第8話~旅立つことが決まりました~
「全くユリーナ様には驚かされることばかりです」
主光と副光がもうじき重なるって頃、お迎えに来てくれたメルーロさんはレギを見るなり硬直。
お友達になったの~とレギを紹介したら、いつも穏やかで冷静な羊緑族随一の魔戦士メルーロさんがオタオタしたもんだから、思わず笑っちゃった。
「しかし…南の金魔と友達とは…前代未聞ですよ…」
まだ驚きから冷め切っていないといった様子のメルーロさんが、そんなことを呟いた。
「あれ?ええと、確か金魔と銀魔っていうのは、魔物の中でもトップクラスで…2強魔っていわれているんですよね?」
「そうですよ。ユリーナ様は物覚えが良いですね」
「え?でもレギは朱焔族ってう魔鳥ですよ?金魔って種族ではないのでは?」
キョトンとして尋ねると、何故かメルーロさんは困った顔をした。
レギは大爆笑してやがる。
なんだよぅ、一体。
「私の説明不足でしたか…。あのですね、金銀魔というのは体に金や銀の色を持っている魔物のことでして、種族名ではないんです。朱焔族は金魔なんです」
マージーで~~?!
「えぇぇえ?!レギって最強魔鳥なの?!そんな凄い魔物がどうして私と召還契約してくれようとしたの~?!」
「ん?ユリーナを気に入ったからじゃ~ん。とりあえずオモシロそうだから繋がっとこっかなって」
「……あ、そう。そりゃドーモ」
あははは、と乾いた笑いの私。
引きつった笑いのメルーロさん。
ぐふふ~と楽しそうなレギ。
「と、とりあえず正光時ですし、ミリーが昼食をご用意してますのでシプグリールに戻りましょう。レギ殿はいかがされますか?」
「ん~、そっちが問題なければ同行しても良い~?他種族の街もオモシロそう~」
問題ないようなので、レギも一緒に来てくれることになった。
レギって価値基準が『珍しい』とか『面白い』で出来ているんだね…あはは…
族長さんの館に戻ると、とりあえず族長さんやミリーにレギを紹介した。
上級魔(しかも南の地最強の金魔)が自分達の街に来ること自体珍しいのに、私の友達だといわれて流石の族長さんの驚きを隠せていなかった。
ミリーに至ってはオドオドビクビクして落ちつかない様子だったけど、レギは気にした様子もなく普通にしてたから、ミリーも段々といつもの調子に戻ってくれたよ。変に緊張されても困っちゃうし、戻ってくれて良かった。
ヘアグ生活40日目
初めてここに来た日は火の黒月4日だったので、今日から土の季節に入る。
2つの太陽がまだ地平線から姿を見せない夜明け前、私は自主トレのためシプグリールから少し離れた場所に薙刀を持って立っていた。
8日前にようやく薙刀が完成したんだよね。手渡された時はかなり嬉しかったよ。
手に馴染ませるため、その日は一日中薙刀振るっちゃったんだよね。
「気持ち良い朝だね~、すがすがしいな~。空気が新鮮!」
「……昨日もそう言ってたよ、ユリーナ」
「いいじゃない、朝が気持ちいいと良いことありそう!」
「それも昨日言ってたし」
「もー、レギったら~、いちいちツッコまないでよ~」
「へいへい、そろそろやらないと主光が昇りきっちゃうよ~」
「むむぅ」
レギを軽く睨むと、出来上がったばかりの薙刀を構えた。
体に、薙刀に、風の魔力を込めて意識を集中させる。
「じゃ、やるよ~」
レギが特殊能力で10cmほどの石ころ10個を放り投げると同時に薙刀を振るう。
スパっ、スパっ、スパっ、スパっ、スパっ、スパっ、スパっ、スカっ、スパっ、スカっ
………ボトっ…ボトっ
あちゃ~、2個はずした。ちぇ。
でも、切った石は殆ど真っ二つ。風の魔力で速さと刃物の威力を高めてるとはいえ、なかなかな腕前じゃない?
「もうちょっとレギが高く放ってくれたら全部切れたかもなのにぃ」
「そんなことしたら意味ないだろ~。これはユリーナの素早さと、敵を的確に捕える力を上げるためにやってんだから~」
「そうだけど…じゃあ、もうちょっと魔力こめちゃおっかな」
「それも駄目。一日中使ってもバテない程度の魔力じゃなきゃ~」
「ぅうう…正論言いやがってー!クヤシイよぅ」
「んじゃ、もう一回ね。今度は石の数、減らそうか?」
「ヤダ!10個、制覇してやる!」
「はいよ~」
そうして、私は今朝もレギと楽しく(?)朝練に励んだ。
ヘアグ生活42日目
「ユリーナ、他者を屠ったことはある?」
レギがサラッと、ゴハンまだ?みたいな軽い口調で聞いてきた。
質問の意味が解らなくて、どーゆーこと?みたいな顔でレギを見ると、いつもよりも真面目な顔をしている。
「だから、ユリーナは殺ったことあるか?って聞いたんだよ。本気で自分の命を奪おうとしてる敵を仕留めたこと、ある?」
質問の意味を理解した途端、体が強張った。
そう、そうなのだ。この世界は命と命の奪い合いが日常的にある世界なんだ。
ましてや私は冒険者を目指すんだから、命のやりとりが当たり前になるかもしれないんだ。
「……な、い。無いよ。私の生まれた国は平和だったから…」
「だろうな~。ユリーナ見てるとわかるよ。でもさ、襲われたらやり返さなきゃ自分がやられるってのは解るだろ~?…初めて屠った時って人間はさ、いや、魔物も精霊だって、平素じゃいられない。気が落ちたり乱れたりする。」
私はいつになく真剣に言うレギの言葉に、あの殺気を思い出した。
--ギルガの目--
未だに思い出すだけで身震いがする。恐怖にのまれそうになる。
私は思わず、自分で自分を抱きしめるように腕を押さえた。
「ユリーナ?」
レギが気遣うように呼んでくれる。
「あ、…ごめんね。ちょっと、思い出しちゃっただけなの…」
「思い出すって?」
「ギルガの目。あの時ね、私、殺気だけでホントに死んじゃうかと思ったんだ…」
「え?ギルガは気絶してたんじゃなくて?」
レギが金ルビーの目をパチクリさせる。
「うん…地面に落ちて…あの時はギルガが怪物だなんて知らなかったから、私のせいで死んじゃったらどうしようって思って…背から降りて頭の方にまわったら、薄っすら目を開けて……怖かった…あんなに凄まじい殺気、二度と味わいたくない…」
ボソボソと話してると、レギが近くまで飛んできて私の肩にとまった。不思議と重みを感じないし、爪も痛くない。
「なーんだ、心配してソンしたじゃん、オイラ」
「へ?」
「ギルガの殺気に中てられても気絶しなかった精神力ってことだろ?大丈夫だな、ユリーナは」
「は?」
「実戦になっても平気そうだな。良かったよ。んじゃ、ユリーナも大分強くなったし、ボチボチ行こうぜ」
「え?」
「ギルドに登録すんだろ~?シプグリールにはギルドは無いらしいからさ~。ギルドがある街は、ここからだとヌーエンが一番近いんだってさ~。あそこは大都市だし~。とりあえずヌーエンに行こうぜ」
「え、うん」
なんだかレギに流されるように、旅立ちを決めてしまったよ。
まぁいっか。いつまでも羊緑族の所にいても未来の恋人には会えないだろうしネ。
それに大都市なら、もしかして素敵な出会いがあるかも…うふ♪
立ち直りの早い私は、目標達成の希望に胸をふくらませたのでした。