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上映作品‐1 "サイレントスニーカー" #7

 前話よりも早く出すと言いながら、結局前話よりも遅くなってしまいましてどうも申し訳ありませんでした。

 理由についてはお察しの通り(?)、今年初めから"ヌ・カ・ニ・ク・ギ"にかかずらっていたためです。


 まぁいろいろありましたが、この度なんとか上映作品の7話目を投稿することができました。

 前話まで読まれた方もこれから読まれる方も、楽しんでいただければ幸いです。

 ユーゴーとの激闘から5ミニ(分)後、シャリアが勝利の興奮が覚めやらぬまま控え室に戻る。

 シャリアが控え室の扉を開けると、主人の帰りを察知していたのかクラインが部屋の真ん中に立っていて、彼が部屋に入ると慇懃(いんぎん)に頭を下げた。

「おめでとうございます、シャリア様。真に見事な試合でございました」

「ありがとう、クライン。だけどこれも僕を幼き頃から鍛えてくれ、他の世界を知るためとドラゴネストの道場にも通えるように父上を説得してくれたクラインの勝利でもあるんだ。だから今日は共に喜ぼうじゃないか」

 クラインからの祝いの言葉にシャリアは、老僕に対してというよりまるで家族に対するような笑顔で答えた。

「この私めの事をそのように仰っていただき、爺は今まであなた様をお育てさせていただいた中でこれほど嬉しく思った事はございません。それにこの勝利にはきっと殿下もお喜びになるでしょう」


「だといいけどね……」

 "殿下"という言葉にシャリアはわずかに顔を顰める。

 クラインとしては、息子であるシャリアが優勝したことに彼の父でありこの国の第1王子でもあるゴルディアスが喜ばないはずはないと思って言っただけなのだが、彼の表情にゴルディアスとの間に何か確執があるのかと思いそれ以上言わず話を変えた。

「まあ試合の後でお疲れでございましょう、汗を拭いてこれにお着替えくださいませ。汗に濡れたままだと風邪を引きかねませぬでな」

 そう言ってタオルと着替えを用意するクラインもまた、主従というよりは孫を気遣う祖父のような顔をしていた。

「ああ、そうだな、ありがとう」

 シャリアは幼いころから世話をしてくれている老僕とはいえ、心配させるようなことは言うべきではなかったと反省する。

 しかしそれを表に出すのはなんとなく恥ずかしかったので、彼の話に乗ることでごまかした。


「ん? これは……」

 タオルを持ってシャリアが脱ぐのを待っていたクラインが不意に訝しげに呟く。

「ん、どうした、クライン?」

 ユーゴーに勝ったことでずっと上機嫌であったシャリアだったが、クラインの呟きに軽く眉をひそめた。

「あの、試合中に打たれた場所以外で、お身体にどこか異常を感じたところなどはございませんでしょうか?」

「おいおい、ユーゴーと手加減なしで殴り合ったんだ、痛いところだらけだよ。でも、それ以外に別に異常を感じたところはないぞ。一体何がどうしたのだ?」

 クラインの問いに対してシャリアは、彼が何を言っているのか分からないというように聞き返す。

「いえ実は、試合での打撃の跡以外にいくつか指で突かれたような跡がございまして、私が見ていたところそのような攻撃は繰り出していなかったように思えましたので……」

 クラインはシャリアに訝しげな態度を取った理由について話すと同時に、控室の端にある姿見へシャリアを連れていく。

「なんだと……」

 シャリアが己の姿を見た瞬間、彼の顔から喜びの表情が消え去り姿見の前でしばし俯いていたが、やおらクラインへ振り向き彼の手からタオルをひったくるように取ると脱兎の如く控室を出て行った。


「ユーゴー!」

 ユーゴ-が控室で体をほぐしていると、いきなりドアが開いて怒りの表情をしたシャリアが入ってくる。

「ん? どうしたってんだ、そんな顔して?」

 シャリアとは結構付き合いの長いユーゴーだったが、今まで彼のそんな顔を見た事がなかったので一体何事かと驚いた。

「どうしたじゃないっ! お互い手加減はなしって言ったじゃないか! それなのに……」

 入ってくるなりシャリアは、自分の中にあるモヤモヤを全て吐き出すかのようにユーゴーへ言葉をぶつける。

「手加減なしって、おいおい何言ってんだ? 俺は手加減なんかしちゃいないぜ。そもそも俺にとってお前は手加減して勝てる相手じゃないしな」

 突然のことに半ば呆然としながらも反論するユーゴーだったが、言葉ではシャリアの怒りは収まらずユーゴーの前に立ち"これを見ろ"と言わんばかりに両腕を広げた。

「これでも白を切るって言うのか!?」

 両腕を広げたシャリアの体には、両手首・両肩・胃・肝臓の辺りを指で突いたくらいのあざが残っていて、それを見たユーゴーは一つ頷いてため息を突きつつ口を開く。

「ああ、それかぁ……。少し前に家の蔵で見つけた文献に書かれていた技でな、決まればほぼ一撃必殺になるみたいだってんで密かに練習してたんだ。それで型までは覚えたんで"闘技祭"で使おうしたんだが、あと一撃で完成のところをお前の一撃が先に入っちまったんだ。だから今回の試合は間違いなくお前の勝ちって事だよ」

