみにSランクの上はランク的には存在しないが、Sランクを凌駕するとギルドが判断した場合、称号が贈られる。これは規定で定められてはいないが称号持ちは絶対的な力を持つと理解される。
この話を聞いたレイはゲームみたいだ!とテンションが上がっていたが表情には出すまいと努力していたのでここだけの話である。
「エルは何で冒険者なんかやってるんだ?」
まだ子供と呼べるエルが命をかけた仕事を疑問に思ったからであった。
ちなみに、エルが小鬼ーーもといゴブリンに襲われていたのは薬草採取で林に深入りし過ぎたためであった。
「両親が2年前に盗賊に殺されて一人で生活してるんだ。そのためにも年齢制限がない冒険者がやり易かったってのが理由かな」
不味いことを聞いたか?と思ったがエルは全く悲しむ様子も無く吹っ切れていることがわかったのでホッと息をつくレイ。
などと話していると石の壁に囲まれたガーランの町が見えてくる。
「あれがガーランの町か」
「レイさん………。その格好で町の中を歩くのはあれだと思うんだ。……もしかして、やっぱり?」
「いや。好きでこの格好してないって言ったよね!?何で変態に仕立てあげようとするのかなー?服欲しいけど仕方ないじゃん!」
町が見えてきて嬉しくなりニヤついてしまったレイを町内で露出することを楽しみにしていると誤解したエルはそれは不味いんじゃないかなと思い遠回しに注意したのであった。
「じゃあ服はお礼に買ってあげるよ!」
「でもーー」
「命の恩人にこれじゃあ安すぎるかな………?」
「そう言う意味じゃなくて、冒険者やってるとは言ってもランク的にそんなに沢山稼ぎがあるわけじゃ無いんだろ」
「それはそうだけど。気にしないで!」
「そうか?……ならお言葉に甘えて。なにせ、無一文だからな!」
「……無一文は良いことじゃないよ」
やけに無一文だと胸を張って言うのでエルが呆れながら呟く。
たわいのない話をして街道を歩くこと約10分。ガーランの門にたどり着く。
「身分証を見せてください」
「え?あのー……。身分証を持っていないんですが……。」
番兵の一言にどうしようか困るレイ。
「すみませんが、身分証をお持ちでいない方は入れない規則になっているんです」
「レイさん冒険者になるんだったらここで作ればいいじゃん!」
レイが身分証すら持っていないことを完全に失念していたエルが慌ててフォロー。
「冒険者になるのですか。それでは、ギルドまで私に同行してください」
「レイさんがこんな格好なんで一刻も早く服を買いたいんですけどいいですか?」
「……そうですね。では、ギルドの向かいの服屋でならいいでしょう」
レイがほぼ全裸だということを改めて確認する番兵。
それから服屋ではポロシャツに近い服とジーパンのような服を買いその場で着て、冒険者ギルドにたどり着く。
「ほぇ〜〜……」
開けっ放しの扉をくぐるとそこは某モンスターをハントするゲームのようであった。扉から見て右手には1つあたり5人ほどつけるであろうテーブルが4つある酒場になっている。現在は夕方であるためか、依頼をこなし終えた冒険者十数人が疲れを癒している。そして酒場の反対側、左手には受付嬢がカウンターをはさんで座っている。どの受付嬢も美女、美少女といったようでレイが「目の保養だぁ!」と言ったが誰も気にしない。
おんぶされっぱなしのエルを酒場から借りてきた椅子に座らせる。エルは怪我を沢山しているが骨折など大きな怪我はなく、歩けない理由も捻挫ということであるので医者に見せるまでもないという。この世界には魔法も存在し、治癒魔術なるものも存在するが使える人が少数なためよほど命の危機なでない限りお目にかかれるものではないという。
「この者のギルドカードの作成をお願いしたい」
「?はい。ではこちらの用紙に氏名・年齢を記入してください」
番兵に連れられて来た少年を不思議に思った受付嬢だが、さすがプロというべきか一瞬だけ眉を歪めた顔をすぐに笑顔に戻す。この笑顔が見たいがためにギルドにくる冒険者もいるとのこと。
「レイ=トラギナ様。ギルドカードを作成しますので少々お待ちください」
と言うと受付嬢はレイの登録用紙を持ってカウンターの奥に進んでいった。
レイの年齢は身体年齢に合わせて記入してあるので一応15歳となっている。ちなみに元が40歳以上だった場合は『一応15歳となっている(笑)』となる。
「こちらがギルドカードです。現在のランクはFとなっています。ランクはーー」
受付嬢の話はエルに聞いた話とほぼ同じだった。Fランクは街中での雑用や採取依頼がほとんどで、ランク昇格にはランクごとに定められている規定数の依頼を連続で達成するということが新しくわかったことである。
出来たてのギルドカードを番兵に見せて確認してもらい問題なく開放される。確認が終わった番兵はスタスタと門に帰っていった。
「レイさん今日泊まるとこどうする?」
「エルはどっかに泊まっているならそこに泊まろうと思うんだけど、宿代払えないんだよなぁ〜」
宿代も払ってもらえないか暗に尋ねるレイ。
「ま、まぁ。いいよ僕が払うから。でも、僕も一週間ぐらいは依頼受けられないからこれ以上は僕にも厳しいよ」
「え?いいの!いやぁ悪いな!」
調子の良いレイだが、もちろんいつまでもエルのすねを齧っているつもりはなく明日から依頼を受けることは決めていた。
エルが泊まっている宿に向かう途中で改めて街の風景を見る。夕日に赤く染まる中世ヨーロッパ風の建物。綺麗な町並みに感嘆するレイ。
「エル!どうしたの!?」
宿に着きドアを開けると背負われているエルを心配し駆け寄っていくる少女。
「ちょっと、捻挫しちゃってさ。大した怪我じゃないよ。ミリア」
「体も傷だらけじゃない!何がちょっとよ!」
「僕はいいから。それよりもレイさんがここに泊まりたいってさ」
「あ、あ。すいません。一人部屋でいいですか?」
なぜかレイに気づかなかったミリアは慌てて謝り、空いている一人部屋にレイを連れて行く。レイの部屋はエルの向かいの部屋だとミリアは言っていたので、何かあればすぐに相談できるなとレイは修学旅行のような気分でいた。
その後レイは食事を摂り、タオルで体を拭き、異世界初日で色々あったため元の世界では就寝時間にはまだまだ早い時間に眠りについてしまう。
今回は1000字ほど多めです。