第六話 突入!
これからは二作平行なのでよりマイペースになると思いますが、ご了承ください。かなり話が複雑になっていきますよー
ミリステアはその頃、紅茶をたしなんでいた。自分に反目するものが、こちらへ向かっているとは知らずに。
「・・・・ミリステア卿、来客です。」
若い女の使用人が扉をノックしながら言う。最高級の材質の扉の音は、いつ聞いても心地がいい。ミリステアは自分の腰に差してある、一本の剣を見る。その鞘は、銀色をベースとして、深い青色の線が木の枝のように刻み込まれている、何とも表現しづらい装飾である。
「問題ない、通せ。」
使用人はしばらくすると一人の男を連れてきた。ミリステアは、もともと、今日に来るという事はわかっていたので、特に驚かない。
「やあ、シルバ。…………いや、ジェラルド。」
この男はあらゆるところで偽名で使っている。極寒の地にそびえる帝国の幹部だそうだ。もっとも、私はこの男と情報交換でしか接点を持っていない。信用するにはあまりにもこの男のことを知らなさすぎる。
「…俺の本名を知っているとは、君もなかなか侮れない男だね。」
「ほう、あんたは私のことを侮っていたのかな……?」
ミリステアは少し笑みを浮かべながら尋ねた。その冗談交じりの言葉をジェラルドは無視して、本題を伝える。ミリステア卿の所有するこの立派な屋敷の一室の空気が張り詰めた。二人の表情が変わったからだ。
「………ミリステア卿、君のその剣……奪われるかもしれないよ。反乱分子が、たった今この屋敷を目指してる。」
「ジェラルド、私がそのような輩にみすみす剣を渡すとでも?」
ミリステア卿は余裕の表情で答えるが、一見余裕そうに見えるその表情に焦りが混じっているのをジェラルドは見逃さなかった。悪意を込めた微笑がうかがえる。
「俺はただ忠告をしたまでさ、魔剣の所在が確定していないのも、俺としては嫌なんでね。」
面白がっているように見えるジェラルドを横目にミリステアは考えていた。この魔剣の前の所有者の老女から魔剣を奪う前、ミリステアの運営する事業の業績はひどく崖っぷちであった。あと少しでも赤字が進めば危うく倒産までいった。そんな危機的状況でミリステアに魔剣の話を持ちかけたのがこの男……ジェラルドである。
「……魔剣の力があれば、あらゆる分野で勘が働き、そして一つの能力が開花する。」
かつてジェラルドはこうミリステアに言った。魔剣を奪ったことによって、ミリステアの事業の業績成績は急上昇し、国内有数の貴族の地位まで再び上り詰めた。そして彼は考える。もしここで魔剣を手放すことが起きてしまったら・・・・。
私はこの地位ではいられなくなるかもしれない。
「………ミリステア卿、安心しなよ、君は負けない。………俺のシナリオ通りにいけばうまくいくはずだ。」
「安心したまえジェラルド。迎え撃つ準備はしておく。」
ミリステアの不安は完全には消えることはなかったが、彼には自信があった。魔剣を振るいさえすれば、敵はいないということを。しかし彼は尋ねるのを忘れていた。自分から魔剣を奪おうとしている者が、魔剣の適合者であるということを。それを知っていながら、ジェラルドはあえて言わなかった。
まるで、口ではミリステアの勝ちだといいながら、内心では彼は敗北すると思っているようだった。
「それを聞いて安心したよ。…じゃあ俺は行くとするかな。」
ジェラルドは去っていく。その淡い瞳は、あらゆるものを見透かし、楽しむように様々なことを考えている………そんなことを思わせるような恐ろしい感じを出していた。
「「敗北」という定めからは逃れることはできない。どうあがいてもね。」
屋敷の外で、ジェラルドは呟く。そして、高らかに笑い出した。
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「………あそこだな、あの屋敷に魔剣がある。」
ストラウスが少し離れたところにそびえる立派な屋敷を指さして言った。エレンは先ほどから魔剣を握っている。
「……どうかしたのか……?」
「いや…抜けないんだ…魔剣が。」
エレンの持つ黄金色の剣は抜けなかった。棒として振るうのならば、十分な威力があるのだが、真剣の斬り合いになったときには少々頼りない。不穏な雰囲気がエレンの中で漂う。
「………それは俺にもわからないな。魔剣にはまだわからないことがたくさんあるのかもしれない。」
「大丈夫だ、これでも倒せるはずだ。……俺はそんな簡単には負けない。」
二人は不穏な雰囲気を思いっきり感じつつ、屋敷のほうへと足を進める。やがて、巨大なもんの前にたどり着いた。エレンは門を見上げると、勢いよく門を思いっきり蹴りつけた。鈍い金属音があたりに響き渡る。
「…見かけによらずそんなことするのか!?」
ストラウスは驚きあわてている。まさか、あのエレンが・・。と口に出したところで、門がゆっくりと音を発てて開いた。「どのエレンだ」と内心呟きながら、エレンは言った。
「……迎えてくれているみたいだな…。」
二人は大きな屋敷へと足を踏み入れていった。