第48話~〔無神の地〕は簡単に行けないようです~
後半、らぶあまR15になります。
〔無神の地〕に行ってみよう、とは思っても。
行き方も分からなければ、どんな場所かも分からないんだよね。
大陸中央ってことだけど、ちゃんと道があるのかな?
「ね、ミーグ。〔無神の地〕って、大陸の中央にあるんだよね?どうやって行ったらいいのかな?」
『え?!ユリーナさん、もしかして…〔無神の地〕へ行くおつもりなのですか?』
「うん。すぐにってワケじゃないけど、そのうち行ってみたいな、って」
すると、それまで私とミーグの会話を静聴していたゼウォンが、急に私の肩を掴んだ。
「ユリーナ、本気か?!」
少し荒めの口調で私を凝視してきたゼウォンに、ちょっとビクっとしちゃう。
「あの…なんかマズイの…?」
ゼウォンの勢いに怯みながらもオズオズと尋ねると、彼はハッとしたように私の肩から手を離し、普段の口調で話し出す。
「〔無神の地〕は4神の御力を阻む地とも言われている。4主神のお護りする地で誕生した者にとっては不可侵領域なんだ。つまり、この世界で生まれた者は〔無神の地〕に入ることは出来ないから、どういった所なのかは誰も知らないんだ。楽園のようだという説もあるし、怪物の巣窟だという説もある。」
マジっすか?!
ちょっと行っとこっかな~なんて、気楽な気持ちで行くような場所じゃないんだ…
だけど、ギルド創設者の魔法士さんは〔無神の地〕に行ってるんだよね?
これは益々、風変わりな魔法士=異世界人だって説が有力になったな。
「しかしながら、ユリーナさんは4主神の影響を受けていない身。ならば〔無神の地〕に足を踏み入れられるかもしれませんね」
そう言ったのは、殿下だった。
殿下の言葉にミーグも賛同し、コクコクと頷いている。
『〔無神の地〕は常に〔最果ての終霧〕と同じような濃霧に覆われていると聞き及んでいます。地境付近の集落から自力で行く形になるんですが、もしユリーナさんが〔無神の地〕に行かれた暁には、どのような所なのか教えていただけますか?ワタクシ、大変興味がありますの』
「うん、いいよ。---殿下、ミーグにお知らせする時は、この伝達石を使用しても構わないでしょうか?」
「ええ。もちろん結構ですよ。私も〔無神の地〕には関心がありますし。ですが〔無神の地〕では伝達石を使えない可能性が高いですね」
そっか。伝達石や光源石などの原石となる魔石(ヘト石とかガマリ石とか何か色々あるらしい)も4神の賜物だっていわれてるんだ。
4神の力を阻む土地では、その効力も無効化しちゃうかもしれないよね。
「そしたら〔無神の地〕から帰還した後にでも連絡を入れるようにしますね。---とは言え、いつ行くかも分からないうえに、本当に行くのかも定かではないので、行くことが決まった時に一応ご連絡致します」
「そうして下さい。---それはそうと、皆さんは土の緑月一杯までは、この王都に滞在されるんですよね?主神の大祭は、土の神殿まで赴かれるんですか?」
殿下の質問に、私とレギとルーシェの視線がゼウォンに向いた。
ギルドの依頼とかもそうだけど、私達は決め事の結論をゼウォンに委ねちゃってる。
彼は独断で決めたりせず、ちゃんと私達の考えを聞いてから、自身の経験などを踏まえて物事を決めてくれるの。
柔軟に私達の意見や希望を取り入れてくれるし、決断力もあるし、リーダーシップあるよね。
チームリーダになるのを少し渋ってはいたけど、ゼウォンになってもらって良かったよ。
ゼウォンは私達3人と視線を交わした後、数秒間無表情になった。
「そうですね。ユリーナとルーシェは大祭未経験ですし、もしかしたら土の神降臨という幸運に巡り会えるかもしれませんしね。それに……」
そこで言葉を切ったゼウォンは何故か私を見ると、心臓爆発警報発令スマイルを浮かべた。
ぅきゃあっ、不意打ち!不意打ちで胸ズキュンっっ。
あ、ヤバ。顔が火照ってきた。
レギに「すぐ赤くなる~」なんて言われちゃったから赤面しないようになりたいのよ。
なりたいんだけど、今までだって狙って赤面してたワケじゃないからコントロールなんて出来ない~~っ。
内心でアウアウと焦っていると、殿下の表情が隙の無い王子様スマイルからニヤァってな意味深スマイルに変わった。
「ああ、なるほど。それは是非、土の神殿に行くべきですねぇ。ゼウォンさんとユリーナさんの場合は特に」
『そうですわね!ワタクシも主神のお恵みが降されることをお祈りいたしますわっ』
なんだなんだ?!