「そうだったのか……。どうやらこちらの早とちりだったようだな、すまなかった。じゃ、また後でな」

 ユーゴーの言葉にシャリアはいまひとつ納得しきれていなかったようだったが、それ以上何も言わず控室を出て行った。

「ま、幾つも打撃痕が付いてるのに、痛みとか無いんじゃ勘違いされてもしょうがないか……」

 ユーゴーはそんなシャリアの背中を見つめつつ、独り言ちるのだった。





 その晩、シャリアの住んでいる屋敷にて、彼の優勝記念の祝勝パーティーが行われていた。

 当人としては偽名で出場していたこともあり、いつも世話をしてくれている使用人達への慰労も兼ねてささやかに主従のみで行うつもりだった。

 しかし彼を知り、なおかつ"闘技祭"で優勝したことを知る有力貴族から大量の贈り物が届けられたり、彼らの子女を名代として送り込んできたりと結局は"ささやか"とはいえない規模になっていた。

 しばらくして宴も終わり来客を送り出した後、シャリアは酔いをさますつもりで屋敷を壁沿いに裏の方へ歩いていく。

 そこを曲がれば屋敷の真裏という角に差し掛かったとき裏の方から人の声が聞こえ、シャリアは向こうに気付かれないよう壁に張り付いた。


 屋敷の真裏では男が二人、何かの作業をしながらひそひそと喋っていた。 

「おい、お前、あの方から何か仕事を頼まれたみたいだが、うまくやれたのか?」

「ああ、ゴルディアス様に頼まれたアレか?」

 片方の口から"ゴルディアス"の名が出た途端、もう片方が慌てて小声で鋭く叱責する。

「しっ! 声が大きい。それにあの方の名をみだりに口にするんじゃない!」

「……ああ、すまない。でもまぁうまくいったんじゃないか? 試合はシャリア様の勝ちで終わっているんだし。といっても俺がしたのは対戦相手に手紙を届けただけなんだがね」

 相手からの叱責に声を潜めて謝罪する男、その言葉尻に叱責した男は引っ掛かるものを感じそれを口にする。

「手紙? あの方からの用が手紙を渡すだけだったと? だがお前は見せた結果がどうなるか知っているではないか」

 言われた男は一瞬"あっ"という顔になり、すぐに真っ青な顔になってポツリポツリと話しはじめた。


「い、いや、別に見るつもりはなかったんだ。あの方の代理人から封書を受け取った後、出かける準備をするために一旦机の上に置いた。それでいざ行こうとした時、取ろうとして弾いてしまい机から落としてしまったんだ。そしたら封印が甘かったのか中から手紙が飛び出して……」

 手紙を見てしまった男の言い訳を片方の男は顔をしかめつつも黙って聞いていたが、言い訳が止まるとそこに続くように口を開く。

「それで封筒に戻す際に中身を見てしまった、というわけだな?」

「ああ……」

「それで、中には何と書いてあったんだ?」

「おいおい、いくらなんでもそれは言えないよ。ただでさえあの方の手紙を勝手に見る、なんてことをしてしまったんだ。これ以上言ったら俺の首が飛んじまうよぉ」

 話を聞いていた男は手紙の内容を知りたいようだったが、見てしまった男の必死の懇願にそれ以上は聞けなかった。が、しかし……。


『いや、僕は聞きたいぞ。ぜひ聞かせてくれないか』


 それほど大きくはないがここに居なかった第三者の声が響き、2人は慌ててキョロキョロと周りを見渡

すが誰も見当たらずパニックに陥りかけたその時。

「おいおい、どこを見ているんだ? 僕はここだぞ?」

 2度目の声が上がり、さすがに今度は2人とも声がした方向が分かったのか同じ場所へ目を向ける。

 そこには角から壁伝いに屋敷の表へと続く影が横たわっているだけだったが、2・3セト(秒)ほどすると影の中から白いもやのようなものが染み出るように浮かび上がった。

「「シャリア様!」」

 シャリアの姿を見た2人は先程よりも驚いた顔で一歩下がって横一列に並び、彼に向かって恐れ入りながらも(うやうや)しく頭を下げた。

「ああ、挨拶はいいよ。そんなことよりも、先程からお前達が話していた事を聞きたいね。ああ、あらかじめ言っておくけど、ここで話してくれるなら父上には報告せず罪にも問わないから安心してくれていい」

 シャリアの言葉に安心したのか、手紙を持っていった男は話せば自分の罪が軽くなるといわんばかりに捲し立てる。

 曰く、彼らはゴルディアスから派遣された使用人で、使用人の仕事以外にこちらでのシャリアの行動を定期的に報告する仕事も請け負っていること。ゴルディアスの代理人から手紙を受け取って対戦相手であるユーゴーに渡し、その場で読ませて返事をもらってくるということ。

