第9話~旅立ちにむけてお買物に行きました~
少しシモ話が出てきます
その日の夜、族長さんに時間をとってもらい、そろそろヌーエンへ行って冒険者になろうと思っていると告げた。
「うむ。あいわかった。できればこのままシプグリールに居てもらいたいものじゃが…引き止めるわけにもいかんしの。ユリーナ殿がもたらしてくれたものは貴重な財産になる。感謝しておるぞ」
「いえ、こちらこそ本当にお世話になりました。少しでもお役にたてたなら光栄です」
私が教えたものっていうのは
・薙刀という武器の形状
・ファスナーの形状(パーカーについていたファスナーを族長さんの前で開け閉めしただけなんだけどネ)
・蒸す、揚げるという調理法(こちらは焼く、炒める、煮るってのが主な調理法みたい)
・蒸し料理、揚げ料理の作り方(プリンや茶碗蒸し、天ぷらやポテチ等。大好評でした)
・新たな創作調味料(マヨネーズもどきやケチャップもどき。こちらも大好評)
これくらいなんだけど、いずれも画期的らしく、上手く商売にすれば莫大な財産になりそうだというので族長さんにとっても感謝されたの。
私が教えたことを商売にして世に広めてもらったなら、少しでもヘアグの活性化に貢献できたってことになりそうだし、この世界に来た意味があるよ。
いつもの客間に戻りレギと雑談していたらミリーが来た。
「ユリーナ様ぁ…シプグリールをお発ちになるってホントですかぁ…?」
そんな泣きそうな顔して言わないでぇ~っ
ここはとっても良いところだけど、働きたいし、恋人みつけたいのよぅっ
「…うん。近々ヌーエンに行くつもりなの。ミリーには本当にお世話になったわ。ありがとう」
「ううっ。ユリーナ様ぁ…」
ミリーは悲しい顔をして俯いたが、すぐに顔をあげてくれた。
「ユリーナ様には目標がおありになるのですものぉ…いずれ行かれるとわかってましたしぃ…承知いたしましたぁ。旅に必要な物もご用意するんですよね?街に買いにいかれるならご案内いたしますぅ」
ミリーの申し出をありがたく受けて、次の日はお買物に行くことになったのでした。
シプグリールの市場はかなり広く、羊緑族が経済的に豊かであると伺い知れるわ。
魔物としては中級でも、商売人(商売魔?)としては上級だよね。人間顔負けの商才がおありです。
独自の羊毛品や革製品や食料加工品などを、西の地に限らずヘアグ中に輸出してるらしく、羊緑族はお金持ちが多いみたい。
だから大金貨1000枚も出せるんだね~
族長の館もやたらと豪華だしさ。
市場は広くって、魔物と思しき方や人間がいっぱいいるよ~
気をつけないと迷子になりそう。
レギは私の肩にとまったまま、キョロキョロと物見遊山。
ミリーが始めに案内してくれたのは、布用品全般を扱うお店。
服や下着、帽子に靴下といったものから布団まで、たくさんの商品がある。
羊緑族さんからも何着か服や下着は貰ったけど、やっぱ自分で買いたいよね~。
服や下着、タオルっぽい綿の布も大中小サイズ数枚買い、皮と布と綿でできた寝袋っぽいものも購入。
あと、忘れちゃいけないのが〔吸引布〕
これは、ヘアグでオムツ代わりとかに使われていて、下着に挟んで使う物。
ヘアグに来て初めて月イチのものがきた時にミリーに相談したら、この布を渡され説明してくれた。
この布の吸収力は抜群で、一番多い二日目の夜も全く洩れてなくて軽く感動したのよ。
〔吸引布〕は無くなると困っちゃうので大量に買い込んじゃおっと。
そういえばヘアグにはトイレットペーパーが無いんだよね。
用を足し終わった後はウォシュレットみたいに水で洗って瞬間乾燥ってカンジ。
排泄物もそのまま洗った水と共に気化されちゃう。
便器に〔水〕の魔法が込められているかららしいけど、詳しい仕組みはよくわからない。
旅をしている間の排泄後処理は自分の〔水〕魔法で片付けようっと。
なんだかんだで布用品だけでも結構な荷物になったので、人通りが少ない路地に行き、空間魔法で亜空間を出して買ったものをポンポン放り投げる。
手ぶらで買い物、手ぶらで旅ができるステキ魔法〔空間魔法・亜空間道具袋〕
しかもこの〔亜空間道具袋〕、亜空間内は時が流れてないから仮に生肉入れても腐らないし、収納量も無限大。取り出すときは、亜空間から出したい物をイメージするだけ。
なんて素晴らしいんだ!使えて良かった、空間魔法。
お次は雑貨屋さんっぽいお店。
ここでは食器類や簡単な調理道具を買う。
その後は小物類。
火付け棒(発火魔力がこめられてる10cmくらいの棒)、温石(水に入れるとお湯になる石)、身体洗浄液(例の、これ1本で4役こなす万能液)、口内洗浄液に衣類洗浄液や食器洗浄液などの洗浄液類を数種類とミニ光源石などを購入。