殿下やミーグだけでなく、レギまでニヤニヤしてる。ルーシェもニコニコしてるし、一体なんなんだよぅっ。
なんでニヤニヤされるのかイマイチよく分からないけど、ここで理由を聞くのは良くないと思う。
だって、絶対恥ずかしい思いしそうなんだもんっ。
ゼウォンと殿下が和やかに会話している間も、私は顔の赤みが治まるまで俯いていたのでした。
*****
チーム〔ナギナタ〕を元の指定場所まで再転移させたハフィスリードは、私室を出て真っ直ぐ執務室へと向かった。
ハフィスリードの後ろをついて歩く数人の護衛騎士の中にはアレフもいて、職務中の騎士らしく引き締まった表情をしている。
ハフィスリードの生母、ティルアリード陛下の側室エディリアと、アレフの母セリュリアは姉妹である。
ハフィスリードと同年代で従兄弟という間柄であるアレフは、成人前にはすでにハフィスリードに仕えていた。
自分に忠誠を誓い、陰日向で支えてくれるアレフに、ハフィスリードは全幅の信頼を寄せていたし、日頃の働きに感謝もしている。
もしアレフが誰かに好意を寄せることがあれば、協力を惜しまないつもりでいたハフィスリードであったが…
---よりによってユリーナさん、か。アレフも報われないと分かっているようだけど、こればかりは仕方ないことだからな…
ハフィスリードは絨毯敷きの長い回廊を歩きながら、守護精マイスミーグと記憶共有した情景を思い返す。
薄暗い地下牢
獄に繋がれた、見るも無残なアレフの姿
--生きることを諦めないでください--
水の魔力で手足を治し、アレフの命を救った彼女
屋敷に囲まれた庭園
明らかに力量差がある相手に立ち向かう彼女
薙ぎ払われ、華奢な身体を石像に打ち付けられても、戦意を喪失しない
そんな彼女を土巨人から身を挺して護る銀狼
--銀狼さんが、…ゼウォンが私のせいで傷ついたら、私は自分が許せないっっ--
捨て身とも思える無謀な行動をとった彼女
あんな風に、互いが相手の為に己の身を投げ出すことができるとは…
異種族なのに、あの2人には強固な絆があるのか…
チーム契約を持ちかけたのは、もちろん〔ナギナタ〕の面々の強さが並々ならぬものだからというのが一番の理由なのだが、ハフィスリードには別の私的感情もあった。
---あの2人の行く末を見たい。何の裏も無く、純粋にただ1人を想い続けることができる女性もいるのだと、証明してみせて欲しい。
ハフィスリードに近づく女は皆、欲に塗れた目をしている。
女性に対して冷めた感情しかないハフィスリードにとって、一途に相手を想うユリーナは貴重な存在なのだ。
澄んだ藍の瞳は、いつも彼を熱く見詰めていて、その態度がハフィスリードを和ませる。
権力争奪、損得勘定、条件計算、駆け引き…そういった裏を感じない純粋な思慕を露わにするユリーナを見ると、冷めた心の穴に暖かいそよ風が吹くような気持ちになるのだ。
アレフには、幸せになってもらいたい。
ユリーナには、ずっとブレることなく一途にゼウォンを慕っていてもらいたい。
---恋愛沙汰なんて、なるようにしかならないか。第3者がとやかく口を出すことではないな…
相反する気持ちを掻き消して、ハフィスリードは微かに苦笑した。
*****
ハフィスリード殿下に転移してもらった私達は、そのまま宿屋に戻った。
恋人同士になってから、ゼウォン&私で1部屋、レギ&ルーシェで1部屋になったのよ。
魔物的価値観では、ツガイは常に共にあるものなんだって。
ずっと一緒なのは嬉しいんだけど、毎晩毎晩求めるのは止めてねって真剣にゼウォンに言い含めたから、ギルドの依頼に支障をきたすほど身体がダルくなることは無い。
さて、と。〔無神の地〕の場所を確認しよ~。
ゼウォンから借りた世界地図を、書き物机の上に置いて眺める。
西の地の地図しか持っていない私と違って、各地を点々としてきたゼウォンは当然ながら世界地図を持っていたのよ。
この世界地図は魔道具の一種で、ギルド内の道具屋さんで販売されているんだって。
60cmくらいの正方形の石版みたいなカンジの地図で、10cmくらいの棒がセットになっている。