「そして手紙の内容は、僕に勝ちを譲れ、ということだったな」

「はい、その通りでございます……」


 男の話を最後まで一言も挟まずいつもの笑顔で聞いていたシャリアだったが、不意に表情を消して手紙の男に問いかける。

「なるほどよく分かった、話してくれてありがとう。ところで一つ聞きたいのだが、手紙を読んだ彼はなんと答えたのかな?」

「はい、彼は手紙を読み終えると、すごく不機嫌そうにそれを封筒ごとビリビリに引きちぎりゴミ箱に捨てました。私は"あの方からの手紙になんてことするんだ"と思い抗議しようとしましたが、こちらがそれを言う前に"話はわかった、と伝えてくれ"と言われて控室から追い出されてしまいました。ですがこの国の人間なら、あの方からの話を断る者はまずいないでしょう」

「そうか……。ああ、仕事中に手を止めさせて済まなかったね。ここでの話はさっき言った通り、誰にも言わないと約束する。無論、父上や陛下にもね。それじゃ、おやすみ」

 男からユーゴーの返事を聞くと、シャリアはすぐにいつもの笑顔に戻り2人に軽く詫びると踵を返し再び影の中へと消えた。

「結局何だったんだ、一体?」

「さあな。だが、とりあえず首と胴がつながっただけでも良しとしようや」

「そうだな……」

「さあ、早いとこ片付けて屋敷に戻ろうぜ。なんだか話の途中から、背中が冷えてきやがったからよ」

「何だお前もか。実は俺もよ……」

「なら、尚更早く済まさなきゃな。風邪ひいて寝込んだ、なんてことになったらクビにされちまわぁ」

 シャリアが去った後、男2人は時折軽口を叩きつつ作業を済ませていった。





それから1マース(月)も経たない内に内戦が勃発する。


 元々は第2王子が王や元老院貴族、王都の有力貴族らが自らの権勢を拡大するために自領の民に重税を課せるなどの愚行をやめさせ、正道に立ち返らせるべく行動を起こしたのが切っ掛けだった。

 最初は対話で解決すべく王や貴族達に会談を求めたり、元老院の会議にも出席してその愚行を改めるよう促したが、結局は誰も耳を貸さず彼は孤立することになる。

 実はその辺については織り込み済みであり、彼はおそらくそうなるであろう事も予想していて、2・3イーズ(年)ほど前から準備をしてきた。

 その時に備えて第2王子は、中央との関係が薄く健全な施政を行っている地方領主(貴族)やたとえ中央貴族の寄子(よりこ)であってもそのやり方に不満を持っている貴族たちと手を結び、彼を旗頭とする"アルケリア正道連合"という名の抗議団体(万一に備えて武装もしている)を組織、それをもって王都内に進攻し王城に直接迫ることで、こちらの意見を受け入れさせようとしていたのだった。


 しかし王都へあと1日で着く辺りにて、王国軍の待ち伏せを受け戦闘に入る。

 それぞれの兵力は"連合"の5,000人に対し、王国軍はその倍の10,000人という規模で、さらに"連合"側はその半分が農民や鉱夫などの一般人であった。

 普通に考えれば相手が倍の兵力を持ちさらに一般人が半分以上という、誰が見ても王国側の圧勝になると思われた。

 しかし、こういった事に加担して捕まれば間違いなく死罪になること、うまくいけば自分達の家族や仲間を圧政から解放できるという事からか彼らの士気は高く、殆どが一般人と舐めてかかった王国軍はその勢いに押され戦況は圧勝どころか拮抗に近いところまで押されていく。


 実のところ、"連合"側が押していけたのにはもう一つ理由がある。

 "斥候術"が軍の教練に取り入れられる以前、その始祖たちは自分達を懐疑的に見ている国へのデモンストレーション代わりにまず国境近くで治安があまり良くない場所へ赴き、その地において治安を良くすると同時に地元民に斥候術(この場合は徒手格闘・棒術・杖術のみ)を教え民が自ら土地を守れるようにした。

 その流れで今でもその辺りでは、地元民の男性・女性にかかわらずほぼ全員が幼少の時分から習っており、有事の際は集落そのものが戦闘集団になり得た。


 さらに、この"連合"の進攻に合わせたかのように王都の上街区へ唯一繋がる下街区1番街において、裕福な商人宅を狙った民衆による焼き討ち事件が多数発生したり、ほぼ同じ時期に他の中央貴族に(おもね)る貴族の所領でも民衆による暴動が発生した。

 そのため王国のほぼ全域に戦火が拡大、軍もそれぞれに対応しきれず戦線が王都側へ押されてきた事により内戦は長期化の様相を見せていた。


 しかし当時の"連合"内において王都での焼き討ちや地方での武装蜂起は一切起こすつもりもなく、それらの事件が起こってしまった事に"連合"を指揮していた第2王子は、内戦に勝利し王となってからも自らの行いは正しかったのかと苦悩することになるがそれはさておき。




