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第49話~闇に蠢く怪魔~



何も無い 何も見えない 

虚無の暗闇


この空間に封印されて、外界では幾許の時が流れたのだろうか…

1日も経っていないかもしれない。100年ほどの時が過ぎたのかもしれない。

時の経過は分からない。

だが、どれほどの時が経とうとも…決して変わることも薄れることも無いのだ。


出産したばかりの我が仔を目の前で殺された、あの衝撃は--

どれほど憤り嘆き悲しんでも“掟”と一蹴された、あの絶望は--


何故、我が仔が殺されなければならなかったのか…

あの仔はまだ目も開かず、立ち上がることもなかった。

生まれ出でたこの世界を見ることも出来ず、地を踏みしめることも出来なかった。

我が胎内で大切に大切に育て守ってきた、大事な命。

くだらぬ“掟”のせいで、未来を奪われ散ってしまった…


抑えきれない嘆きと怒りは、やがて深い憎悪へと変貌した。


“掟”の名の下に、生まれたばかりの我が仔を無慈悲に殺した、同族。

加護する地に誕生した我が仔を護ることなく見殺しにした、主神。

そして--その主神を崇める、西の地の愚か者共。


奴等に、この身を焦がす悲しみと憎しみを知らしめるのだ。

同族を殺し、西の地に生きる全ての者を殺し、主神に思い知らせねば。



それは、歪んだ負の決意。



天災級の怪物と融合した銀魔狼の眼が、暗闇の中で不気味に光る。

族長の伴侶だった頃の面影は無く、恐ろしき怪魔と成り果てた嘗ての銀魔。


この怪魔の復讐と憎悪の念は少しづつ空間を侵食し、徐々に封印が歪み始める。


永き時を経て、葬り去られた黒い歴史が動き出そうとしていた。




*****




土の緑月になった。


規模の大小に違いはあれど、西の地全域で主神〔土の神〕の大祭を執り行うので、土の緑月は西の地が平素よりも活気付くのだそう。

ここグリンジアス王都も、商人や旅芸人などが集まりだして益々賑わいを見せている。

市場や露店からは引っ切り無しに客引きの声が聞こえ、立ち止まって売り物を眺める者、素通りする者、商人の手練手管に丸め込められ購入する者など、様々だ。

西の地で最も品揃えが豊富と言われる王都の食市場も、多数の人々が行き交っている。



ふふ…うふふ… つ い に バザーが始まりましたよ!

気合入れて食料買い溜めするわよっ。


ここ最近、ギルドの依頼ばかりしてたからチーム資金も貯まっているようだし、価格も通常より安いし、これはもうドッチャリ買い込むしかないでしょう!


苦笑するゼウォン、飄々としているレギ、ワクワク顔のルーシェと共に再度やってきました食市場!

もうリサーチ済みなので、サクサクとお目当ての店に行って値切り倒す!


この半月の間で〔ナギナタ〕はグリンジアス王都ですっかり有名なチームになってしまったようで、私が値切り交渉すると「〔ナギナタ〕ほどのチームがケチケチしなさんなって!むしろ2割増し価格で買ってもらいたいよっ」とか言われちゃう。


もちろん、そんな言葉に頷くワケないんだけどね。


「じゃ、アレとコレをもう1袋追加で買うから、全部でこの価格でどう?」

「嬢ちゃん、それじゃ3割引き価格じゃないか、ダメダメ。ウチが破産しちまう」

「じゃ、小銀貨1枚追加するわ」

「う~ん…。まだダメだな」

「あ、そう?これ以上は払えないからダメなら他所行くわ」

「うわっとぉ、ちょい待ち!…仕方ないな~、それで手を打とう。毎度あり~」


こんなカンジでお店の人とのやりとりを楽しみつつ(?)順調に食料や調味料を買い込む。

買い込んだ物はほとんどゼウォンが持ってくれてるんだけど、いい加減これ以上は持ちきれないってくらいになって、ようやく全ての食材を買い終えた。


人目のつかないところへ移動し、亜空間へ収納。


「だいぶ買い込んだな。これだけあれば1ヶ月は困らないだろ」

「だね。前みたいに急に山篭りになっても安心ね。あはは」


食市場で満足のいくお買物が出来た後は、他エリアのお店を物色する。

洗浄液類や薬液、温石などの消耗品も安くなっていたので、ここぞとばかりにガンガン買い込んじゃった。


私以上にルーシェの方がお買物を楽しんでいる様子で、銀の瞳をキラキラさせながら「あれ、なぁに?」「これ、どうやって使うの?」と尋ねてくる。

私にも分からないことはゼウォンが答えてくれた。

買わなくても見てるだけで楽しくて、キャイキャイはしゃぐ私とルーシェを生暖かく見守るゼウォン&レギ。


そんな調子で露店を見てまわっていたのだけど、レギが興味を示した胡桃に似た実を買ったり、ゼウォンが得体の知れない粉末とかヘンな形の枯れ草などを買ったり(薬の材料なんだって)、男性陣もそれなりに収穫があったみたい。


流し見程度とはいえ粗方の露店を見終える頃には、とっくに正光を過ぎていた。

すでに火の3刻半を過ぎていてビックリ。

何か軽く食べよっか~ということで、今度は食屋台へと向かう。


食屋台エリアの活気も凄まじく、中途半端な時間帯なのに辺りは人・人・人。

美味しそうな匂いに、胃袋が刺激されます。


薄く延ばしたパン生地に味つきパスタを包んだものとか、ケバブのように大きな塊肉を分厚く削ぎ落として3本の串に刺したものとか、タロ芋のバター焼き(まんまジャガバター)とか、どれも全部美味しそう!

