プロローグ
忌み子―不吉と避けられる人として生を受けた者。
少し前に目隠しによって視界を奪われた。
今、俺は絞首台の上に居る。
何故、分かるかって?
人を殺めたら法治国家の裁きを受けるだろ。
そう、俺は殺人をし裁きを受ける。
首に縄が掛けられた。床が消える。
重力に従い体が落下する。首に縄が食い込む。
視界が暗転した――………。
斑に広がる獄炎。殺伐とした荒野。
赤黒い焦土。漂う地獄の様な空気。
此処は地獄ではない、煉獄と呼ばれる域。
地獄でもなく天国でもない中間。
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(困ったぞ…。いや……、うん。どうしろと?)
厳つい顔の眉を八の字に歪める。
この厳つい顔をした者は大王たる存在。
所謂、閻魔大王だ。
しかし、その威圧感も今は微塵も感じない。
冷や汗だらだらである。
(まさか、罪の原因が我だと……?)
まるで、悪戯をした子供が
どう言い訳しようかと焦っているようだ。
そこに、一人の青年が降り立つ。
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(ここはどこだ?まるで……、地獄だな。)
青年は辺りを見渡し
視線を前に向け眼を見開いた。
目線の先には閻魔大王が居たからである。
(なんだ…この圧迫感。威圧的ではないが存在が大きすぎるっ!?)
『我は審判を下す者、俗に言う閻魔大王だ。』
圧迫感の塊が口を開いた。
そして、青年は思った。
地獄に墜ちるのだと。罪を償い続けるのだと。
『お前は17人、人を殺めた。したがって、地獄行きだ。』
思っていた通りだった。もう、認めるしかない。
最終審判者に下されたのだ。
そこで、大王は何故か気まずそうな顔をして
後頭部をボリボリ掻いた。
『えーと……。今の嘘。』
(…………………………は?)
『まあ、混乱するのは後にして聞いてくれ。』
無理な話である。
大王の変貌ぶりと、前言撤回によって、
青年の頭の中は混乱だけが支配していた。
幼稚園児の俺は、自分が異質な存在だとまだ理解していなかった。
ある時、喧嘩をした。幼稚園児同士なら可愛いものである。
しかし、俺は異常だった。相手の肩を殴った途端、肩の骨は砕けた。
幼稚園児ではありえない膂力だった。
喧嘩の最中の俺の目は充血とは別に赤く染まり、
黒目は爬虫類のように縦長の楕円だった言う。
目と力が原因となり、本当に人間か怪しまれるようになった。
ここから、俺は影では忌み子として扱われるようになった。
忌み子とし扱われていることを理解した俺は
頭に血がのぼらないように気をつけて生活し続けた。
成人してもあの日以来、力も目も見せていなかった。
しかし、会社の帰り道で十数人の男女に遭った。
不良・ヤンキー・暴走族どの言葉が正しいか分からないが、
社会の秩序を乱すような存在であることは違いなかった。
集団は皆、鈍器や刃物を手にしていた。
そして、彼らの目は虚ろだった。
完全に薬毒中毒者であり、俺の身に害を為そうとしていた。
危険であると勝手に体が警鐘を鳴らしていた。
気がつけば体には刺し傷や殴られた痕、骨折だらけだった。
死にたくないと思った。俺はまだ若い、死にたくないと。
立ち上がれないはずの体が動く、力がみなぎる。
そう、あの日以来の忌み嫌われる力を使った。
次の瞬間には走り出し近くのやつにボディーブローを決めていた。
やはり異常だと実感した。
腹を穿っていたのだ。
次の獲物を見つけ顔面を殴った。
顔面は爆散した。
それから数分間走り殴り蹴り噛み付き食いちぎった。
昂ぶった感情が覚めていく。
目の前の風景は死屍累々たる状況だった。
明らかに防衛の為とはいえやりすぎであった。
しかし、自分の怪我の痕を見せれば
過剰防衛でもないはず、そう思った。
俺の体には怪我など一切なく返り血だけだった。
その後、俺は問答無用で逮捕され。
処刑に至った。
青年は考えていた。何故地獄行きではないのかと。
「では、天国行きですか?」
地獄or天国そう考えての発言だった。
『違う。お前の罪の原因は我が生み出した鬼によるものだった。
だから、お前の願いを叶えてやろうと思う。』
予想外の展開だった。
鬼の因子が青年の体にあり、圧倒的な力や再生力などは
すべて因子が原因だという。その因子の暴走により過剰な防衛に走ったらしい。
そう、ただ逃げればよかったのだ。しかし、因子が蹂躙を望んだ。
だから青年に罪はないし、何かで詫びたいと。
「じゃあ、因子を制御して生きたい。」
青年はそう言った。あの時の願い。生きたいということを。
そして役に立つであろう因子を制して。
大王は考えた。いかに因子を制御下におこうが、因子の力は絶大。
行使すれば、異常だとすぐに思われるだろうと。
『わかった。それで、手打ちならこちらとしても願ったり叶ったりだ。
しかし、元の世界には戻せない。
因子の力を認めてもらえる世界で生きてもらう。』
これは、あくまでも青年のためだと説明した。
青年もこれでいいと言った。
『悪いが我からも願いがある。聞いてくれぬか?』
青年は、黙って聞く。
『魔界の住人がその世界に姿を現している。奴らを狩ってほしい。』
どうやら、魔界の住人という奴らを倒せばいいらしい。
しかも、奴らを倒せば自分に何かしらのギフトがあるという。
鬼はそもそも奴らを倒すために作られた兵であり、
優秀な人材には特典があるという。
それは因子を持つ青年も例外ではないし、
その世界には鬼は派遣されていないらしく狩り放題だという。
「生きられるなら問題ない。」
『ありがとう。では、行ってもらうか。』
青年は大王の願いを引き受け、二度目の生を受けた。
読んでいただきありがとうございます。
初投稿させていただきました。語彙・語法の間違い、誤字脱字の報告をしていただけたら幸いです。
今後共よろしくお願いします。