 内戦当時ユーゴーは王国軍の諜報・工作機関に属し一斥候チームのリーダーとして活動していて、サブリーダーには王族であることを隠して軍に入っているシャリアが付いていた。

 彼のチームは戦場が主に南方に集中していたにもかかわらず、他にいくつかあるチームと交代で東西国境に近い町へ内戦に乗じた隣国の侵攻を監視するという名目で派遣されていた。


 東の国境付近にはこの辺り一帯の水源でもある大河スタグナと豊かな穀倉地帯があるが、川幅があるために橋はなく、渡るための船と人員が兵員とは別に必要になるため通常の侵攻よりコストが非常に掛かる。

 また対岸の隣国イヴェスタにも川沿いに同じ様な穀倉地帯があり、しばらく豊作が続いていることからここからの侵攻はほぼないといえた。


 一方西側のクライドは山地が多いためアルケリアやイヴェスタのような穀倉地帯はなく、農地がないわけではないが国民全てに行き渡らせる分までは生産できず穀物類は主にアルケリアからの輸入に頼っている。そのため、過去に何度かアルケリアに侵攻したことがあった。

 しかし現在では山地からは良質な木材や多様な果実が、いくつかある鉱山では良質な鉱石が採れ、さらにそれ故か金属加工品についてはアルケリアより品質が良い。

 それらをアルケリアへ輸出しお互いに持ちつ持たれつのような関係になっているため、今では敢えて侵攻までする必要がなく、結局東西どちらにせよ現在配備されている国境警備隊で十分だった。


 ちなみに北は峻険な山脈が東西に長く延びていて街道も狭く険しいため、軍を通すには非常に危険が伴い、よほどのことがない限り北からの侵攻もほぼ無い。というより山脈の北にはわざわざ山を越えてまで侵攻するほど余裕のある、またはそこまでしないと国として危ういような国家がない、というのが実情ではあるが。

 あと南にもサウザポールという国はあるが、イヴェスタと同じように大河スタグナとその支流であるアッシュ川を国境線としていて、アッシュ川もスタグナほどではないが結構川幅があるためイヴェスタ同様その侵攻にはかなりのコストが掛かり、さらに現在サウザポールの南にある国と一触即発の状態にあるためアルケリアへ兵を派遣する余裕はない。

 つまりこの時点では、東西南北いずれの国にしてもアルケリアに侵攻してくることは無いと言えた。




 ある夜の事、西側の国境に接している町の一つボージェスにある警備隊詰所の一室にて。ちなみにもう一つは鉱山街のアイマンである。

「おい、ユーゴー。君はこんな所に追いやられてなんとも思わないのか!?」

「……別に、俺は追いやられているとは思っちゃねぇよ。俺達は軍人だ、上からの命令には従わにゃならんだろ?」

 部屋の窓際にある事務机に着いているユーゴーの向かい側にシャリアが立っていて、時折机を叩きつつ今回の派遣における不満をぶちまけていた。

「だからって、殆ど攻めて来る見込みのない隣国の監視なんて、(てい)のいい厄介払いじゃないか!」

「まぁ聞けよ、俺は今回の戦については実のところあまり参加する気はないんだ。俺はこの国に侵攻しようとする奴らとはとことんやる気だが、向こうが何に対して怒っているか解っている上に同国民だぞ、戦う気なんか出るものかよ。だからといって、面と向かって反対して反逆罪で捕まるのもバカらしいけどな。それにここまで内戦が拡大した以上、俺達みたいな小さな部隊が多少動いたところで戦局が変わるわけでもねぇしよ」

 シャリアの憤りの言葉にユーゴーは一瞬だけ彼の目を見るが、すぐに窓の外に目を向けやや投げやりに話す。

「しかし……」

「しかしもかかしもねぇよ。俺達は命令でここに来てんだ、向こうで何かあっても俺達の所為じゃねぇさ。……ん、ちょっと待て。誰か来る」

 なおも反論を続けようとするシャリアだったが、不意にユーゴーが彼の口を塞ごうとするかのように右手を上げ、シャリアも開こうとした口を閉じて部屋の扉に目を向けた。

 それから間もなく部屋の扉が激しくノックされ、ユーゴーが誰何する暇もなく勢いよく開く。そして何やら慌てた様子の兵士が入ってきた。


「隊長っ! あ、副長もいらしてましたか」

「"副長も"じゃないっ! 部屋に入るときは返事を待てといつも言っているだろうが!」

「失礼しました! 副長殿!」

 入ってきた兵士はシャリアの叱責に体を硬直させ顔を真っ青にして謝罪するがシャリアの怒りは収まらず、放っておけば酷い目に合わされそうな雰囲気になっていた。が、そこに。