火付け棒を買うときにレギが「オイラが一緒で火に困ることなんてないのに~」ってボソっと呟いたけど、備えあれば憂いなしっていうしさ。
あと、傷を治す液とか解毒液とか体力回復液とかをしこたま買い込む。
魔法でも治癒できるんだけど、やっぱ備えあれば憂いなしだしね。
地図も売っていたのでもちろん買ったのだが、西の地とその周辺のものしかなかった。
まあ、他の地の地図は当面いらないか。
小物道具屋の隣は魔道具屋だったので興味本位で立ち寄ってみたけど、何をどう使うのかとか、どのような効果があるかとかよく分からなかったので、とりあえずレギが薦めてくれた魔力増幅ブレスレットを買い、早速身に着けてる。
武器屋ではナイフを数本と、小型の剣も購入。
もちろん戦闘用ではなくて、木の枝を切ったり食事の支度の時に使うの。
防具屋にも寄ったけど、鎧や楯とかは重くて適いません…
なんかないかな~と物色してると、なかなか可愛いデザインのブーツがあったので手に取ると、重みを感じないくらい軽かった。
そのブーツは防御力もそこそこあるけど、装着者の素早さがグンっと上がるのだとか。
『監視者』に心身強化してもらっているとはいえ、女性である私はどうしてもパワーや頑丈さに欠けちゃう。打撃に弱く非力な私にとって、素早さはかなり大事。
先制攻撃と見かわしの速さ、逃げ足の速さは私の命綱!大事スキル〔素早さ〕
それがグンッとあがるなんて、そりゃ~お買い上げ決定でしょ。
大金貨5枚もするけど、今の私は大金持ち!ためらうことなく即買いよ!
防具屋のおじちゃんも、まさかホントに私が買うと思ってなかったらしく、カウンターに大金貨をチャリリンと置くと、すごい驚いた顔したよ。
でもそのあと凄い笑顔になり
「いや~、ウチの最高値商品購入者が嬢ちゃんのように可愛い女の子だなんてね~。でも嬢ちゃん金魔連れてるくらいだから相当強いんだろ?強い人に使ってもらえればワシも嬉しいよ。そうだ、こいつはオマケだ。」
オマケだと言って渡されたのは、指貫の皮グローブと青紫のローブだった。
「嬢ちゃんの手、マメが出来てる。なにかしらの武器を扱ってるんだろう?このグローブは薄手の割には丈夫だから邪魔にはならんよ。んで、このローブは数年前、入り用があるから金に代えてくれといわれて買取った物なんだ。イイ品なんだが、なかなか買い手がつかなくてな。自分や知り合いが使うにしては小さいし、かと言ってそのままにしておくのも勿体ねぇ。丈や幅も嬢ちゃんにぴったりだし、もってってくれ」
わ~、ありがとうございます!とお礼を言い、私は喜んでオマケを頂戴した。(大金貨5枚の大物買いしたし、遠慮なんかしない)
グローブもローブも役に立つものだし、ラッキー♪
「よかったですねぇ、ユリーナ様ぁ。そのローブ、綺麗なお色でユリーナ様によくお似合いですぅ」
ミリーがニコニコで褒めてくれた。
最後に、食料品や調味料などを売っているエリアに行く。
実は族長さんの館の厨房で蒸し料理や揚げ料理を伝授する傍らで西の地の料理や調味料も教えてもらっていたの。
食材や調味料の味はだいたい把握してるから、迷わずどんどん購入する。
〔亜空間道具袋〕にしまうので、果物とか野菜もいっぱい買っちゃった。
買い物から戻ると、メルーロさんが待っていてくれた。
「まもなくヌーエンへ発たれるとか。転移目印さえあれば魔法で送るのですが…お役に立てず、申し訳ない」
「申し訳ないだなんて、とんでもない!充分すぎるほど良くしてもらってます!」
私は慌ててブンブンと横に首を振った。
初めて行く場所に転移するには目印がなければ出来ないと知ったのは、ヘアグにきてから22日目、魔法修行をしている時のこと。
メルーロさん達はギルガの羽を持っていたのでギルガの所に転移できたし、収容所にもギルガの羽が保管されてたので、送ることが出来たのだそうだ。
一応、メルーロさんには私の髪の毛を渡してある。
代わりに私はメルーロさん自作の転移紙を貰った。これに伝えたいことを書いて、魔力を込めればメルーロさんのもとに転移されるという郵便屋さん真っ青な紙らしい。
こんなもの作っちゃうなんて、メルーロさんて強いだけじゃなくて頭もいいのね。
そして旅立ち前日の夜
亜空間にしまってあるものを全部出し、買い忘れが無いかをチェック。
一通り確認が済み、荷物を元に戻そうとして、気付く。
ジーンズのポケットに石ころ入れっぱなしだった。
まあ、いっか。入れっぱなしでも。
私はたいして気にせず、そのままジーンズも亜空間に入れ、しっかりと睡眠をとるべくベットにもぐりこんだのでした。
お買物の様子を考えるのは楽しいです。
ショッピングしたい~っ