この前食べたお肉とタロ芋の串焼きもいいけど、せっかくだから違うものがいいなぁ。


結局、クレープ生地もどきに野菜と味付きのスライス肉を巻いたものと、ドライフルーツを混ぜ込んだマフィンもどき、それにハーブティのような飲み物(常温)を購入。


この世界には紙コップなんて無いから、飲み物を買う時はマイカップ持参なの。

この前買った果実ジュースも、今回のハーブティも、注いでくれたのは200mlくらい。

お店によってはサービスしてくれたり、逆に170mlくらいしか入れてくれなかったりする所もあるんだって。



落ち着いた所で食べようと、てくてくと歩いて場所を移動していると、何やらズラーっと行列ができている箇所が目についた。

列の先には、木札をジャラジャラと持ったローブ姿のオジサンがいる。


「あれ、何の列なのかな?」

「ああ、あれか。土の神殿までの転移券を買ってるんだろ」

「転移券??」

「あのオッサンは転移が使える魔法士なんだな。あの木札に転移日と時刻が記されている。土の神殿にギルドの転移装置は無いし、自力で神殿に行くより転移の方がいいから、あんなに行列ができるんだ」

「へぇ~、転移が使えるって儲かるのね」

「まぁな。だが、ああしてフリーで稼ぐより、どこかのお抱え魔法士になったほうが、よっぽど儲かるし、稼ぎも安定する。あえてフリーでいるヤツってのは、自由でいたいとか金持ちが嫌いとか性格に難有りとか、だな」


性格に難有り…って。ゼウォンてば結構辛口?

ま、でも、彼の言うことが現実なんだろうな。


あんなに行列ができるほど神殿に行きたがるのは、やっぱりこの世界の風習なんだと思う。

この世界では、伴侶を得た時や子供が生まれた時は、その年の主神の大祭で祈りを捧げるんだとか。

多くの者達は各地の街や集落にある小神殿でお祈りするんだけど、やっぱり4主神の大神殿でお祈りするのが一番いいとされてるみたい。

ここ西の地では〔土の神殿〕が最高峰で、一番人気のお祈りスポット(?)だ。


でも、土の神殿っていうのは結構行きづらい場所にある。

西の地の中央部は草木や泉が点在している砂地で、その砂地の更に中心部に森に囲まれた岩丘があり、その上にドドーンと建っているのが土の神殿なんだって。


裕福な人たちは転移が出来るお抱え魔法士がいるから問題ないけど、そうではない人たちは神殿に行きたいなら自力で行くしかない。

神殿まで行くには路銀も体力も必要だ。腕に自信がなければ護衛も雇わねばならない。

だったら、転移券買ったほうが手間もかからないし危険もないってことで、大人気なんだってさ。


ゼウォンが今回、土の神殿に行こうと決めたのも、私のことを一族に紹介することは出来ないけど主神へのお祈りはするよってことなんだって。

披露宴は出来ないけど、結婚式はするよってカンジかな。照れるなぁ…えへ。


ブーツと腕輪を頂戴した時に殿下やミーグがニマニマしてたのは、ゼウォンと私が結ばれたって察したからなんだろうな…恥っ。

「ゼウォンさんとユリーナさんの場合は特に」っていうのも、私達の事情を知っているからこその言葉だろう。


ちなみに私達はハフィスリード殿下のコネで、行きは王宮魔法士さんが土の神殿まで転移で送ってくれることになっている。

レギとルーシェも同行するつもりだったんだけど、土の神殿では人型をとらねばならないうえに、メチャクチャ混雑するって聞いて、魔鳥さんと魔竜さんは困り顔になっちゃった。


「オイラ、人混みは極力避けたいし~、此処で留守番してる」

「アタシ、人型になったことないの~…。グリンジアス王都でも充分楽しそうだし、レギと一緒に残ってる」


というワケで、結局はゼウォンと私だけ送ってもらうことになった。

でも帰りは自力になるので、お祈りが終わって土の神殿を離れたら私がレギとルーシェを召喚して、そのままグリンジアス王都には戻らずに最寄のギルドがある街まで行って、転移装置で北の地にある〔黒の民〕の王国ヴェノブラーグレへ向かう予定なの。


グリンジアスを拠点にするつもりは今のところないので、もともと〔土の神〕の大祭が終わったらグリンジアスから離れるつもりでいた。


数日前に今後の目的地を皆で話し合ったんだけど、ゼウォンの事情を考えると西の地から離れた方が良いということと、レギがライの実を食べたがっていることなどから、北の地に行くことにしたの。

黒の民の王国では私の黒髪もそんなに目立たないだろうしね。

それに今から5ヶ月後の水の黒月には〔水の神〕の大祭が開催されるとのことなので、しばらくはヴェノブラーグレを拠点にして、大祭が終わったらまた移動しようかってカンジになっている。


私としては〔無神の地〕に行ってみたいんだけど、当分は見送ることにしたんだ。

何だかんだ言って私もゼウォンと少しでも離れていたくはないし、レギとルーシェとも一緒にいたいしね。

頼れる仲間と世界各地を自由に旅するって、危険もあるけどワクワクして楽しそうだし。


西の地ではシプグリールとコルエン村とヌーエンとグリンジアス王都しか滞在しなかったけど、どこも良い街だったな。闇の帝団の本拠地では散々だったけどさ~…

北の地は、どんな街があるんだろう?ヴェノブラーグレ王国って、どんな所なのかな?

〔土の神〕の大祭も楽しみだけど、北の地も楽しみだな~。



この時の私は、大祭が終わったら予定通りにヴェノブラーグレ王国に行けるものだと思い込んでいた。



あんなことになるなんて…全く思っていなかった---



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