第9話 報告
更新、遅くなりました。
薄暗かった空も次第に明るくなり地面に日光が降り注ぎ、4人の冒険者を照らす。
「あぁ。疲れた」
「……」
「もう一戦は遠慮したいな」
「安心しろ!」
3人の冒険者は疲労困憊であることを口にする。二人目が言葉を発しているのかは微妙ではあるが……。
「何ですか?ゲイルさん」
「お前らは街に着き次第、解散で良いってことだ!」
「へ?報告をしに行かなきゃならないじゃ…」
ガーランに着いたらギルドへ報告と思っていたのである。
「この後は俺独りで行くが、後日詳細報告の為に呼び出す流れなると思うからな!」
「じゃあ今日行っても我々は必要ないってことだな」
目的地のガーランが見えてくる。門の前では列ができており、番兵が忙しなく手続きを行っている。
本日の受付開始から然程時間が経っていない為、夜と朝に到着した者が処理されず列を成している。
しかしゲイルは列に並ばず、番兵へと近付いて行く。
「列の最後尾にお並び下さい」
「ギルドへ緊急報告なんだ!先に済ませてくれないか?」
「緊急報告ですか……。お連れ様はどうなさいますか?」
「一緒に頼む!」
ギルドカードの確認だけなので、4人はさっさと門を通り街に入る。
冒険者は基本的に何処の街でも、ギルドカードの確認だけで入ることが出来るのである。
「お前ら、今日はお疲れ!解散だ!」
「お疲れ様です」
「……お疲れ様」
「お疲れ様だな」
全員が今日の疲れを労う言葉を掛け合って、それぞれの宿に帰ってゆく。
ゲイルはこの後もギルドへ報告に行く事となっている。
「ね、眠い」
現在レイは、睡魔と戦っている。ドロドロに汚れた服装の少年が身の丈程もある大剣を背負って、千鳥足で歩いている様は、不審と言うよりも奇怪と言うべきだろうか。
そんな少年に、一人の小柄な少年が近付いてくる。
「レイさん!一体どうしたの!?」
「んお?ああ、エルか。講習会の帰りなんだ。ちょっと色々あってな、中止になったんだわ」
「ちょっとって。怪我はないの?」
「ああ、……まあな」
ワーウルフに噛み付かれている為、怪我はしている筈なのだが、鬼気で再生能力が強化されて怪我はとっくに消えている。
エルの肩を借りて、宿に到着する。
「レイさ…って!?」
宿の戸を開けて入るとミリアがカウンターから声を掛けてくる。
「救急箱持ってきますね!」
「待って、怪我はないから大丈夫」
「へ?でも……」
あちこち千切れた服と傷だらけの革鎧の上から、ペタペタ触って怪我がないことを確認する。
「じゃあ俺はもう寝るよ。ここまで運んでもらって悪いな」
「いえいえ。あ、起きたら何があったか教えてよね」
「はーい、おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋に入ると汚れた服を脱いでベッドに倒れ込み、うつ伏せのまま寝息をたて始めてしまった。
エルにはあの様に言ったものの結局、その日は一度も目を覚ますことはなく、翌朝まで寝ていることとなる。
「くっ……筋肉痛…」
目を覚まして、起き上がると身体中が軋み痛みが走る。痛みに堪えながら洗濯済みの服に着替えて、朝食を摂るべく食堂へと向かう。
「あ、おはよう」
「おはようございます。えーと、ゲイルさんでしたっけ?その人が今日はギルドに来るようにと言ってましたよ」
ベーコンエッグとバケットの朝食を終えて、テーブルの横に掛けておいた大剣を背負って宿を出る。
革鎧はボロボロのままギルドへと向かう。
「お!来たな!」
レイが冒険者ギルドに入ると、既にレイ以外全員揃っていた。
「昨日のワーウルフ襲撃をギルドマスター報告するから、ついてきてくれ!」
と言うと入り口付近から奥へ進み、木造の階段を昇り2階へと上がる。2階は1本の廊下の両脇に部屋が配置されており、突き当たりにも扉がついている。
どの部屋の扉も頑丈で質素な造りになっていて、実用性重視といった冒険者ギルドらしさが出ている。
ゲイルは突き当たり部屋へと進んで行き、その後をレイ達がついて行く。扉に着くと、ゲイルが扉を4回ノックする。日本では通常ノック2回だったので、叩きすぎではないかと気になってしまうレイ。
因みに地球では本来、2回はトイレ。3回は親しい相手に。4回は敬意を払う相手にとなっている。恐らくこのシステムが異世界では普通なのだろう。
「入れ」
扉の向こうから重低音の渋い声が聞こえてくる。声で判断するならば、厳格な強面中年だろう。
ゲイルの後に続きギルドマスターの部屋へと入っていく。
部屋は然程広くなく、応接室兼ギルマス部屋となっており、ギルマスの書斎の前に長方形のテーブルと4人掛けのソファーが2脚置いてある。
しかし、どの家具も装飾は殆んど無く物自体の性能を果たす為だけであることが見て取れる。
「私がガーランのギルドマスターをやっている、ヴァインズだ。そうだな、適当に座ってくれ」
ヴァインズはその声によく似合う容姿で、顔の皺や古傷がさらに渋さを引き立てている。背格好は約190cmの背丈に、50歳程に見えるが体はその歳に見合わない筋肉質な肉付きをしている。
レイ達はヴァインズの声に従いソファーに腰を下ろす。
「昨日ゲイルから大方話は聞いているが、闘っていた時の事など詳しくお前達に訊きたい。何せワーウルフがそれほどまでの集団で行動している事は、今まで一度も耳にしたことがないから、今後の為にもな」
「先ずレイ!何か気付いたことはないか?」
「え?いや、気付いたことって言われても……。あ、そう言えば最後逃げていきましたよ」
急に話を振られて困っていたが、記憶に残ったこと言っていくことにしたレイ。
ワーウルフが逃げていったと言う情報は別にこれと言った特別な事でもないのだか……。
「逃げていったか……。それはおかしいな。ワーウルフは一応低ランクの魔物だから、頭脳的に撤退を選ぶことは考えられない筈なのだが……」
ワーウルフの連携は本能的なものであり、思考された行動ではない為、合図などの動作もいらない。しかし、あの撤退は意図的なものであり、遠吠えと言う合図があった。つまり、低ランクの魔物としての領域を越えているのだ。
ヴァインズはレイ達に、他に何か気付いたことはないかと訊いては、メモを取って資料を参照しつつレポートを作ると言う作業を3時間以上続けるのであった。