「まぁ、その辺にしておけ、いつもの事だ。で、何だ、ヘイス? ずいぶん慌てているようだが……」

「は、報告します! サウリムから入感、大型の幌付き馬車が3台と騎兵4名が南西街道を北上、明日の今頃にはここボージェスに到達すると思われるとのことです」

 場の空気を無視するようなのんびりとしたユーゴーの一言に、ヘイスはホッとした表情を見せるもすぐに顔を引き締めユーゴーに報告した。

「それで、そいつらは何を運んでいるんだ?」

「サウリムの出口で監視していた者によると、中までは良く見えなかったが馬車の最後尾に武装した兵士が見えたとの事で、おそらく西回りで王都に侵入する部隊だろうと。規模はおそらく50人程度と思われます」

 報告を聞いたユーゴーはちらりとシャリアを見て彼が目だけで頷くのを見て取ると、ヘイスの方を向き口を開く。 


「よし、各員に伝令。1アズ(時間)後、詰所前に捕縛用装備で集合。あと伐採用の斧と鋸、それから爆薬20カラグル(kg)も用意しておけ」

 本来なら司令部に報告し指示を仰いでから動くのだが、ユーゴーは国境警備の任についているためそれに関することなら警備隊の権限として独自に動くことができた。

「了解しました!」

 ユーゴーからの指示に、ヘイスは敬礼もそこそこに彼らに背を向け走り出す。その後姿にシャリアがまたヘイスを叱責をしようとするが、ユーゴーが彼に向かって"もういい"といわんばかりに手を振りその口を閉じさせた。


 1アズ後、詰所前にユーゴーとシャリアが出てくると、先ほどのヘイスをはじめとして10名の兵士が装備を整えて横並びで彼らを待っていた。

「ようし、準備はできたか。皆も聞いているとは思うが、サウリムからクーデター側の部隊がここを通るという情報が入った。俺達はこれから彼らを捕縛するため、ここから南へ5カラ(リム・km)下ったところで罠を張る。捕縛の際には戦闘になる可能性が大だが、今回の目的はあくまで捕縛と言うことを忘れるな!」

『はっ!』

「では、出動!」

 隊員達の声に一つ頷くと、ユーゴーが先頭で駆け出す。しかしこの時、罠を張るために赴く地にて運命の落とし穴が待っている事に、神ならぬユーゴーが知る由もなかった。




 南西街道はアルケリア南部とクライドを結ぶ重要な街道で、南部域の北西に在る町サウリムから西側の国境の町であるボージェスに直結するためクライドとアルケリア南部を行き来する商人や旅行者がよく通る街道である。

 西側の国境は南北に伸びる山脈にその線を引き、その一部が谷のようになっている場所に国境の砦を兼ねてボージェスを築き、そこを隣国クライドとの貿易の拠点とした。


 しかし、当時アルケリア南部地域からクライドへ行く場合、国境線でもある山脈の東側にもいくつか山が平行するように連なっている山地があるため一度王都から出ている西街道を経由せねばならず、かなりの大回りとなっていた。

 そこで南部地域の領主達が資金を出し合い、足りない分は王都から借り受けて10イーズの歳月を費やし山を開き街道を完成させた。


 その道は2頭立て馬車が2台すれ違えるくらいの幅を持つが、高速化のためになるべく高低差を無くそうとした結果山肌を縫うような感じで蛇行してしまい、目論見通りの大型馬車による物資の高速輸送を行おうとすると事故が多発した。

 一時は街道の閉鎖も検討されたが、人が身一つで歩く分や1頭立ての馬車、大型の馬車でもゆっくり走ればそれほど事故も起きず、何よりクライドとの距離が格段に縮まったことでそのまま使われ現在に至る。




 ユーゴー達はボージェスから5カラほど街道を南下した場所に集合していた。

 その道は蛇行部分が山の内側へ抉り込むようなきついカーブが200リム(m)ほど続く場所で、道幅は結構あるが道の下は高さ5リムほどの崖となっていて襲撃を受けてもカーブの出入り口以外に逃げ道はなく、罠を張るにはおあつらえ向きだといえた。


「さて、俺達はこれから隊を2つの班に分けて行動する。俺が率いる班はこのカーブの北端から山に入り、シャリアが率いる班は南端からだ。山中に入ったら適当に2、3本の木に斧で道へ倒れやすいように傷をつけた後、魔石信管を挿した爆薬を2カラグル埋め込んで布で巻け。布を巻くのは爆薬の効果をできるだけ切断面にへ向けるためだ。爆薬の設置が終わったら爆発の影響がこない場所まで退避、シャリアの隊から一人南へ1カラ先へ斥候を出して目標がそこから1カラ手前に来たら報告しろ」

 ユーゴーは行動内容を一息に話すと一旦口を閉じ兵たちを見回す。するとすぐに彼の意を汲んだかのようにシャリアが口を開いた。

「で、発破のタイミングは?」

「一行がカーブに50リムほど入ったら、まず北側を崩す。その音に驚いてもすぐに止まれないから、おそらく10~20リムは入り込んで止まるだろう。そこで南側を崩し、目標が混乱している間に一気に捕らえる。以上、質問はないか? なければ行動開始だ」

