第62話~3日間も経っているなんて気付きませんでした~
メアリー様の頭脳を称賛しつつも、自分との差を感じて少し落ち込む。
だけど、実験室の家探し(?)は止めない。
だって、魔道具ってワクワクするし面白い。
ここにある書籍類を読み込んで、試作品をいじったりとかして魔道具作成について理解を深めれば、私も何か画期的な魔道具を作れたりしちゃうかも!
ゲームとかで定番の、いくらでもアイテムが入っちゃう袋とか。魔法の絨毯みたいな空飛ぶ乗り物とか。
おおうぅっ、夢が広がるよ!
あったらいいな~と思う魔道具を一頻り思い描いて、ハッと我に返る。
妄想してないで、打倒ラギュズのヒントになるようなものを探さなきゃ。
魔道具の試作品を陳列してある(と、いうか無造作に棚に並べてあるだけかも)棚には、あっちこっちに紙束が置かれている。
おそらく、魔道具試作品の本体と仕様書がセットで置かれているのだろう。わかりやすくて有難いです。
手あたり次第、片っ端から仕様書に目を通した。
…
………
「はぁ~…、ダメかぁ…」
粗方見終わったけど、ほとんどが生活用品っぽい魔道具だったよ。残念。
いや、かなりタメになったけどね?
魔道具の仕組みとか作成方法の知識なんて皆無だったから、純粋に面白かったけど。
やっぱり天災怪物を倒せるようなものはナシ。
まあ、トルヴァさんが言ってたように、あったらメアリー様が自分で使ってるよね。
うーん、調べるだけ無駄かな…?
でもさぁ、ラギュズを封印した後に、ラギュズを打倒できるような何かを発明したって可能性もあるよね。
それに封印したときに使った空間魔法の使い方だって、この特別亜空間の何処かにあるはずだ。もうちょっと探してみようっと。
でも、闇雲に探すには広すぎなんだよね、この亜空間。
ここはトルヴァさんに相談してみようっと。何か手掛かりになりそうなものを知っているかもしれないしね。
「と、いうわけでトルヴァさん。ラギュズ退治に使えそうなもの何かないですか?」
倉庫に転移陣で移動するとトルヴァさんはすぐに見つかったので、早速聞いてみる。
「自分で探しても分からなかったというわけか。」
「……………はい」
呆れた様な視線が突き刺さりますっ。
なら、最初からトルヴァさんに聞いとけよって話ですよね。
効率的にはそうかもしれないけど、初めての場所って先ずは自分で探索してみたくなるじゃん?
「まあ、いい。…言ったと思うがラギュズが現存していたのは我がメアリーと出会う前だから、我もラギュズに関わることはよく知らん。」
「……………と、いうことはトルヴァさんも、ラギュズ関連の物があるかどうかすら分からない、ということですか?」
「我は、ラギュズの対抗できるものはないと、言っただろう」
「そうでしたね…あ、メアリー様の創造魔法の記録紙もあるって言ってましたよね?それ、どこですか?」
「確か書斎にあったと思ったな」
筆記テストをした所に逆戻りってわけですね。
トルヴァさんと共に転移陣で書斎に来ると、さっそく目当てのものを探す。
うわぁ、紙の束や本などがたくさんあって、どれがどれだか分かんないぃ!
いやいや、諦めるな私!まだまだ、片っ端から探すよ!
量が膨大なので流し見して、攻撃魔法とか結界魔法とか役立てそうな記載があったらじっくりと読む。
うーむ、強力そうな魔法はどれも、かなりの魔力を使いそう。
無神の魔力、か。やっぱり無神の地行きを真剣に検討しなきゃだね。
しばらくの間、書類群と格闘していたら、ふいにトルヴァさんが尋ねてきた。
「それより、いいのか?」
「何がですか?」
「ユリーナがこの亜空間に入ってからも当たり前だが外界の時間は流れているぞ。ずっと、ここにいてもいいのか、と聞いている」
「え?……あっ!」
お腹もすかないし、トイレに行きたくもならないから、すっかり感覚がマヒしてた。
ここにいると、自分だけが時間が止まった状態になっちゃうんだった!
