第七話 戦闘
予想していたよりも驚くほど広い屋敷の内部は、静かさに満ちていた。まぁ、がやがやしているほうがすごく不思議になるけれど…。
天井に取り付けられているシャンデリアの値段はいくらなのか、などを考えながら二人は廊下を進んでいく。
「なんだ?傭兵がぞろぞろ出てくると思ったが…出てくる気配もないな。」
エレンが呟きが、二人しかいない廊下に響いていく。窓の外から二人を射すはかない光は、これから起こる戦いの不穏な空気を上手く表現していた。
「……なぁ、ストラウスって戦える…!?」
実は内心、エレンはずっと思っていた。こういう感じのやつって……戦闘では役に立たないパターンじゃ………
いや違う!絶対違う!!そんなベタな!
「う~ん、まぁ、普通には戦えるって…。」
ストラウスはすごくあやふやな言い方で答えた。そういう言い方のほうが余計怪しく感じるのだが・・・・。
背中を任せるテキなやつは今はやめておこう………信用できない(?)
エレンは声には出さずに静かに誓った。
「…シッ!」
ストラウスが一指し指を口元に立て、エレンにささやいた。エレンは気配をできるだけ殺し、前後に神経を集中させた。
「………後方に二人、前方10mあたりに四人。前の四人を任せてもいいか?」
かなり小さな声でストラウスは呟いた。ここにきてさりげなく特技を披露したストラウスだったが、エレンはあえてスルーした。かすかに見える人影はこちらの様子をうかがいながら、間合いをぴったりと保っている。そこそこの手練れだ。というより、この屋敷が身を潜めやすい造りになっている気がする。やたらと死角になるように柱(偽物も多いと思うけれど)が多い。
「わかった。…行くぞ、3……2……1!!」
+
俺は剣に手を掛けストラウスに言った。掛け声と同時に前方に潜んでいる敵に駆け出していく。敵は黒い装束で全身を覆っていて目しかわからないが男だというのはわかった。さすがに女性相手と戦うのは気が引ける。立派な戦術だとは思うけど……それを命令するやつはどうかと思う。敵の反応がわずかに遅れたので俺はその隙をついて抜けない剣で突きを男に放った。見事に相手の喉元にヒットし、力が抜けたように相手は倒れこんだ。そのまま流れで二人目をなぎ倒そうと体をひねると、もう一人の敵の剣が迫っていた。
「くそっ!!あたれ!!」
剣で受け止め、蹴りを叩き込む。やっぱりこの傭兵、あまり戦闘慣れしていない安い賃金で雇われた奴らだ。思っていたよりミリステアは儲けていないのかもしれない。嫌な話だけど………。
刃で攻撃できないので、一撃で気絶させなきゃいけなく難しい。ストラウスの様子を見たく振り向きたかったが、そんな余裕はなかった。三人目の敵はなかなか大きい屈強なやつだった。剣ではなく棍棒を装備していて、いかにも……という感じだ。
おそらくリーダー格か・・?
「おっらぁぁぁあああ!!!」
大男が棍棒を振リおろしてくる。なかなかの早さだったので、剣で受け止める。
が、重さに耐えきれず、後ろに回避した。その隙を突かれて脇腹に棍棒を喰らったが、師匠に習った防御術を思い出して体をひねったのでダメージは軽減された。と、同時に大男の首元に魔剣を振り下ろす。
ん……?
これまでとは違う感じだ。何か、エネルギー的な……。大した攻撃ではなかったが、大男は倒れ去った。男の首筋はひどく焼けただれていた。これが魔剣の力かな…。全くわからないが、それは後にしよう。
四人目の敵はリーダーが敗れたのを見て腰を抜かしている。そいつを無視して俺は後ろのストラウスを見た。
「エレン…そっちも終わったか?……こ、こっちも何とか倒したぞ。」
かなり疲れている。
激戦だったみたいだ。
「俺の半分しか倒してないのに…もう疲れたのか・・?」
ストラウスは笑って
「………いやぁ、俺武器持って無かったんだよ。」
俺は本気で驚いた、
あいつはここに何をしに来たんだ・・・?
「よく倒せたな!!」
「……相手の武器を奪って何とか倒せたんさ。次からはパスだな……ハハ。」
思っていたより、ストラウスはなかなか強いのかもしれない。知識系のやつなんだけれども…。変な達成感を感じてるようだけど、よく思えばまだ終わってない。ミリステア卿は絶対上のフロアにいる。俺たちはまだ傭兵たちの気配を感じつつ、階段の前までたどり着いた。