その棒で地図をトンとすると、その箇所を拡大させた地図に変わるのよ。
タッチパネルでズームってカンジで、ちょっと楽しい。
ま、拡大っていってもグー○ルマップのように鮮明で細かい地図ってワケじゃなく、RPGのワールドマップみたいに、ここは山、ここは森、この辺りに集落がある、みたいな表示なんだけどね。
大陸の中央を拡大させてみたけど、やっぱり地形は表示されなかった。
もう1回地図をトンとして元の世界地図に戻すと、次は西の地の最東端をトンとする。
「う~ん…最東端付近は山だらけなのね…。山越えしないと〔無神の地〕には行けないのかなぁ…」
ボソっと呟くと、ベットに腰掛けて何やら分厚い書物を捲っていたゼウォンが顔を上げた。
「ユリーナ?土の神殿までの道を確認してたんじゃなくて、大陸中央付近を見てたのか?」
うん、と頷くと、ゼウォンは微かに眉間に皺を寄せて、分厚い書物を亜空間にしまった。
そして自分が座っている真横に手を置き、私を見る。
キョトンとしていると、急かす様に手を置いた所を2,3度ポンポンと軽く叩くゼウォン。
促されるまま、私は書き物机から立ち上がると、ベットに近づいた。
ゼウォンの隣に腰掛けようと身を屈めた瞬間、急に腕を掴まれ引き寄せられたもんだから、バランスが崩れちゃって、よろめいた。
「ぅきゃ」
危なげなく私を受け止めたゼウォンは、すぐさま逞しい両腕で私を優しく拘束した。
背中ごしに感じる、彼の広い胸板。髪ごしに感じる、彼の温かい吐息。
私を抱きしめる腕に少し力がこもり、心地よい圧迫が上半身を駆け巡る。
首筋に彼の顔が潜りこんで来て、狼が額をこすりつけて甘えるように、スリスリされた。
「…ゼウォン?」
火照ってきた顔と身体を意識しないようにして、そっと呼びかけると、彼は更にすり付いてくる。
「本当に〔無神の地〕に行くのか?」
そう囁く彼の吐息が首筋をジンワリと刺激し、思わずピクっとしてしまう。
「う、ん。今すぐってワケじゃないけど…」
「俺は、行って欲しくないな」
え?っと思って振り返ろうとすると、そうはさせないよってなカンジで益々ギュッと力強く抱きしめられた。
「ユリーナ1人で不可解な地に足を踏み入れるなんて、賛成できるわけないだろ?どんな危険があるかもわからない、何かあっても助けられない…それに、戻ってこれるのかも分からないのに」
ゼウォンの唇が首から離れて、耳たぶを甘噛みされる。
大きな掌が、両脇から掬い上げるように胸をまさぐってきた。
「っっ…やっ、ゼウォン、だめぇ」
繁殖期でもない限り、連日連夜では求めないよって約束してくれたのにっっ
昨夜重なり合ったから、今夜は休息日のハズなんですケドっ
彼から与えられる甘い刺激に逆うも、一向に手の動きを止めてくれない。
「俺の傍にいたいと、離れたくないと言ったのは虚言じゃないよな?なのに、俺が行けない地へ行くつもりなのか?」
確かに〔無神の地〕に入れる可能性があるのは私だけなんだから、その間は当然ゼウォンやレギやルーシェとは離れ離れだ。
〔闇の帝団〕の時とは違うけど、得体の知れない地に1人で行くということに不安はある。
だけど…
「もちろん虚言なんかじゃないよ?ずっとゼウォンと一緒にいたい。でもね、私…あ、ちょ、やぁ」
真面目に答えようとするも、如何せんゼウォンのアヤシイ手の動きに翻弄されちゃって言葉が続かない。
「ちょ、ゼウォン?!連日はナシって約束したでしょっ?!」
「だから服は脱がせてないだろ?それに、オマエは俺のツガイなのに、どうして他の雄に触れようとしたんだ?」
「他の雄…って何のこと?」
「アレフとかいう王宮騎士に駆け寄って手を伸ばしたじゃないか。…殿下の前でなかったら止めてたのに」
「あれはっ、アレフさん〔闇の帝団〕の地下牢で首に毒っぽい斑点があったからっ、ちゃんと治ったのかなって確認しようとしただけだよ?!他意は無いってば!!」
もしかしてゼウォンてば、ご立腹?!穏やかな口調ながらも不穏な気配を感じるよぉっ。
なんか不実だって責められてる気分になるんですケドぉっ。
後ろめたいことなんて何一つ無いのに、どーしてぇぇ~?!