 ユーゴーの言葉が終わるや否や彼らは2班に分かれ、それぞれの持ち場へ駆けていった。

 それから準備を終え、目標を待ち始めてからどのくらい経っただろうか、南の方からトラツグミの鳴き声のような音が(かす)かに響く。南へ斥候に出した兵からの合図だった。

「来たぞ、各員"梟の目(アウルアイ)"装着、配置に着け。速攻で勝負(カタ)をつけるぞ、気を緩めるな!」

『はっ!』

 ユーゴーの声に、固まって待機していた兵士たちが山中へ散って行った。


 10ミニ(分)後、目標一行がカーブ内に進入してくるのを確認したユーゴーは相手が予定位置に来たところで起爆用の魔石を折り割った。

 山のあちこちからくぐもった破裂音が響いてそのすぐ後に倒された木々が街道を塞ぎ、目標がカーブの中ほどで立ち往生する。それからすぐカーブの南端の方でも、破裂音とそれに続き何本かの木が転がり落ちてきて目標の逃げ道を塞いだ。

 突然の事に状況を把握できず混乱している目標を捕縛すべく動き出したユーゴー達だったが、何かを感じたのかユーゴーは急に立ち止まって懐から笛のようなものを取り出し、甲高い音で短く3度鳴らした。

 突然響いた音に兵達は驚いた表情をするが、すぐに諦めのそれに取って代わりそれぞれの待機場所に戻っていく。

 ユーゴーが出したのは"撤収"の合図だった。


「隊長、どういうことです!? 全て予定通りだったではないですか!?」

 待機場所まで戻ったユーゴーは、命令とはいえうまく進んでいた作戦を止められたことに不満を持った兵に食って掛かからていた。

「うむ、うまく言えんのだがお前達が飛び出そうとした瞬間、とんでもなく嫌な感じがしたのでな…………。な、何だ!?」

 自分でもよく分からない予感だけで作戦を中止してしまい、少し申し訳なさそうな顔で食って掛かってきた兵に言い訳をするユーゴー。

 だが、最後の"な"の辺りで突然轟音が響き、彼らはユーゴーの予感が当たったことを知る。

 カーブのちょうど真ん中の辺りの馬車が集まっていた所にすぐ上の山肌が突然崩れ、そこへ大量の土砂とその上に生えていたであろう木々が流れ込み、全ての馬車を崖の下へ押し流してしまったのだった。


「何が起こったんだ、一体……」

 目の前で起こる光景にしばし呆然となるユーゴー達。

 しかしユーゴーも幾多の修羅場を潜り抜けた男、その場の誰よりも早く我に返りまだ衝撃から立ち直っていない部下達を叱咤しつつ指示を出す。

「お前ら! いつまでボ~っとしてやがる!! おい、ヘイス! お前はボージェスに戻り警備隊の隊長に現状を報告して、出せる限りの人員と人数分のショベル、それから崖の下からけが人を引き上げるための担架とロープ、据付型の滑車を出してもらってきてくれ!」

「了解しました!」

 ヘイスはユーゴーへ返事をするなり、背を向け闇の中に消えていった。

 ユーゴーはヘイスを見届けるとすぐに例の笛を鳴らし南側の班を含めた全員を集め、作戦行動を"捕縛"から"救出"に変更する旨を伝え全員で街道へと下りていく。


 街道には、二つの人影があった。

 その人影は運良く山崩れに巻き込まれなかった騎兵で、1人は呆然と立ったまま崖下を見つめ、もう1人は四つんばいになって崖下を覗き込みながら誰かの名前を叫んでいた。

 ユーゴーは一緒に下りて来た兵達に手振りで"待て"とサインを送り、自分は"梟の目"を脱ぎ腰のランタンを(とも)して人影に近づいていく。"梟の目"は基本的に斥候兵しか持っていないからだ。

「お~い、あんた方大丈夫かい。何かとんでもないことになっちまったみてぇだなぁ」

 ユーゴーはいかにも人の良さそうな風を装い、驚いた様子で立っている方に話しかけた。

「ん、ああ。って、誰だお前は!」

「ああ、俺はというか俺達はこの先にあるボージェスの警備隊の者だよ。夜間巡回の最中で何やらもの凄い音がしたんで急遽見に来たってわけさ」

 いきなり声を掛けられたことで騎兵はユーゴーに不審者を見るような目を向けるが、それに気付かぬ振りで自分達の嘘の素性をサラッと答える。

 しかし現在の任務が警備兵のそれとほとんど変わりないので、あながち嘘というわけでもなかったが。


「そうか。それで来ているのはお前達だけか?」

 騎兵の視線はユーゴーの後方に向いていた。

 いつの間にかユーゴーの後ろに待たせておいた兵達が揃って思い思いに立っていたのだった。彼らもここに来るまでに"梟の目"を脱ぎ、そのうちの何人かがランタンを点していた。

「ああ。けど、さっき部下をボージェスに向かわせたから、ほどなく救援隊が来るんじゃないかな」

「おお、それはありがたい。だが、もう間に合わないだろうな……」

 騎兵はユーゴーの答えに一瞬だけ表情を明るくするが、すぐに意気消沈してしまう。崖の下を覗いていた方も一瞬だけユーゴーの方を見るが、こちらもガックリと頭を垂れ首を振った。