そういえば、この亜空間には突然連れてこられたんだったよ。
マズイ、レギもルーシェも心配してるかも。
「トルヴァさん、私すぐ戻ります!もとの場所に転移してください!」
勢い込んでお願いすると、トルヴァさんはヤレヤレというように肩をすくめ、転移してくれたのでした。
「「「ユリーナ(様)!!!」」」
「ふばぁっ!」
転移後すぐ、まだ気持ち悪さが残ってる状態でいきなりルーシェにタックルをくらいました。受け止めきれないというか、むしろ吹っ飛ばされるくらいの勢いで尻もちをつく私。
「あ、ごめん!ごめんねユリーナ。アタシ、嬉しくてつい…大丈夫!?」
「う、うん、だ、だいじょうぶ…」
ルーシェ的にはつい胸に飛び込んできた、のだと思うけど。
そんなに力を入れてたわけではないのかもしれないけど。
小さくて可愛くても銀魔の力は強いです…
「良かった、良かったよぅ、ユリーナ戻ってきて。この3日間ホント心配したよぅ」
スリスリしてくるルーシェ、可愛い。
「ごめんね、心配させちゃって。…って、3日間!?」
3日間って、そんなに亜空間にいたの!?全く自覚無いよ…
時間の流れを感じないって、危険だな。
今度あの亜空間に行くときはアラームみたいな道具を持参するとか、何か対策を考えなくちゃ。
「ユリーナ様が無事お戻りになられて本当に良かったです。」
そう声をかけられて顔を上げると、そこにはホッとしたような笑みを浮かべているメルーロさんがいた。そして、何故か見覚えのない人が二人いる。
一人は銀髪に紫目、もう一人は黄緑色の髪に茶色の目をしていた。
「メルーロさん、来てくださってたんですね。お騒がせしてしまい申し訳ないです。あの、そちらの方々は…?」
面識のない二人にチラッと視線を向けると、メルーロさんは彼らを紹介してくれた。
「こちらは銀狼族のムトヴァ殿、こちらはグリンジアス王国第2魔法師団団長のレンドール殿です。お二人ともお仕えする方にユリーナ様の捜索を命じられて、こちらに来られました。」
「……え?捜索?お仕えする方?」
「はい。ムトヴァ殿は銀狼族次代族長のジウォン様に、レンドール殿はグリンジアス王国王太子ハフィスリード様に。行方不明になったユリーナ様を探し出せと命じられ、消息を絶ったこの場所に来られたのですよ。」
「……(マジ?)」
「何かおっしゃいましたか?ユリーナ様」
「あ、いえ、その、なんだかかなり大事になってるな、と。驚いてしまって」
メルーロさんはちょっと苦笑すると「私も驚きました」と、小声で呟いた。
「メルーロ殿、会話に割り込むようで恐縮だが、宜しいか?」
銀狼族のムトヴァ、と言われた人(魔物?)が、いまだに尻もちついている私の前で膝を折り、両手を胸の前で交差させて頭を下げた。
「お初に御目文字致します、ゼウォン様のツガイ様。私めはムトヴァと申します。以後、お見知りおきください」
丁寧なムトヴァさんの態度につられて、私も尻もち状態から正座をし、頭を下げた。
「ご丁寧にありがとうございます。ユリーナと申します。よろしくお願いいたします。あの、銀狼族の方、ですよね?里から出られてもよいのですか?」
金銀魔って、自里から出ないんじゃなかったっけ?
「私めは転移魔法が使えますので、里の外に出ていることが多いのです。同族で転移が使えるのはごく少数ですので、私め、お役目を賜る頻度が高くて。今回はゼウォン様の暴走を止めるためにジウォン様に命じられ、シプグリールに来訪しました」
「そうなんですね、って、え?ゼウォンの暴走!?」
暴走って、ゼウォンってば何しちゃったの!?