「そうか。だが、アレフとやらはオマエに懸想してるんじゃないか?そんな相手に思わせ振りな態度をとるのは、どうかと思うぞ」
「はぁ?!まさか!!懸想とか、有り得ないからっ」
「どうだかな…まぁ、いい。…それで?」
「それで…って??」
「俺と離れてまで〔無神の地〕に行きたがる理由は?」
そんな敢えて「俺と離れてまで」の件を強調しなくてもいいじゃんっ。
尋問されてるみたいに感じるので、その黒っぽい雰囲気消してぇ~っ
「〔無神の地〕に行けば、私がこの世界に来た意義が見出せると思ったの!」
少し大きめの声で言うと、ゼウォンの不埒な手の動きが止まった。
深呼吸して、今度は自分の気持を確認するように言葉を口にする。
「前にも話した通り、私、1度は命を失ってるのよ。だけど『監視者』のおかげで再び生きることが出来て、ゼウォンに出会えた。ゼウォンと想い合えて、この上なく幸せでいられるのも『監視者』のおかげなの。だから私、『監視者』の望むヘアグ活性化に尽力したいなって…これは確信に近い想像なんだけど、〔空間〕〔重力〕を開発した風変わりな魔法士って、きっと私と同じ異世界人なのよ。その人が新魔法を開発したのが〔無神の地〕なら、私も〔無神の地〕で何かできるかもしれないって思って…だから、いずれは行ってみたい。行くべきだと思うの」
一気に話して、ゼウォンの反応を待つ。
5秒経過--10秒経過--20秒経過--あれ?何の反応も無いなんて、どうしたんだろう?
抱きしめられていた腕の力が弱まっていたので、身を捻って彼を見上げると、何故か無表情だった。
でも、仲間以外の第3者の前でする無機質な無表情とは違うカンジがする。
窺うように紫の瞳を見詰めると「この上なく幸せ、なのか?」と小さく呟くゼウォン。
ん?私が〔無神の地〕に行く理由を知りたいって言ったのに、気になるところはソコなの??
ポイントずれてる気がしないでもないけど、それはそれで事実なので「うん」と頷く。
すると、ゼウォンは無表情から一変、腰砕けになりそうな極甘笑顔になって、一言。
「俺も、この上なく幸せだ」
その表情のギャップと甘い言葉に、クラリ。
これ以上、私を骨抜きにしないでくださいぃぃ~~っ
彼がソッと顔を近づけてきたので、私は自然にスッと目を閉じた。
唇同士を重ね合わせながら、横抱きのような体勢にさせられる。
いつもより少し長めのキスをした後、ゆっくりと唇の触れ合いを解いて、両腕を彼の首に回した。
見詰めあい、微笑み合う。
なんだか知らないけど、ゼウォンの機嫌がなおってる。良かった、良かった。
内心で胸を撫で下ろしながら、再度口付けを交わしたのでした。
「起きろ、ユリーナ。もう夜明け時だぞ」
「う~ん…おはよ~ゼウォン」
「おはよう」
「ふあぁ…朝の鍛錬しないと、つい寝過ごしちゃうなぁ……っっちょ、何?!」
「日付が変わったから、約束違反じゃないだろ?」
「え゛?!ええぇぇ~~っ?!」
*****
「おはよ~ゼウォン。あれぇ?ユリーナはまだ寝てるの?」
「まぁな、半刻もすれば起きてくるさ」
「ユリーナって結構お寝坊さんなのね~」
「…まぁな」
「(…オイラちょっとユリーナに同情)」