 そんな彼らの様子にユーゴーは、馬車に何を載せていたのか気になり聞いてみた。

「ところで、その馬車には何を載せていたんで?」

「ああ、ザウツェンからの避難民で、ボージェスかタルミナに一時的に避難させるつもりだったんだが……」

 ザウツェンは南部域のほぼ中央に位置し、現在一番戦闘が激しく行われている場所に程近い村であり、タルミナはボージェスと王都の間にある町で、アイマンとボージェスから王都へ向かう際の中継地となる町である。


 騎兵からの答えにユーゴーは内心愕然とするが、そんな思いを内に押し込め気の毒な表情を顔に貼り付け口を開く。

「なんと! それはお気の毒様だなぁ……」

「うむ、しかしこの件については別にお前達の所為というわけではない。そう気を落とさないでくれ」

 ユーゴーがよほど気落ちした顔をしていたのか、騎兵が掛ける言葉が彼を慰めるようなものになっていた。

「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ。じゃ俺達は救援隊が入られるように、道に転がっている木を除けてくる。あんた達は救援隊が来るまで、ここで休んでてくれ。……全員集合! これより北側の障害物を撤去する」

『了解!』

 ユーゴーは気落ちした自分を恥じるかのように頬を両手で叩いて気合を入れ、騎兵に礼を言うと部下を引き連れ障害物の除去に向かった。

 その後、ヘイスと共に救援隊が駆けつけ、彼らと路上の障害物の除去、それと被害者の救出を行う。

 しかしというかやはりというか、崖下に落ちた人達は全て死亡していて、被害の内訳は馬8頭、大型の幌馬車3台、護衛の兵士8名、そして避難民が48名というアルケリア史上最も被害の大きい山岳事故となった。

 それからの作業が"被害者の救出"ではなく、もはや"死体の引き上げ"であることにユーゴーは暗澹(あんたん)たる気持ちになっていた。 


 あの事故から数ダイ(日)後、暗い気持ちを引きずっていたユーゴーに、王都の軍司令部より出頭命令が届く。

「ユーゴー、君何かしたのかい?」

「さあな、別に向こうから文句を言われるようなことはしちゃいないつもりだがね。一応、命令書には先日の事故について聞きたいから来いとだけ書かれているが、まぁ行ってみれば分かるだろ。それからしばらくは何もないだろうが、何かあれば指揮はまかせる」

「了解、気を付けてな」

「ああ」

 副官であるシャリアに後を任せ、ユーゴーは王都へ向かう。

 見送りには部隊員全員が来ていたが、彼の背を見つめるシャリアの顔に邪悪とも言える笑みが浮かんでいたことに周りの者は全く気付いていなかった。


 1ダイ後、王都の軍司令部に着いたユーゴーを待っていたのは、査問委員会だった。

 先日の事故は、ユーゴーが作戦上におけるミスをしたために起こったという、提訴があったらしい。

「そんなバカな。設置した火薬はそれぞれ木を一本倒すくらいの程度しか使っていないし、山崩れが起こった場所は100リム先での爆発が元で崩れるほどヤワな場所じゃない!」

 ユーゴーは必死に弁明するが結局は通らず、処分が決まるまでという理由で軍刑務所内にある処分保留者用の監獄に入れられてしまう。

 それから1ウィン(週)が過ぎ1マース(月)が経つが、一向にユーゴーに対して再弁明の機会は耐えられず、結局2イーズ(年)後に内戦の終結を監獄内で聞くこととなった。


 内戦終結後ユーゴーは裁判に掛けられ、あの一件は作戦中に起こってしまった事故として認められはしたが、民間人を含め56人の死者を出したということで、北方の未開拓地で50イーズの強制労働の刑が言い渡されユーゴーも控訴せず刑が確定した。

 刑の確定後にユーゴーは看守から、国王と第一王子、それから第一王子の子が降伏直前に王都から脱出し、行方が分からなくなっていたことを聞いたが、その時の彼にとって国王達が生きていようがもはやどうでも良いいことだった。




 内戦から1イーズ過ぎた頃、軍内部では人手不足に悩まされていた。

 というのもこの度の内戦で、兵士・士官が死亡あるいは大怪我などで戦闘不能であったり、戦犯として投獄されたりしたことによりクーデター軍と旧王国軍合わせても兵力が内戦前の3分の2に減り、王国全体をカバーするにはとても足りなかった。

 そこで、低下した戦力を補うため、また他国への牽制のため、監獄に収監されている犯罪者の中から諜報や潜入、扇動・破壊活動・暗殺の技能に優れた者達を減刑と引き換えに軍務に従事させるチームを作ろうという案が出た。

