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旧)忌み子の願い  作者: あぽ
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第1話 異世界に来ました

「んっ………。」



 何だ?……妙に背中が痛い。随分と硬い所に寝ていたみたいだ。



 崖の上の岩に横たわっていた少年がピクリと動き、目を覚ます。



 そりゃ岩の上で寝ていたら体いたくなるよな。しかし何故こんなところに?……ああ、閻魔様との件か。



 何か納得いった様子の少年はフラりと立ち上がりピタッと動かなくなる。



 ………っっ!おいおい、何て所に転生させてるんだよっ!

危ねぇじゃねえか!危うく、即お陀仏だったぞ!



 青年の立つ岩は崖から少し出っ張っていてまるで飛び込み台の様になっている。 



 深呼吸をしておかげでやっと落ち着いたのか、辺りを見渡し自分の格好を観察する。



 えー……?ほぼ全裸じゃん。何してくれてんの閻魔様よぉ………。何だか体も若返ったのか?15、16歳といったところかな。う〜ん。どうして若返ったのか不明だな。もっと、説明して貰えばよかった…。



 少年の装備は装備らしきものは身につけていなかった。強いて言うならば腰にミニスカートのように巻かれた虎柄の布切れである。大王の鬼ジョークでこのようになったらしい。大王に悪意はないのである。少々、アホなだけだ。



 とりあえず人里を探そうか。さすがにこの格好もまずいし野宿は嫌だ。霧が薄らあって視界が悪いが足元に注意すれば問題ないだろう。よーし!異世界ライフ頑張るぞっ!!



 頬をたたいて気合を入れ、歩き出す。晴れていれば木陰に差し込む日光などが神秘的なこの林も霧がかかっているためか、ただ静寂が一体を包んでいるだけである。



 どれほど歩いただろうか。例の岩から2時間は歩き続け、ようやく林の終わりを感じさせるように木々の間隔が広くなってきた。

 その時である、少年の耳がガヤガヤとした静寂の中に微かに聞こえる音を拾ったのは。人がいるのではないかと思い嬉しくなり駆け出す。



 少年を待っていたのは、醜い小鬼達であった。タイミングの悪いことに、自分より1つ2つほど年下の少年を襲っている場面だった。少年は切り傷や痣だらけで地面を這うように逃げていた。十数匹の小鬼たちは逃がすまいと手に持つ武器を掲げ追う。



 俺はこの状況に既視感を感じた。と思ったら感情が昂ってきた。



 小鬼に向かい走り出す少年。小鬼から逃げる少年。真逆の様であった。



 手当たり次第に近くの小鬼を殴り飛ばす。拳にはゴリッという不快な感触があったが関係ない。次の獲物に目を向ける。目の合ったその小鬼は一瞬ビクっと体を震わせ固まる。これ幸いとその小鬼にアッパーをお見舞いする。小鬼の顎がちぎれて宙を舞う。

 締まらない口から大量の血を流している。その顔面に、アッパーで振り上げた腕を利用し肘鉄を食らわせる。右からやってきた小鬼には脇腹に回し蹴りを、左の小鬼には顎のない小鬼を投げつける。右の小鬼はくの字に曲がり地面と水平に吹き飛び直線上にいた小鬼たちを巻き込んで消える。左の小鬼も同様に仲間を巻き込み何本もの木にぶつかってやっと静止する。そんなことに構わず、さらなる小鬼に頭を鷲掴みにする。ぐっと力を込めた瞬間、小鬼の頭は熟れたトマトのように弾け飛ぶ。次に見えた小鬼の喉に貫手を決める。 

 そこでようやく、この少年には勝てないと悟った小鬼たちは散り散りに逃げ出す。少年は追うかとも考えたが、怪我をして弱っている少年のこともあり取りやめる。



 頭が冷えていく。昂ぶった感情が穏やかになっていく。自分でもわからなかった何で感情がこれほどまで昂ぶったのかと。



「……大丈夫か?」



 怪我を負った少年に安否を尋ねる。少年は何か驚いた様子だったがゆっくりと頷いた。

 この少年からしてみればどちらも鬼だったのだ。訳も分からない野性的な格好をした鬼と醜い小鬼の集団の戦闘に見えたのだ。しかし、鬼ではなく不思議な格好をした人間で自分の身をも案じてくれていたので驚いたのだった。



「お前はどこに住んでいるんだ?その怪我じゃあ歩くのも大変だろうし送っていくよ。」



 お人好しに見えるが、気持ちの半分ぐらいは人里に向かうためであった。



「…………。あの……助けてくれてありがとう。」


「ああ、気にすんな。何だか俺が許せなかっただけなんだ。」


 そう、あの既視感は自分の殺人の時に似ていたからである。しかも、諦めず地面を這いつくばってでも生きようとする様はまさにあの時の自分だった。

 生きようとして何が悪い?まだ、成人もしてないような彼の人生を何故終わらせようとする?こう思い奴らを許せなくなったのだ。



「僕、エル=ミシュワ。お兄さんの名前は?」



 日本人では無い名前である。しかし、見た目から判断してその様な気はしていたのだが…。透き通るエメラルドグリーン髪をショートカットしていて、宝石のような蒼色の目を持ち鼻はスっと綺麗に通っていて怪我がなければかなりの美少年だと容易にわかる。



「俺は、零………。レイ=トラギナ」



 日本にいた頃の名前、凪原零斗を言おうとして口ごもる。せっかく二度目の人生なんだと。今の俺は因子を制す者なんだと。そこで、生まれ変わったんだから名前も変えてしまえ。と思い自分の名前を組み替えて作った新しい名前だった。



「あっちの方向にあるガーランの町に帰るんだけど、……歩けないんだ…。」



「気にすんなって言っただろ。おんぶしてやるから乗りな。」



 とレイが言うと、その年齢でおんぶは恥ずかしいのか少し顔を赤らめながらのそのそとレイの背中に体を預けた。



「うしっ!出発!」



 レイは掛け声とともに、ガーランの町に向け足を進めた。






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