第八話 翡翠の魔剣
階段を登っていくと、大きな扉が俺たちの目の前に現れた。
これまでいくつか見かけた扉とは一際違う装飾に、いかにも…という感じのオーラが漂っている気がする。
隣でストラウスが唾を呑み込むのが聞こえた。
「ここがそうみたいだぞ・・・。」
ストラウスが静かに言った。
俺の剣を握る手に、力がこもる。
ミリステア卿を倒して、ナツホの魔剣を奪い返す。
俺の目的、「もう一人の自分を見つける」と関係ないけど、どこかでつながっている気がする。
そもそも魔剣は、完成された世界・・・が作り出したって伝承があるみたいだしな。
「さぁ、決戦だ!」
そう言い放ち、俺は焦らしても仕方がないので、勢いよく扉を開けた。
こんな時なのに妙に落ち着いている。
これが俺の長所であり短所だ。
扉を開けると、黒縁メガネにきれいに整った服装をしたミリステア卿が待ち受けていた。
余裕の表情をしているが、これは見せかけだな。
内心はそこそこ焦っている感じだ。
「・・・・傭兵の数が少なすぎるんじゃないか??」
ずっと後ろで様子をうかがっていた傭兵がとびかかってきたとき、俺は言った。
俺はひらりと右に回避し、バランスを少し崩し隙ができた傭兵に鋭く蹴りを入れ、剣(棒)を背中に叩き込んだ。
「…ハハハハハ。この魔剣があれば、お前らなんてあっという間さ。」
やっぱり持っていたよな。
持っていなかった・・・じゃ、どこのくだらないコメディだ!って話だ。
マズイ
相手は魔剣の使い方を知っている可能性が出てきた。
俺の魔剣は現状ただの金属の棒だ。
火で焼きつくせるわけでもなければ、風で吹き飛ばすこともできない。
「この私の魔剣、「森林の翡翠剣の力を見せてやる!」
ミリステアはかなり焦っているな。
と思ったら、やつは俺たちに緑の旋風を放ってきた。
よける間もなく俺たちは喰らい、壁に叩きつけられる。
ヤバい、ミリステアは本気で殺しに来る。
かなり精神があれている。
何かの洗脳か??
「くそうっ!!」
ミリステアの斬撃を剣で受け止めた。
お、重い。
かんがえろ、 考えるんだ!!
・・・・・!!
魔剣が相手なら!抜けるかもしれない!!
ミリステアは一度後退し、再び深い翡翠の旋風を放ってきた。
空間を切り裂きながら激しい音を発てて迫ってくる。
「エレン!!よけろ!!」
俺にまっすぐ飛んでくる。
俺はタイミングを見計らい、剣を引き抜いた。
──────なんだこの感じ・・・・頭が冴える。まるで誰かの感情が入り込んでくるようだ─────────
「・・・・絶刀:空閃!!」
ミリステアごと切り裂いた。
放たれた翡翠の旋風を、そのまま剣にまとい、ミリステアに自分の斬撃を加えて放った。
・・・・なんだこの剣、全然切れない。
ミリステアは出血こそしているが、斬撃のダメージはあまり負っていない。
「ハハハハハ!!!!・・・・私の攻撃を打ち返すとはな!!だがそれは今初めて知ったような顔だな。」
ミリステアの言うことは当たっている。
今初めて放った技だ。
しかし、ずいぶん前から知っていたような気がする。
なんだ・・この感じ。
「・・・・お互い同じようなものだな。私も先ほど魔剣の使い方を聞いてね。」
再び魔剣の剣先をこちらへと向けてくる。
俺が負っているダメージは思っていたより大きかった。
間合いを保ちながら、剣術の修行をしていた頃を思い出す。
「うおおぉぉぉおお!!!!」
俺は魔剣をミリステアに向けながら、突進していった。
あいつは冷静に旋風を放ってくるはずだ、これを・・・
思った通りにミリステアは旋風を放ってくる。
これを俺は右へ回避しながら剣を回しながら・・・・
「な!?」
バランスが少し悪いが、回転切りを放った。
俺の魔剣は空を切り裂きながら、ミリステアのほうへ向かっていく。
やつの魔剣は旋風を放ったあとですぐには戻せない。
ヒット!!
ミリステアの胴に、鋭い一閃を叩き込んだ。
苦し紛れにやつは旋風を放ってくる。
「止めだ!!」
苦し紛れの旋風を、俺は魔剣ではじき返した。
自らの技で止めを刺されたミリステア卿は、がくりとうなだれ、意識を失った。
「ストラウス!!大丈夫か?」
ストラウスは黙ってずっと見ていた。
下手に邪魔をしないほうがいいと思ったんだろう。
魔剣を回収し、ストラウスは肩を回す。
「いやぁ、エレン!すごいなお前!!その魔剣を抜くなんて・・・」
魔剣を抜いたとき、何かが自分に流れ込んできたような気がした。
あれはいったい何なのか?
ともかく、ミリステアの魔剣の能力は自然現象を操るもので、使い手が未熟だったために「風」しか放てなかった。そして俺の、魔剣の能力は・・・・おそらく「奪い取る」や、「反射」の類の能力であろう。
「この魔剣は、対魔剣に対して威力を発揮するみたいだ。」
俺たちはミリステアの屋敷を後にする。
俺には、気がかりになっていることがいくつかあった。
1、この魔剣の能力
なぜ最初から抜けなったのか、そしてなぜおれは技の名前まで知っていたのか、これはおそらく剣を抜いた時に感じた異変と結びついているだろう。
2、ミリステアに魔剣の使い方を教えた人物はだれか?
これはまだ何もわかっていない。
「エレン、考え事をしているなら、ばあさんのもとへ戻ってからしたらどうだ?・・・それに俺もわかったことがあるんだ。」
夕日が沈みかけた道を、俺たちは歩いていく。
後ろで笑っていた男に気づかずに・・・・・・