 そして何人かの上級士官を指揮官として、それぞれが独自にメンバーを選抜しチームを作ることになった。

 "大佐"もそれに選ばれた一人で、まず目を付けたのがユーゴーだった。

 彼はユーゴーに対し、制限付ではあるが外に出られる事、任務達成により刑期が減免されること、また任務期間以外は王都内であれば自由に暮らしていいこと、もちろん最低限の生活費が支給されることも提示されたが、ユーゴーは首を縦に振らなかった。


 ユーゴーが移送される1ウィン前、彼に面会人が訪れる。

 身長は180セラ(cm)ほどで一見優男風で穏やかな感じだが、服の下には鍛えられ引き締まった身体が見て取れ、何となく滲み出る雰囲気がユーゴーに似ていた。

「久しぶりだね、兄さん」

「おお、ジュウロウか久しぶりだな。親父たちは元気か?」

 面会人はユーゴーの6シウ(歳)下の弟で、名をジュウロウといった。


 面会室の鉄格子を挟んでいると思えないほど和やかに会話していた2人だったが、話の途中で急にジュウロウが顔を曇らせ黙り込む。

「どうした、何か心配事でも思い出したか?」

「ああ、実は今日父さんから言われたんだ。俺が次期頭首だってさ。と言っても、現時点での暫定らしいけどね」

「そうか、それは良かったじゃないか。こんなとこからで悪いが、祝福させてもらおう」

 ユーゴーは一瞬信じられない事を聞いたような顔をしたが、すぐに喜色満面で弟を祝福した。

「兄さん、別に無理しなくていいんだよ。俺もまさかこんな事になるなんて思わなかったし、頭首は兄さんが継ぐとずっと思っていたしね」

「いや、俺は本当に喜んでいるんだ。まぁ俺も自分の中では、ドラゴネスト流は俺が継ぐと思っていたんだろうな。聞いた瞬間のショックは結構でかかったよ。でもよく考えたら今の俺は犯罪者だし、なんだかんだ言ってもお前の方が門人達に慕われてたからなぁ。ドラゴネスト流には、この方が良かったんじゃないかな」

 どこか申し訳なさそうに話すジュウロウに対し、どこかすっきりした顔で答えるユーゴーだったが、不意に目を細めジュウロウを睨みつける。

「ところでジュウロウよ、お前わざわざ俺にそれを言うためだけに来たのか?」

 ユーゴーの言葉にジュウロウが意を決したかのようにパッと顔を上げ、溜まっていた物を吐き出すように早口で話し始めた。


「やはり兄さんには敵わないね。父さんから聞いたよ、今度軍内部で発足する特殊部隊にスカウトされたのを蹴ったんだって? 特殊部隊に入れば監獄からも出られるし、結果いかんで刑期も減るし兄さんにとっては悪い話じゃないと思うけど、何で?」

「ああ、そんな話もあったな。こんなことで真っ当とはいかないかもしれないが、闇の中をこそこそ動き回るより、日の下で汗水たらして開拓に勤しむ方が人間としては正しいんじゃないかと思ったんでな」

 ジュウロウはユーゴーの答えを聞くや否や、それまでの温和な表情を一転して蔑むようなものに変えた。

「ふうん。まぁ普通の人ならそれで通じるかもしれないけど、兄さんがそれを言ったら過去から逃げるための方便としか俺には思えないなぁ」

「なにっ!」

「じゃあさ、一つ聞くけど、王都の大奸商と裏で呼ばれていた男を誰が殺したの? 他国の王族と組んでクーデターを起こそうとした貴族は? サウザポールがアルケリアへ侵攻しよう目論んでいた時、推進派の水軍将を殺してその旗艦を沈めたのは? その他にも誰かを殺したり何かを壊したりしてたよね?」

「それは……」

「それは国からの命令だったり、放置すれば泣く人たちが出ると思ったからだよね? 兄さんが進んで人殺しをしたがる人じゃないとは分かっているけど、内戦の後で国が混乱しているこの時に、また泣く人が出るかもしれないってのに、それを(ほう)って開拓に行くの?」

「だが、俺は……」

 ジュウロウの物言いがさすがに癇に障り言い返そうとするユーゴーだったが、矢継ぎ早にジュウロウから飛び出す過去の行為に何も返せなくなってしまっていた。と、そこへ。


「面会時間は終わりだ」


 唐突に看守から面会時間の終了を告げられ、ユーゴーは結局何も言わずに席を立ち部屋から出て行く。

「あれ、もう終わり? それじゃ兄さん、また来るよ」

 部屋を出ようとするユーゴーの背中にジュウロウが声を掛けるが、彼は声に振り向くことなく出て行った。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


 次話は今話よりも早く出すつもりではありますが、もしもの場合もございますので気長に待っていただけると助かります。


 16/2/8 特殊軍務チームの発足を内戦終結直後より終結から1年後に変更。

 16/4/2 ユーゴーが内戦終結を聞いた時期を3年後から2年後に変更。

 16/4/14 内戦において、倍の戦力を前に"連合"側が戦線を押さえることができた理由を追記。

 16/12/25 上記の変更分に文言を少し追加。

 17/1/15 本文を一部修正。

 17/9/16 本文を一部修正。

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