あっけにとられていると、成り行きを見ていたレギが「床の上じゃなんだから~、こっち、座ったら?」とソファの方へと飛んで行った。
確かに床は痛いし冷たいし、お客様(?)にも失礼よね。
ソファには私、私の膝の上にルーシェ、背もたれを止まり木がわりにレギが、私の隣には人型のトルヴァさん、向かい側は私の正面にメルーロさん、メルーロさんの右隣がムトヴァさんで左隣にレンドールさんが座った。
「お初にお目にかかります。グリンジアス王国第2魔法師団団長のレンドールと申します。王太子殿下専属冒険者ユリーナ殿が見つかり、安堵致しました。」
「ご挨拶ありがとうございます。ユリーナと申します。ご心配おかけしたようで申し訳ありません。」
「いえ、事前にレギ殿とルーシェ殿から状況を聞いておりましたので。ユリーナ殿が晧蛇族の者に転移させられたと、王太子殿下に伝達石で連絡したところ、こちらに戻られる可能性が高いので待機するよう指示がでましたので、羊緑族族長に許可を得てシプグリールに滞在いたしておりました。」
「私めもレンドール殿と同様です。一度、里に戻り報告したところ、今一度シプグリールへ赴き待機せよ、と。今、こうしてツガイ様がここに居られるということはゼウォン様もツガイ様の気配を感じ取っていることでしょう。きっと、落ち着いてくださったはず。安心いたしました、誠に。」
「ムトヴァさん、その…、ゼウォンは一体何をしたのでしょうか?」
軽くため息をつくと、遠い目をするムトヴァさん。
「ゼウォン様は…ツガイ様を探しに行くと…ジウォン様とソウォン様との共闘訓練をほっぽり出して里から脱走しようとされましたので…同族の者たちがお止めしたのですが全員蹴散らされてしまい…ジウォン様とソウォン様お二方が力ずくで抑えられて…その時の衝撃で里の一部が破壊され…私めが代わりにシプグリールに赴き状況をお伝えすることをジウォン様がお決めになり、やっとゼウォン様も多少は落ち着いてくださいまして…はぁ」
もう一度ため息をついたムトヴァさんに、同情めいた視線をむけたレンドールさんは「実は私がシプグリールに派遣されたのも、ゼウォン様の要請だと王太子殿下から伺っています」と苦笑交じりで言った。
……
………
ゼ、ゼウォンーーっっ
「あの、なんか本当にすみませんっ、私もまさか3日間もたっているとは思わず、ホントごめんなさいっ」
冷や汗をかきながら頭を下げる。
「でもさ~、前にユリーナが闇の帝団に攫われた時はゼウォンそこまで取り乱してなかったじゃ~ん。あ、ツガイ候補と正式なツガイじゃ違うのか」
場違いなことを言い出すレギ。
「なんにせよ、こうして無事お戻りくださったので良かったではないですか。して、ユリーナ様は3日間どうされていたのですか?」
メルーロさんに尋ねられたので、私は姿勢を戻して説明した。
所持していた白石が、実はメアリー様の後継者選定のためのものだったこと。
晧蛇族のトルヴァさんに亜空間に転移させられ、テストと手合わせをして後継者として合格したこと。
メアリー様の遺産である亜空間の凄さ、そこにあった魔道具作成書や魔法作成の覚書の多さ。
そして、強力な魔法を使えるようになるためにも、無神に地へ行く必要があることも。
「と、いうわけでして私は近々、無神の地へ行きます。ですので気配が途絶えても心配いらない旨、ハフィスリード殿下とゼウォンにお手紙を書きますので渡していただけますか?」
レンドールさんとムトヴァさんが了承してくれたので、私は早速お手紙を書いた。
まずは心配させちゃったお詫び、そしてメアリー様の遺産を亜空間丸ごと継承したことと、無神の地へ行くことと、行方知れずでも気にしないでね、ってことをハフィスリード殿下あての手紙は丁寧な言葉で、ゼウォンあての手紙にはちょっと砕けた言葉で書き上げた。
「よし、書けたっと」
2通のお手紙に封をして、レンドールさんとムトヴァさんに託したのでした。
*****
ハフィスリードは、私室にてレンドールから受け取った手紙を読むと、己の守護精マイスミーグに語り掛けた。
「ミーグ、ユリーナさんが無神の地へ行くそうだよ」
「まあ!では後日、是非ユリーナさんにお会いしてくださいね、主!ワタクシお話を聞きたいです!」
大地の指輪から具現化したマイスミーグが、喜色に満ちた声で願いを言う。
「魔力を高めるため…か。ユリーナさんも共に天災怪物ラギュズと戦うつもりでいるのか…?」
「そうですね…おそらくは」
マイスミーグは笑顔から一転、曇った顔で己の主を見る。
「だが、主神が神命を下されたのはゼウォンさん達銀狼族の三兄弟であろう?ユリーナさんも重々承知のはず…」
「わかってはいても、何かしら行動せずにはいられないのでしょうか?ユリーナさんは、その、じっとしているのは苦手そうでしたから」
ハフィスリードは「確かに」と微苦笑を浮かべ、その後眉根を少し寄せて呟いた。
「皆、無事でいてもらいたいものだ…」